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1.ぼくたちのリアル 2.十一月のマーブル 3.ゆかいな床井くん 4.トリコロールをさがして 5.ジャノメ 6.ぼくらは星を見つけた |
「ぼくたちのリアル」 ★★★ 講談社児童文学新人賞、児童文芸新人賞等 | |
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題名の「リアル」とは、秋山璃在(リアル)という同級生の名前。 スポーツ万能、成績優秀、性格も良く、何をやらせても達者。必然的に女の子たちからも人気絶大、という存在。 ヒーローとしては申し分ないが、家が隣同士の幼馴染、何かと比べらてしまう主人公=飛鳥井渡にとっては、近づきたくない相手という次第。 それなのに小学5年、渡はリアルと同じクラスに。そして転校生で、きれいな顔の男の子=川上サジが2人に加わります。 それからなんだかんだと3人でいることが多くなり・・・。 3人で行動を多くするうち、リアルが決して完璧な男の子ではなく、表面的に繕って弱みを隠していることに気づきます。 ヒーローのリアルに対し、地味なアスカ、人付き合いの苦手なサジと、3人は対照的なようですが、それぞれの持ち合いが次第に発揮されていくうち、いつしかお互いに助け合う仲になっていきます。 何か相手のためにできることはないか、とお互いに考えるようになり、そして実際の行動へと繋がっていく。 次第に深まっていく3人の友情が瑞々しくて、感動的。 それなのにあぁ・・・。だからこそ、3人それぞれにとって忘れ難い思い出になることでしょう。 本作を読めばきっと3人の仲間になれることでしょう。お薦め。 1.ぼくたちの出会い−人気者X転校生X平凡なぼく/2.ぼくたちの知恵−合唱祭・イントロクイズ・登校拒否/3.ぼくたちの放課後−秋山写真館→ハンバーガーショップ→放送室/4.ぼくたちの選択−悪口÷アイスキャンディー=真実/5.ぼくたちのひみつ−リアルの過去〜ぼくのいま〜サジの未来/6.ぼくたちのリアル−超ダセ+ひとり旅=??? |
「十一月のマーブル」 ★★☆ | |
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小6の波楽(はる)は、小説家の父、TVレポーターの母、そして小1の妹=美萌(みも)という4人家族。 しかし、波楽は母と血は繋がっていない。4歳の時父親が再婚した相手だから。 ある日父親の書斎で偶然、「亡妻華子(かこ)の七回忌供養をいたしたく存じます」という案内葉書を見つけてしまう。 それは、2歳の時、別の男性を好きになったと、父親と波瑠を置いて家を出て行った、自分を産んだ人の名前。 波楽は父親たちに内緒で、その葉書の差出人=井浦凪という人を訪ねていく。 そしてその人物は、真面目そうでとても若い人だった・・・。 一方、通っている付属小学校で波楽はレン(連城)と親友の間柄なのですが、何故かレンからの取り決めでお互いに学校内では知らんぷり。でも待ち合わせていつも一緒に帰る、という状況。 波楽が、母親が自分を捨てることになった凪とどう関わり合うのか、という点に興味を惹かれますが、波楽が抱える不安は実は他のところにあった、というのがこのストーリィ。 波楽といい、レンといい、こんな問題を抱えるなんて、小6生にはあまりに過酷、せめて中高生くらいならと思いたくなります。 昔の子供たちと比べ、現代の子どもたちは遥かに複雑な問題を抱え込むようになったのでしょうか。 大人の役割は、そんな子どもたちが少しでも楽でいられるような社会を作っていかなければならないのだろうな、と思います。 プロローグ/1.とうさんの書斎で/2.凪という人/3.マジック〜伝説のマーブルチョコ〜/4.左ききの孤独/5.ぼくの未来のために/エピローグ |
「ゆかいな床井くん(とこい)」 ★★★ 野間児童文芸賞 | |
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いいなぁ、これ。雰囲気がとても良いんだよなぁ。 何より、子供たち一人一人が、お互いを理解し合おうとしているところが素晴らしい。 主人公である三ケ田暦(みけたこよみ)と、隣席で暦を「ミケ」と呼ぶ床井歴(とこいれき)を中心に、小学校6年2組の1年間を描いたストーリィ。 と簡単に言ってしまうのは勿体ない。同級生一人一人を、月ごと1年間に亘って描いていくという構成の14章。 ちょっと気にし屋さんで真面目な性格の暦、ユーモアがあって人気者の床井くん、この2人のコンビが同級生たちの個性を魅力的に引き出しています。 クラスの中、フツーなら上下意識、上下関係があったりするものですが、本作においてそんな気配は全くなく、一人一人皆対等、という印象です。 皆が、お互いの個性を認め合い、尊重し合う・・・・こんな雰囲気、こんな生徒たちばかりなら、イジメ問題など起きないだろうなぁと感じます。 戸森さん、上手い! 素敵!です。 なお、確かに床井くんの存在が目立っていますが、主人公は6年2組の生徒一人一人であると言って良いのではないでしょうか。 お薦め。 暦と歴/おっぱいについて/失われた羽/文具のかみ/スタバッタ/気まぐれ自販機/アンサーポール/写真うつり/レンタルパパ/こもりえるちゃん/お菓子の家/ちょいと/響くんの作文/おそろい |
