遠田潤子作品のページ No.2



11.銀花の蔵

12.雨の中の涙のように

13.紅蓮の雪

14.緑陰深きところ 

15.人でなしの櫻 

【作家歴】、月桃夜、アンチェルの蝶、カラヴィンカ、雪の鉄樹、あの日のあなた、蓮の数式、冬雷、オブリヴィオン、ドライブインまほろば、廃墟の白墨

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11.
「銀花(ぎんか)の蔵 ★★


銀花の蔵

2020年04月
新潮社

(1700円+税)



2020/05/03



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1968年、小4の銀花は両親と一緒に大阪の文化住宅で暮らしていましたが、画家を目指していた父親が家業の醤油蔵“雀醤油”を継がなければならなくなったといい、奈良橿原市にある父親の実家に引っ越すことになります。
その実家には、厳格な祖母=
多鶴子、銀花の一歳上という叔母=桜子、杜氏の大原が待ち受けていた。
そこから50年にわたる、醤油蔵を守って生き抜いた銀花と、その家族の物語。

ひとりの少女の成長とその生涯を描いた物語という点では、特に珍しいものではありません。
しかしその冒頭、蔵を新しくする工事が始まった折、その蔵の床下から子供の髄骸骨を納めた箱が発見されるという衝撃的な事実から語り起こされるところが、遠田作品らしいところ。

元々家業に向かずその仕事を嫌っていた父親、窃盗症の母親という2人の間に置かれ、銀花は心を痛めるばかりですが、それにとどまらず運命は銀花を次々と苦しい状況に追い詰めていきます。
だからこそ本ストーリィから目を背けられず、といった風。

成長ストーリィに困難毎は当たり前のようですが、銀花に降りかかってくる困難事は銀花を傷つけるものばかりと言えます。
その最たるものが家族の瓦解。それでも他に行く場所がなく、醤油蔵の仕事で生きていくしかないという覚悟、孤立しようが自分の道を誤らない強さが銀花の真骨頂。

理屈ではなく、困難を凌ぎ自分の道を通して生き抜いた銀花の見事な姿が圧巻。
読み応えのある、女性とその家族の一代記。お薦めです。

序章.竹の秋/1.1968年夏/2.1968年秋〜1973年/3.1974年〜1976年/4.1977年〜1982年/5.1983年〜2018年春/終章.竹の春

               

12.
「雨の中の涙のように ★★☆


雨の中の涙のように

2020年08月
光文社

(1600円+税)



2020/09/03



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遠田作品については、主人公が辛い境遇の下に育ってきたという設定が常、という印象が強いのですが、本作はまるで異なり、これって遠田作品?と読みながら感じていました。

7人の人物の人生ドラマ、その転機となる瞬間にいずれも、人気アイドルから実力派俳優となった
堀尾葉介の姿が在った、という設定からなる連作ストーリィ。

各人の人生ドラマに本来、堀尾葉介は何ら関係ありません。
でもふとした転機に、堀尾葉介が絡む、なんてまるで幸福をもたらす天使のようじゃありませんか。
でも、その堀尾葉介自身が、各登場人物の誰よりも重い記憶、拭い取れない過去を抱えていた、と描いているのが最終章。
この最終章があるからこそ、ぐんと本作の重みが増し、そして救いの物語になっていると感じさせられます。

各章で描かれるのは、各人の人生ドラマにおけるほんのひと時のこと。
それでも、その僅かな語りの中にその人の人生全てが滲み出てくるように感じられ、遠田さんの上手さに唸らされる思いです。
是非、お薦め。

