浮穴みみ(うきあな)作品のページ


1968年北海道旭川市生。2008年「寿限無−幼童手跡指南・吉井数馬」にて第30回小説推理新人賞を受賞、受賞作を収録した連作短篇集「吉井堂 謎解き暦 姫の竹、月の草」にて作家デビュー。


1.
おらんだ忍者・医師了潤

2.めぐり逢ふまで


3.鳳凰の船

 


                    

1.

「おらんだ忍者・医師了潤−御役目は影働き− 


おらんだ忍者・医師了潤

2013年07月
中央公論新社刊

2017年03月
中公文庫

(820円+税)



2017/08/27



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町医者、でももう一つの顔は忍者。相反するキャラクターを一人の人物にまとめた連作時代小説かと思っていたのですが、さに非ずして本書は長編ストーリィ。

主人公の
笹川了潤は、伊賀忍者の末裔であると同時に蘭方医。
忍者の頭である父親の
仙庵が外で作った子であるという事情から本家から遠ざけられ、生田潤庵お貞を養父母として育ったという経緯。
ところが、笹川家の嫡男・次兄が相次いで病死、さらに仙庵が忍び仕事の途中で殺害されたという事情から、急遽笹川家の跡継ぎとされ、仙庵の死の真相調べに加えて、仙庵が請け負った仕事の継承を命じられます。

ぼぉーッとしたところのある了潤では危なっかしいと、年下の従妹でやはり女忍びである
真弓・12歳が江戸へ同行、その江戸では仙庵が率いる忍び組の一員であった、お蔦、如意、笑(えむ)という面々が了潤を迎えます。
一方、甘いもの大好きな新米同心=内藤伊織が、たまたま助けられたのを機に了潤にまとわりつき、何となく気忙しい。

キャラクター設定としては面白くなりそうだったのですが、最初から亡父が請け負った忍び仕事の継承、亡父殺害の真相究明という枠を嵌められていて窮屈なことに加え、幕府ではなく一大名、それも藩主ではなくその座も危ういお世継ぎから命じられた仕事という点がすっきりせず。
ということで、読後感としては今一つ。


風/おらんだ大目/緋牡丹フラムと白い梅/黒い涙とキンゴウジャ/天狗のコルベルト

         

2.
「めぐり逢ふまで−蔵前片想い小町日記− ★☆


めぐり逢ふまで

2016年05月
ハヤカワ文庫
(800円+税)



2017/01/02



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7歳の時誘拐されそうになったところを救ってくれた初恋相手を「光る君」と呼んで今も忘れることができず、23歳になった今や嫁き遅れと噂されるようになった札差<伊勢屋>の長女おまきが主人公。そんな訳で副題は「蔵前片想い小町日記」という次第。

そのおまき、流石に自分でも気になり次々と見合いに応じるようになりますが、いずれも相手はロクでもない男ばかり。
その一方でこれなら良いかも?という相手と偶然出会うことになるのですが、それら相手にはそれぞれの事情あり。おまき自身の縁どころか相手の縁結びのためにおまきが獅子奮迅の活躍をすることになるというコミカルな展開。

このおまきの人物設定がまことに現代的で、それ故に本書は“江戸版婚活日記”という様相です。
おまきの周辺人物も個性的。お付き女中の
お亀は、おまきを自由に行動させているようで締めるところは締めるという、しっかりした現実感をもったサポート役。また、おまきの幼馴染で同じ札差の息子、放蕩者である丈二とおまきのやりとりは、まるで漫才コンビのようです。
おまきの異母妹である
おあやは対照的なぶりっ子娘ですが、きわめて現実的な思考をしている現代ギャルという風。
コミカルで活気あふれる様々な恋模様が繰り広げられる、江戸市井もの連作ユーモアストーリィ。

・第一話での相手は、イケメンの若い見習い医師。
・第二話での相手は、まるで貴公子のような若い絵師。
・第三話での相手は、兄貴分だった幼馴染の助五郎?
・第四話は妹おあやの恋騒動。慌てふためきながら、おまきが妹のために大活躍。その一方、丈二とおまきの関係は?
・第五話は、おまきが光る君とついに再会できたのか、というストーリィ。


序章.蔵前嫁き遅れ小町/1.形見草子/2.夏一夜/3.ひとつ涙/4.舟人/5.めぐり逢ふまで

                 

3.

「鳳凰の船 ★★


鳳凰の船

2017年08月
双葉社刊

(1500円+税)



2017/09/12



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明治初期の函館を舞台にした5篇。
函館の発展に尽くした、あるいはその舞台にいた、男女、異国人を問わず様々な人々の姿を描く歴史ドラマ。

歴史に名を残した実在の人物もいれば、歴史の片隅にいた架空の人物もいるといった具合です。どの篇をとっても当時の函館の鼓動、そこに暮らした人々の息吹を感じられて、短篇でありながら一篇一篇が読み応えのある歴史小説として存在感を発揮しています。
何より、明治初期の函館を舞台にした着眼点がお見事。
なお、港町として発展する<函館>に対して、原野に政策的に建設された<札幌>という、北海道を代表する2つの街の対比も描かれていて面白い。

「鳳凰の船」:箱館稀代の船匠と言われた船大工の豊治が主人公。71歳になった彼の元を吹雪の夜に訪ねてきた人物は・・・。
「川の残映」:お雇い外国人と結婚して英国に渡って25年。夫の死後函館に戻ってきたとねが今思い出すことは・・・。
「野火」:北海道初代長官の岩村通俊が主人公。かつて七飯村開墾条約を結び開墾に尽くしたプロシア人商人を強引に切り捨てた選択は、果たして正しかったのか・・・。
「函館札」:“函館築島ガラス邸”と呼ばれた英国人ブラキストンの邸宅に女中として仕えたれん・16歳が主人公。函館発展のために興したブラキストンの事業を、明治政府の元薩摩藩士たちはことごとく妨害していく。ブラキストンの失意を描く篇。
「彷徨える砦」苦学のうえに米・独留学を経て設計技師として立身出世し、現在は函館港湾改良工事監督の立場にある廣井勇と、かつて恋仲だった志津とその夫のフランス人ピエールとの関わりを描いた篇。

動機や最終的な目的がどうであろうと、函館の発展に尽くした外国人たちの面影が、強く印象に残ります。


鳳凰の船/川の残映(なごり)/野火/函館札/彷徨える砦

          


   

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