津島佑子作品のページ


1947年東京生、太宰治の次女、本名:津島里子。白百合女子大学英文科卒。
76年「葎の母」にて第16回田村俊子賞、77年「草の臥所」にて第5回泉鏡花賞、78年「寵児」にて第17回女流文学賞、79年「光の領分」にて第1回野間文芸新人賞、83年「黙市」にて第10回川端康成賞、87年「夜の光に追われて」にて第38回読売文学賞、88年「真昼へ」にて第17回平林たい子賞、95年「風よ、空駆ける風よ」にて第6回伊藤整文学賞、98年「火の山−山猿記」にて第34回谷崎潤一郎賞および第51回野間文芸賞、2001年「笑いオオカミ」にて第28回大佛次郎賞、05年「ナラ・レポート」にて第15回紫式部文学賞および平成16年度芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。16年02月肺がんのため死去、享年68歳。

 


                 

  

●「黄金の夢の歌」● ★☆




2010年12月
講談社刊

(2200円+税)

2013年12月
講談社文庫化

  

2011/01/02

  

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アイヌの「夢の歌」であるユカラに端を発して、口承文芸の世界に興味を持ったという湯島さん。
本書は、北にカザフスタン、東に中国と国境を接する中央アジアの高原の国=
キルギスを中心にして、遊牧民族の間に伝承される「夢の歌」を津島さんが訪ね歩いた足跡を記録した一冊です。
キルギスの「夢の歌」が
「マナスの歌」という次第。
津島さんに言わせると、どの「夢の歌」でも、登場するのは大人の英雄というより、元気いっぱいな男の子、というイメージなのだそうです。
アイヌもそうですが、固有の文字を持たず、定住の農耕民族でもない遊牧民たちの伝承は、「夢の歌」を歌い継ぐという方法で行われてきたという。
ましてユーラシア大陸に生きてきた遊牧民には、常に強国(匈奴、唐、モンゴル、ソ連)からの支配を受け続けてきた歴史があって、だからこそ民族として生き延びる過程で「夢の歌」が豊富に歌い継がれてきたのだと言います。

という訳で本書、一般小説でもファンタジー小説でもありません。内容からすれば紀行に近いのですが、といって紀行とはまた違った印象があります。
紀行であれば、自らの日常生活、日本社会と比較することによって現地の暮らし、社会を明確に捉えるということになるのですが、その点が本書ではぼやーっとしている。
何故かというと津島さんによる本書の旅は、キルギス等の地に自ら足を踏み入れることによって、その空気から「夢の歌」を嗅ぎ取ろうとする風であり、実際にそうなのです。
高度3000m以上の地に広がるキルギスの放牧地=
ジャイロは、まさに時を越えて今もマナスたちの声が聞こえてくるような雰囲気があるようなのです。
キルギスを中心として、行程は中国の黒竜江(アムール川)沿岸の町・
黒河市、そして内モンゴル自治領にも至ります。

アレキサンダー大王の遠征にまで話が及ぶ本書は、中央アジアの国々の様子を学ぶことにも通じて興味深いところ多いのですが、予め内容を承知していないととらえどころがないように感じるのも事実。
何も知らないまま本書を読みだしてしまった私、まさにその例となった読者です。
それでも、こうして日本からはるか離れた彼らの伝承を知ると、富や経済的な発展とは別の尺度、民族として長い歴史の中でどう生きてきたかという尺度があることを感じさせられます。

      


   

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