「ルビンの壺が割れた」 ★★ |
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2020年02月
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ネット上で偶然発見した懐かしい名前から、30年ぶりに男性から女性へメールを送ったところから始まる、往復書簡形式で語られるストーリィ。 ミステリとして読むべきか、それともホラーとして読むべきか。 いずれにせよ、書簡体小説って大好きです。 本作、友だちとの集まりで聞いた話が元になっているそうです。女友達の一人によるフェイスブックでの奇妙な体験談。それは実に恐ろしい話で、その場にいる人たちの心をぎゅっと鷲掴みにしたのだという。遊び半分で、その話をメール形式の小説に書いたのが本作とのこと。 メールを出した水谷一馬、受け取った結城未帆子、かつて2人は結婚する筈だったことがすぐ語られます。それなのにそうならなかったのは、当日未帆子が結婚式に姿を現さなかったから。 2人の間にどんな事情があったのか。 まずは大学時代、2人が演劇部の先輩・後輩として出会ったところから順々と語られていきます。 本作で目を見張らされるのは、メールの都度、局面がどんどん変化していくこと。 2人がそれぞれ抱えていた秘密が明らかになっている頃のは、既に読者はぐいぐいとストーリィの中に引き込まれている筈です。 最後は、冒頭からは全く予想もされなかった、驚くべき真相が明らかになります。その凄さ、そこへ至るスピード感はまさに圧倒的。 是非お薦めしたのは、読了後、再度読み直してみること。 そうすれば、ちょっとした文言に、後に明らかになる真相を示唆する言葉がどれだけ散りばめられているか分かり、再度面白さに興奮すること、きっと間違いありません。お薦め。 |
「はるか HAL-CA The Artificial Intelligence」 ★☆ | |
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「ルビンの壺が割れた」により評判となった覆面作家の第2作。 今回は、人とAIとの間で交わされる究極の愛の物語。 主人公の賢人は10歳の時、海岸で一人の少女と出会います。彼女の名前は「はるか」。 一目でお互いを恋し合った2人ですが、その後何年も会えない時を過ごした後、奇跡的に再会。2人はすぐ結婚しますが、僅か1年の後、はるかは事故死してしまう。 それから11年後、賢人は再婚して独立した後、画期的なAIの開発に乗り出します。名付けて「はるか再生プロジェクト」。 そして5年の歳月と莫大な資金を投じて、「HUL-CA」と名付けたAIは完成します。 そこまではSF的な展開。 しかし、HUL-CAは予想を超えた対応能力を示し始め、賢人は次第に取り込まれていくかのよう。 その辺りからの、畳みかけるような展開は、前作と同様、宿野さんならではのものと言って良いでしょう。 何が真実なのか。 HUL-CAの対応は単なるプログラムの結果なのか、それともITが持つに至った感情なのか。まさか本当にはるかが再現されたのでは・・・・。 後半はSFというより、現在の妻である優美まで巻き込んだ、ブラック的なサスペンスと言うべき展開。 同時にストーリィは、妖艶な悪女の虜にされる古典的な文学作品を思い出させられます。 最後はもはや〇〇しかないと思わされたところで、まさに急展開の決着。 本作の魅力を一言でいえば、展開の面白さ、でしょう。 その分、登場人物の人間描写は物足りず。 本作読了後、HUL-CAはどこまで本物だったのか?というSF的疑問が、いつまでも胸の中で後を引きます。 |