「トリコロールをさがして」 ★★☆ | |
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小4の真青(まお)が目下抱える悩みは、大好きな幼馴染の小6・真姫(まき)が最近自分に対して冷たくなったこと。 真青の方は真姫といつも一緒にいたいと思っているのに、真姫の方はむしろ真青を邪魔に思っているのだろうか。 そんな真姫にとって今一番大事なことは、おしゃれ、しかも少女向けのブランド“トリコロール”のことらしい。 真青のことよりおしゃれのことの方が余っ程大事という真姫のそぶりに、真青は心を傷つけられます。それでも真姫が大好きだという思いは変わらない・・・。 小学生女子の小さな成長物語です。 世の中に変わらないというものはない、成長していけば関心も思いも自然と変わっていくもの、ということを真青が学んでいくストーリィです。 本書で真青は、真姫のことばかり見ている観がありますが、真姫に仲の良い友だちができているのと同様に、真青にも仲の良い友だちは出来ているのです。 ただ、仲の良い友だち同士であっても、考え方や思いに多少の違いがあって不思議はないし、うっかり口にしてしまった言葉で相手を傷つけてしまったことを、後になってから気づいて後悔することもあります。 それも成長の過程、学んでいく事々なのでしょう。 ただ、それを親が教えてくれるかと言えば、中々難しい。真青にとって幸運だったのは、それを優しく丁寧に教えてくれる大人と出会えたことでしょう。 友情物語としてさらっと読み終えられてしまう作品かもしれませんが、大人が読んでも含蓄のある、大事にしたいと思うストーリィです。 プロローグ/1.真姫ちゃんは変わった/2.トリコロールって・・・・?/3.キコクシジョト、まちがいさがし/4.るみ先生のアトリエ/5.海賊のピアノ/6.ふたりプラスひとり組/7.トリコロールへ/8.ファッションデザイナーの仕事/9.白いランドセル/10.三色のひみつ/11.好きときらいは |
「ジャノメ」 ★☆ | |
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山の上動物園に飼われているインドクジャクのメス=ピーコと、何故かピーコと会話が通じた少年との、長きにわたる友情を描いたストーリィ。 インドクジャクのピーコ、かつてはバードームから外へ出て園内をあちこち歩き回ったものだが、今はバードームから出ることはなく、“ひきこもりのピーコ”と言われている。 その訳は、かつて仲よくなった少年シンジの成長によって、シンジとの会話が通じなくなり、シンジが動物園を訪れることがなくなったから。 しかし、ピーコとシンジの友情は、壊れたり消えたりしたのではなく、ずっと続いていた・・・。 ピーコとシンジの友情物語はさておき、飼育員と鳥たちの、鳥たち同士の(特にピーコとハシビロコウの「ハッシー」との友情)アットホームな関係が楽しい。 また、新米飼育員の杉尾、すぐ迷子になってしまうと、先輩飼育員たちが嘆く様子も笑わされます。 どういった結末が待ち受けているかは、どうぞお楽しみに。 ※なお、「ジャノメ」とは、「インドクジャクのメス」を縮めてシンジがピーコに付けた名前。 |
「ぼくらは星を見つけた」 ★★ | |
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主人公となる岬峻(岬くん)は、住み込み家庭教師の募集に応じて丘の上にある青い屋根の屋敷にやってきます。 主人である桐丘そらさんから即時に採用された岬は、その日からこの屋敷で暮らすことになります。 一緒に暮らすのは、主人のそら、10歳の星(せい)と、住み込みハウスキーパーのシド、そしてそらの愛猫ダリア。 すぐ星と打ち解けるようになった岬ですが、何故かシドからはまるで拒否されているような雰囲気。 一緒に暮らすうち岬は、この屋敷には何か隠されていることがある、と気づきます。しかしそれは、いったい・・・・。 家族を作り損なってしまった人たち、家族になりきれないでいる人たち、岬がそうした桐丘家の中に入り込むことになったのは、触媒としての役割を期待されたからでしょうか。 実際、岬の存在と行動が、桐丘家の屋敷に住む人たちを動かしていきます。 本作は、家族を作り損ねた人たちが、新たに家族を作りだそうとするストーリィ、と言って良いでしょう。 児童文学ですからそこは優しい物語になっていますが、それでもそらさん、星、シド、そして岬くんと、それぞれが相手を幸せにしてあげたいという気持ちが優しく流れている処が、格別に感じられます。 血の繋がりより、まず互いの気持ちを大事にしたいものです。 エピローグでは、シドの表情の変化が嬉しい。 彼らのこれからに幸あれ、と祈ります。 プロローグ/1.行合の空/2.星の空/3.眺めの空/4.心の空/5.旅の空/6.名残の空/エピローグ |