鳥羽 亮作品のページ


1946年生、埼玉大学教育学部卒。90年「剣の道殺人事件」にて第36回江戸川乱歩賞を受賞。剣豪小説、時代ミステリ分野にて活躍中。


1.剣客春秋−里美の恋−

2.剣客春秋−女剣士ふたり−

3.剣客春秋−かどわかし−

  


 

1.

●「剣客春秋−里美の恋−」● 



 
2002年12月
幻冬舎刊

(1400円+税)

2004年4月
幻冬舎文庫化

 
2003/04/20

「剣客春秋」という題名から、池波正太郎“剣客商売”シリーズを思い浮かべるのは私だけでしょうか。“剣客商売”、シリーズ化を意識した作品だろうか、というのが興味をもった所以。

町道場師範の娘であり、自ら剣を遣う男装の里美が、通りがかりに複数人から暴行を受けている若者を救ったのが、ストーリィの始まり。
その若者が彦四郎であり、里美に出会ったことを切っ掛けに再び剣への情熱を取り戻し、千坂道場に通うようになります。ところが、賭場の博徒たちに一旦目をつけられた彦四郎は、そう易々と足を抜く事は許されない。一方、彦四郎を救う際に里美が直面したのは、人斬り兵部と異名をとる恐ろしいまでの剣の達者。本ストーリィのすべてが出だしに凝縮されていると言えます。
しかし、「剣客商売」の秋山小兵衛や大治郎、佐々木三冬のような活躍を期待してはいけない。本ストーリィは極めて常識的な範囲で展開していきます。
最後にストーリィの鍵を握るのは、娘のため自ら事件に乗り出さざるを得なくなった父親の道場師範・千坂藤兵衛
剣客もの時代小説と思いきや、根底にあるのは父娘ストーリィだったのかもしれません。味わいも比較的淡白です。

   

2.

●「剣客春秋−女剣士ふたり−」● ★

 

 

2003年5月
幻冬舎刊
(1400円+税)

2004年6月
幻冬舎文庫化

  

2003/06/12

“剣客春秋”シリーズ2作目。
町道場主・千坂藤兵衛と娘・里美を中心とした時代小説。
本来の主人公は藤兵衛なのでしょうが、この人物、実直にして極めて地味。その藤兵衛が主人公らしい迫力を出すのは、どうしても剣戟交わる最終場面になってきます。その分、女剣士・里美が前半に彩りを添えるというパターン。したがって、このシリーズ、藤兵衛と里美の父娘コンビの時代小説と言って間違いないでしょう。

ストーリィは、藤兵衛の昔の弟子が斬殺され、残された子供=幼い姉弟が仇討ちのため江戸にのぼり、藤兵衛に助太刀を頼むところから始まります。姉弟そろって千坂道場で剣を習うことになるのですが、里美と姉娘・初江の2人の様子が、まさに女剣士ふたり、という次第。
仇討ちといっても、相手が必殺剣を遣う手練れ者だけに、容易なことではありません。姉弟とも、今まで剣を振るった事がなかったという幼さ。まして、その仇討ちが藩内抗争と無縁でないだけに、藤兵衛としても安易に助太刀を肯じえません。
しかし、一旦助太刀を決意してからの、藤兵衛が姉弟に課す修行の厳しさ、そして最後の決闘場面の凄絶さ、その辺りが本作品の読み処でしょう。
そしてまた、本ストーリィを通じて、里美も成長する処あり。このシリーズ、里美のビルドゥイング・ロマンスでもあります。
池波正太郎“剣客商売”路線と逆を行くようでいて、重なる部分もあり、“剣客商売”を抜きには語れない作品です。

     

3.

●「剣客春秋−かどわかし−」● ★

 

  

2004年2月
幻冬舎刊
(1400円+税)

2006年4月
幻冬舎文庫化

 

2004/04/22

“剣客春秋”シリーズ3作目。
今回は、北町奉行所与力、同心各々の息子が誘拐され、それを脅し材料にした押込み強盗事件が連続して発生。誘拐された子供の内の1人が千坂道場の門弟だったことから、女剣士・里美らも探索に乗り出しますが、その里美までも一味に誘拐されてしまう、というストーリィ。
本シリーズは、時代小説作品の中でもとりわけ地味な作品です。それなのに何故読むかと言われれば、池波正太郎「剣客商売」を意識したシリーズ名に当初惹かれ、時々時代小説を読みたくなること、シリーズものは安心して読めるからと答えるほかありません。本シリーズは、そうした点で手が伸び易い作品。折り良く図書館に入館したとなれば尚更です。

「剣客商売」の秋山小兵衛・大治郎父子+三冬に相応するかのように、千坂藤兵衛・里美父娘+彦四郎が主要な登場人物となっていますが、前者と比較するといずれもスーパーヒーローでもないし、華やぎもあまりない。強いて言えば、藤兵衛のいぶし銀のような地味さが、秋山小兵衛に対抗しうる渋い味わいを発揮している、と言えます。
それにしても、「剣客商売」で三冬が誘拐された一篇をつい思い出してしまうようなストーリィ展開。「剣客商売」と比べつつ読んで楽しむというのは、おそらく鳥羽さんの意図する範疇のことでしょう。

 


  

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