「垣見五郎兵衛の握手会」中島伍郎は昔、時代劇の大部屋俳優。ふとしたことで過去の出会いが蘇る・・・。
「だし巻とマックィーンのアランセーター」:独身のまま鶏卵店を営む小西章、女性関係のトラウマになったのは・・・。
「ひょうたん池のレッド・オクトーバー」:23年ぶりに帰国した村下九月、思い出すのは葉介とその母親との出会い・・・。
「レプリカントとよもぎのお守り」:高級別荘地でレストランを営む志緒のヒモとなっている横山龍彦、知り合いになった品の良い老夫婦は、堀尾葉介の実父と義母だった・・・。
「真空管と女王陛下のカーボーイ」:ペット探偵の丸子浩志、堀尾葉介の事務所から、役作りのための取材依頼を受ける。
「炭焼き男とシャワーカーテンリング」岩田近夫、聞いてもらいたい話があると、ロケに来た堀尾葉介を訪ねていく。
「ジャックダニエルと春の船」:貨物船船長の玉木順二は、今も転校生にした卑怯な振る舞いへの後悔を抱えている。
「美しい人生」堀尾葉介自身の、誰も知らない人生ドラマ。

1.垣見五郎兵衛の握手会/2.だし巻きとマックィーンのアランセーター/3.ひょうたん池のレッド・オクトーバー/4.レプリカントとよもぎのお守り/5.真空管と女王陛下のカーボーイ/6.炭焼き男とシャワーカーテンリング/7.ジャック ダニエルと春の船/最終章.美しい人生

            

13.
「紅蓮の雪 ★★


紅蓮の雪

2021年02月
集英社

(1800円+税)



2021/02/26



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両親から捨て置かれ、2人で支え合いながら育ってきた双子の姉弟=朱里伊吹
東京の大学に進学し、老舗旅館の息子から熱心にプロポーズされて婚約、やっと幸せを掴んだ筈の朱里が唐突に婚約を破棄し、しかも地元の山城から飛び降りて自殺してしまう。
何故、朱里は自殺したのか。
その理由を知りたいと伊吹は、朱里の遺品の中に大衆演劇
「鉢木座」の半券を見つけ、同一座の公演を観に行きます。
そして伊吹を目にした若座長=女形の
鉢木慈丹から強引に口説かれ、伊吹は一座に役者として入団するのですが・・・。

大衆演劇一座の世界を覗き見る面白さもあるのですが、家族の愛情に恵まれずずっと孤独だった伊吹と、家族的な大衆演劇一座という対照的な絡みが興味深い。
また、幼い頃父親に「汚い」と突き放されたのがトラウマとなって、人と触れ合うのが怖いという伊吹が、新人女形として人気が出て来て観客と触れ合わなくてはならなくなるという矛盾。
何とかしたい、しなくてはならないという伊吹の葛藤は、苦しみもがく青春成長物語として心惹かれます。

しかし、ある事件の後、両親がずっと隠していた事実を伊吹は知ることとなり、そしてついにその事実と対決することになる。
そして、朱里が死を選んだ理由とは・・・。

明らかになるのは衝撃的であり因果とも思える事実ですが、その事実が余りに圧倒的であるだけに、本ストーリィの印象がそれだけに固まってしまう懸念を感じます。
でも決してそうではない筈。朱里の願いも、慈丹たちの願いも、その事実を乗り越えて伊吹が自身のために足を踏み出すことにある筈ですから。
その意味で本作は、青春成長物語の、苦難に満ちたプロローグ篇と言って良いと思います。


序章/1.開幕/2.お花/3.鶏/4.誕生日/5.和香/6.傷/7.庚申丸/8.紙雪

                  

14.
「緑陰深きところ ★★☆


緑陰深きところ

2021年04月
小学館

(1700円+税)



2021/05/19



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大阪でカウンターだけのカレー屋を営んでいる三宅紘二郎・70代の元にある日、一通の絵葉書が届く。
差出人は兄の
征太郎。50年前、紘二郎が今も住み続けている旧・三宅医院で兄は、妻の睦子と義父、さらに5歳の娘を殺し、20年の刑を受けていた。
緑陰深き処で安らかに暮らしている、と紘二郎を嘲弄するかのような葉書に紘二郎は、
「兄さん、今からあんたを殺しに行くよ」と決意を固める。

