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1.非・バランス 2.象のダンス(文庫改題:未・フレンズ) 3.ピンクの神様 4.園芸少年 6.みかん、好き? |
●「非・バランス」● ★★ 講談社児童文学新人賞 |
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2006年05月
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本書のあとがきで魚住さんは、「“バランス感覚の優れたひと”とか“バランスのとれた人格”というのは、上級に属するほめ言葉。でもどうしてもバランスのとれないときが、誰にでもある。深い穴に落ちてしまったように感じ、もしかすると一生、その穴から抜け出せないんじゃないかと苦しむ。けれど実はそういうとき、ジャンプ台に立っている。これから大きく飛びたつための、ジャンプ台」と語っています。
本書はそんなバランスを失って、落とし穴に入り込んでしまっている中学生の“わたし”を主人公にした作品。 “わたし”は小学生の最後にずっと除け者にされて過ごしたことから、中学に入ってクールに生きること、友だちを作らないことを作戦にしている。 親や教師という大人が気づかない、少女の苦しみ、悩み。そんな少女の心の内が素直に描かれているところが本作品の良さ。 |
●「未・フレンズ(原題:象のダンス)」● ★☆ |
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2007年06月
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文庫化になったところを書店でみかけ、実は「非・バランス」より前に興味を惹かれていた作品です。
ソフト会社を経営する両親からずっと放って置かれっぱなし、という中学生の女の子、深澄(みすみ)15歳が主人公。 本ストーリィにおいて、何が正しいとか間違っているとか言うのは詮無いこと。 |
●「ピンクの神様」● ★★☆ |
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2012年04月
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冒頭の「卒業」から、いいなぁ、好きだなぁ、なんて上手いんだろう、のひと言に尽きます。
「卒業」は望んで消防署の消防隊員となった寿々が、大学に進学した高校時代の親友2人と時間が合わず、ただ一人置き去りにされたような寂しさを味わうというストーリィ。 上記2篇を初めとして、いずれも日常ありふれた、些細な人間関係の悩み事ばかり。それでも当の本人にとっては、大きな問題なのです。 重松清さんもこうした傾向の短篇集が上手ですが、ちょっと奇麗事過ぎるところがあります。 ※それにしても、ホームレスの老婆を勝手に神様と思い込んでしまうなんて、外見とは裏腹に内心では相当に追い込まれていたということでしょうか(「ピンクの神様」)。 卒業/首なしリカちゃん/ピンクの神様/みどりの部屋/囚われ人/魔法の時間/ベランダからキス |
●「園芸少年」● ★★ 日本児童文学者協会賞 |
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このところ部活をテーマにした学園小説が多くなっているのですが、殆どはスポーツ系。 それと対照的に、本ストーリィの舞台は高校の園芸部。ついに園芸部まで登場したかァ、というのが第一の思い。 花を育てるという園芸部に相応しく、本作品はささやかで気持ち好い学園小説です。 高校に入学したばかりの篠崎達也、帰宅部でもなくどの部活に入る訳でもなくとぷらぷらしていたらところを、部員の足りない体育系部からしつこい勧誘を受ける。たまたま居合わせた大和田一平と窮余の一策で園芸部に入部したと宣言したところ、何となくそのまま続けることになってしまった、という次第。 この3人、決してのほほんと高校に入学して来た訳ではない。中学時代からの痛みを各々引きずっていることが徐々に明らかにされます。 ※男の子3人だけの園芸部って、その姿を想像してみるだけで微笑ましいものを感じませんか。(笑) |
●「大盛りワックス虫ボトル」● ★☆ |
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![]() 2011年03月 講談社刊 (950円+税) 2011/05/30 |
地味で無気力、存在感の全くない中学2年生、江藤公平。 ある日突然現れた、小さな虫のような豆糸男に公平、「おまえの誕生日までに、人を1000回笑わせろ」と命令されます。 その言葉を無視した初日、公平は学校でエライ目に。 よんどころなく命令に従う他なくなった公平、文化祭にお笑いの出しもので出演しようと決意します。トリオを組んだのは、食べること大好きの三輪と、気取り屋の日比野。 さて、その成果は・・・・。 ヤングアダルト小説シリーズ「YA! ENTERTAINMENT」の一冊。 ユーモラスで訳の判らぬ展開ながら、同級生たちから各々何となく浮いていた3人が、お笑いをきっかけに、新たな自分を発見するという、現代的な少年成長物語。 そこはヤングアダルト作品ですから、軽いノリで、楽しく読めます。 何につけても、新たな可能性を見つけるというストーリィは、夢があるものです。 |
「みかん、好き?」 ★★☆ | |
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主人公の西村拓海は高校一年生。中学生の時、父親が故郷の島に戻ることを決めたため、家族で一緒に引っ越してきた。 しかし、虫も苦手な拓海、この島の暮らしに納得している訳ではない。 ある日、祖父のみかん畑で拓海は、奇妙な女の子に出会います。 その女の子はみかんが大好きといい、「よかった。やっぱりここが西村実さんのみかん園なのじゃ」と言い、大喜びしている。 何とその女の子が同じ高校で、特進科と普通科という違いはあるが、同じ一年生だったとは。 長谷川ひなたというその子は、わざわざ東京から入学してきて、寮生活。 そのひなたが自ら請うて祖父のみかん畑を手伝うようになったことから、祖父の頼みで拓海も作業に参加することになります。 拓海、ひなた、もう一人乱暴者と評判の総合学科の生徒=芝という3人の、祖父のみかん畑を舞台にしたささやかな成長物語。 ひなたにしろ、芝にしろ、拓海が思いもしなかった悩みを抱えている。そのことを拓海が知り、気持ちを通わせるところから、拓海の成長が生まれます。 景色の良い島の丘陵地にある祖父のみかん畑、みかんの甘酸っぱい香りが今にも漂ってきそうな爽快感に満ち溢れています。 このようにして少年少女は成長していく、そんな姿をまざまざと目にする思いです。 健やかな児童向け作品。読むだけで良い気分になれます。 |