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11.鳥啼き魚の目は泪 12.誰かがジョーカーをひく |
【作家歴】、展望塔のラプンツェル、黒鳥の湖、ボニン浄土、夜の声を聴く、羊は安らかに草を食み、子供は怖い夢を見る、月の光の届く距離、夢伝い、ドラゴンズ・タン、逆転のバラッド |
「鳥啼き魚(うお)の目は泪」 ★☆ | |
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「清闥」は枯山水の名庭園で、戦前は華族の吉田侯爵家が所有していたもの。 吉田侯爵家の屋敷にあった元々の庭は<池水式>。 それが何故枯山水に作り替えられたかというと、関東大震災で岩が崩れ、池の中から10年前らしい白骨遺体が発見されたため。 ストーリィは、枯山水の庭を造るにあたり、溝延兵衛という庭師が吉田侯爵家に招かれたところから始まります。 庭造りが進められていく中で、所有者である吉田侯爵家の内幕、その難しい面が語られていきます。 語り手は、侯爵夫人である韶子付きの女中であるトミ。 吉田侯爵家の当主は吉田房興、男子のいなかった吉田家に養子として入った人物。先代夫人である御後室様(倭子)は、縁戚にあたる黒河子爵の慈仁を五女=準子の婿に迎えることを望んだが、準子が不義の子を妊娠し死産を経て死去したことから、房興が養子入りすることとなった、という経緯。 そのため房興・韶子夫妻に対し、倭子は不満を抱くこと多。 戦前の華族家の様子、枯山水庭園とは、そして侯爵夫妻と庭師の交流と、読みながら興味を惹かれる要素が幾つも複層的に繋がって現れてきます。 そして終盤、白骨遺体事件等々、吉田侯爵家が抱えてきた問題のすべて、その真相が明らかになっていく・・・。 最後の対決場面は、もう圧巻という他ありません。 ただ、何を描こうとした作品なのかという点で、イマイチ不満が残ります。 ※なお、本作題名は、芭蕉が「奥の細道」に旅立つ時に読んだ、別れの句とのこと。 |
「誰かがジョーカーをひく」 ★★ | |
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自分には何の取柄もないと自認している地味で平凡な主婦=川田沙代子は、傲慢な夫や姑、夫の連れ子3人から、まるで家政婦のような扱いを受けてきた。 この度も実家の窮状について、夫、姑から心無い言葉を浴びせられ、耐えられずに家を飛び出し当てもなく車を走らせていた処、その前に飛び出してきたのがキャバ嬢の城本紫苑。 車に当てられたと文句を言う紫苑に主導権を取られたまま、紫苑を車に乗せて走り出した沙代子は、紫苑が入れ込んでいるホストの桐木竣に言われたからと、公園に置かれたバッグを取ってこさせられます。 しかし、まさかそれが、誘拐事件の身代金だったとは。 竣が留守番を託されたという金持ち女性の家に身を潜めた紫苑と沙代子でしたが、何とそこに誘拐された筈の女子高生ギャル=入船陽向が押しかけてきて、自分を誘拐したのは社長である父親と対立する専務の叔父だと主張します。 キャバ嬢にホスト、女子高生ギャル、さらに<鬼炎>という犯罪集団を操る謎の男まで登場し、支離滅裂なドタバタ劇が展開されていきます。 次から次へと、いったい何なのだこれは、と言いたくなるような迷走が増していくばかり。 自分では何も考えられないまま紫苑らに押しまくられているばかりの沙代子でしたが、沙代子が自分を取り戻し、さらのその真価を発揮するのは、野草や薬草などに関する知識と料理の腕。 前半は、愚鈍と言うしかないような沙代子の有り様につい苛立ちを感じてしまうところがありましたが、終盤における沙代子の颯爽とした逆転ぶりはまさに爽快。 また、紫苑、陽向という問題児も、最初こそ憎たらしいところがありましたが、それぞれの人物の良いところも分かって来て、最後はスッキリとした決着です。 さて、多くの登場人物の中、最後にジョーカーを引くのは誰なのか。どうぞお楽しみに。 |