中古車屋で希望した
コンテッサを購入した紘二郎は、兄の住む大分県日田市に向けて走り出そうとしますが、その紘二郎を止めようと現れたのは金髪頭の青年リュウ
リュウ、中古車屋で店長だった、そのコンテッサは元は2台の車を切って1台に繋げた「ニコイチ」で危険な代物だと警告。
そのリュウを交替運転手として雇った紘二郎、そこからリュウと2人のロードノベルが始まります。

一般的なロードノベル、思わぬ出会いや困難、喜びや感動が待ち受けるものとはまるで異なるストーリィ。
何故ならこれは、陰惨な過去、拭いきれない後悔を辿る旅なのですから。
大阪から倉敷、岡山を辿り目的の日田市まで。その間、三宅兄弟の睦子の間に何があったのかが、語られていきます。

そして行き着いた日田で明らかになる、事件の真相。そして、リョウの悲惨な過去、それに増す過酷な運命・・・。

相手の気持ちを無視した自儘な思いが、どれだけ多くの人間を不幸せにしたのか。まさに胸詰まる思いです。そして、残された日々に僅かにできることは何なのか・・・。
言葉もない結末ですが、最後、脇役2人の笑顔に、僅かに救われた気持ちがします。


序章.雛の家/1.令和元年5月12日 大阪 四天王寺/2.令和元年5月13日 倉敷 ビーンズヴァレー/3.昭和31年3月3日 大阪 三宅医院/4.令和元年5月14日 岡山 高橋硝子店/5.令和元年5月15日 岡山 湯郷温泉/6.令和元年5月16日 岡山 吉備津神社/7.昭和47年5月14日 大阪 三宅医院/8.令和元年5月17日 日田 兄の家/9.令和元年5月18日 再び倉敷 ビーンズヴァレー/10.令和元年5月19日 日田 咸宜園/終章.緑陰深きところ

                      

15.
「人でなしの櫻 ★★


人でなしの櫻

2022年03月
講談社

(1600円+税)



2022/04/23



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人間の強烈に深い“業”を描き尽くした長編。

主人公である日本画家の
竹井清秀は、妻子を喪ってから生きた人間を描けず、その作品から<死体画家>と揶揄されている。
その清秀がずっと絶縁関係にある父親の
竹井康則は、老舗料亭「たけ井」を継ぎ、今では天才的な料理人として高く評価されている人物。

ある夜、その康則の秘書兼運転手である
間宮から「今すぐ来てほしい」という電話を受け、清秀が教えられたマンションに赴くと、そこには康則が遺体となって横たわっていた。
さらに驚くべきことは、部屋のひとつに怯える全裸の少女がいたこと。
何と康則は、その少女=
蓮子(れんこ)を8歳の時から11年間部屋に閉じ込めたままだったのだという。
そのことが明らかになり、少女の身元、その家族が判明すると、当然ながら大スキャンダルとなり、小説家で文化人でもある伯父の治親と清秀は世間の批判にさらされます。

何故康則は少女を閉じ込めていたのか。そこには康則の“業”が浮かび上がってきます。
一方、清秀もまた、死んだ父親のマンションで見た蓮子に惹かれる気持ちを抑えきれなくなる・・・。

“業”は大なり小なり、人間なら誰しも心の奥に抱えているものなのでしょうか。それとも、康則・清秀父子だけが持つ異常性なのでしょうか。
強烈な“業”で貫かれた本作、余りに強烈過ぎて、圧巻と感じる一方、ストーリィから置き去りにされたような思いもあり。

最後は、あるべくしてあるといった結末が待ち受けています。
そこには、静かな休息だけがある、といった印象です。
したがって嫌悪感とか不快感といった感想はなく、ひとつの終幕を感じるのみ。
読み手の好み次第と思いますが、読み終えた達成感は得られる筈です。


序章.腐れ胡粉/1.焔/2.人形/3.嫦娥/4.蓮情/5.ジュ・トゥ・ヴ/終章.人でなし

      

遠田潤子作品のページ No.1

    


   

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