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1.余命 2.雪になる 3.空しか、見えない |
●「余 命」● ★★☆ |
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2008年12月
2006/07/06
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38歳になる女性外科医、百田滴が向かい合うことになった明と暗。それは初めての妊娠と、時を同じくする乳癌の再発。 外科医であるが故に自分の置かれた過酷な状況を滴はすぐ悟ります。出産しようとすれば、それは胎児と共に癌も育てることに他ならないということを。 癌の再発を告げれば出産を反対されるに違いない。そのため愛する夫にも同僚の医師にも癌の再発を一切告げまいと滴は決心し、孤独な道に足を踏み入れます。 一緒にいればつい弱気になって打ち明けてしまいかねない。そのため売れないカメラマンの夫を無理やり南海の孤島での3ヶ月間に及ぶ仕事に追いやり、あえて産科に通わず、自分で密かにスキャナーを操って胎児と癌が育っていく様子を見続けます。 その孤独な闘いを耐え続ける姿も凄絶ですが、それにもまして圧倒されるのが、出産後母乳を与えていた乳房と反対の乳房からついに化膿した癌細胞が皮膚を破って現れてくる場面。思わず呻いてしまう。
昔観た映画で忘れられない作品があります。
その映画を思うと、滴の決心も納得いくのです。 ※読み終えたばかりの「空高く」でも、主人公の娘がやはり同じ運命に見舞われていました。偶然というにはあまりに偶然過ぎるような。 |
●「雪になる」● ★☆ |
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2011年01月 |
出版社の紹介文によると、本書は「凍てつく心と身体をゆっくりと溶かす極上の恋愛短篇集」ということなのですが、私の読んだ印象はちょっと異なります。 “恋愛”というより、捨てきれない女の性(さが)、性的な意味で男への想いを抱える女性たちの生身の姿を描いた作品集、という印象です。 そんな6篇の中でも一番忘れ難いのは、雪降る中で訪れてきた男の足音を思い出す、表題作の「雪になる」。 男性からは思いも寄らぬ女性の胸の内、そこに根ざした寂しさ、渇望が、6篇の底に共通して在るように思います。 雪になる/上等な玩具/ねじれた親指/かさかさと切手/ここにいる/三つ葉 |
3. | |
「空しか、見えない」 ★★ |
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2015年07月
2013/05/18
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谷村作品にしては意外、と感じたのですが、本書は青春小説。 主人公たちが卒業した中学の伝統行事は、房総は岩井海岸での中3臨海学校最後の日に行われる2キロの遠泳。一人一人が完泳すればいいというものではなく、予め決められたバディ8名が助け合って全員完泳することが目標。 この中学校では、名前を書いたおしゃもじを首からぶら下げるルールがあり、そんなことから名付けたバディ名が“おしゃもじハッチ”。 それから10年後、8名の内の一人が海の事故で死去したことが伝えられます。それも何と思い出の岩井海岸で。 亡くなった仲間を偲んで岩井海岸に集まったハッチたちの間で、1年後皆で再び遠泳しようということが決まります。さて、本当に計画は実現するのか・・・。 青春小説というと爽やかなイメージばかりが連想されますが、そこは谷村さん、青春小説にしてはシリアスな展開が待ち受けています。 遠泳によって耀いた時から10年、20代半ばになった主人公たちが様々なドラマを抱えていてもそれは当然のこと。仲の好かった彼らの間にも、実は色々な思いが錯綜していたことが徐々に明らかになっていきます。その結果、どういう結末を彼らは迎えるのか・・・それは本書を読んでのお楽しみです。 あれから彼らが過ごした10年の重み、それがそのまま本作品の読み応えとなっています。 単に爽快だけではない、人生の起伏を感じさせてくれる苦味も備わった青春小説。私は好きです。 ※本作品を手に取ったのは「岩井海岸」という言葉から。私も小学校、中学校と臨海学校は岩井海岸でしたので。 |