過去にトラウマを抱えつつ、足掻くように前進する駆け出しの漫才コンビを描いた長編。
漫才コンビが主役というと最近では畑野智美「南部芸能事務所」シリーズもありますが、私がすぐ思い出させられるのは山本幸久「笑う招き猫」。
とはいえ、本書、「招き猫」や「南部」とはだいぶ趣向が異なります。というのは第一に主人公である王串ミドロがそれなりの芸歴ある33歳と決して若くはなく、単純な駆け出しコンビの青春小説とはなりえないからです。
“ゼロワン”というコンビ名は、王串ミドロと相方である青山零21歳の名前から。
実はミドロ、高卒後声優養成学校に入り、それなりの実績ある声優。高校時代の同級生で大学在学中に新人賞をとり作家となった青山壱と、お互いに余業として漫才コンビ“アオミドロ”を組み結構人気を得ていたという経緯があります。その壱が過労死し、その弟である零と漫才コンビを組んだものの、ミドロ、零、2人とも壱の死というトラウマを抱えこんでいるのが実情。
それ以外にもミドロは、年齢からもう後がなく追い詰められているという思いや、零の人生への責任という重荷を背負い込んでいます。
そんな2人が、起死回生をかけて“マンザイ・グランプリ”に挑み優勝を狙うというストーリィ。
本作品の特色は、ユーモラスな青春ものという色彩は一切なく、漫才を演じる中においても常にサスペンス小説のようなスリリングさに覆われていること。その迫力はまさに凄みあり。
その一端を担っているのが、ゼロワンと競う人気若手漫才のクロエ兄弟。特に異常なまでの陰鬱さを身に纏った兄・黒江ユキの人物造形が圧巻、もうひとつ徹底しきれず、中途半端に足踏みをしているミドロの状況を浮き彫りにする存在と思えます。
それと対照的に緩和剤とも言えるのが、若手芸人食いの女子大生“ムネデカちゃん”ことマドカで、妙味ある登場人物。
サスペンス感いっぱいの後半の最後にどのような結末が待っているのかは、読んでのお楽しみです。
1.エースとキング/2.光源と道化師/3.Kと幽霊/4.ゼロと太陽
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