珠川こおり(たまがわ)作品のページ


2002年東京都生。小学校二年生から物語の創作を始める。高校受験で多忙となり一時執筆を止めるも、高校入学を機に執筆を再開。2021年「檸檬先生」にて第15回小説現代長編新人賞を受賞し作家デビュー。

 


                   

「檸檬先生 ★★         小説現代長編新人賞


檸檬先生

2021年05月
講談社

(1350円+税)



2021/06/16



amazon.co.jp

「共感覚」は、一つの刺激に対して、通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚も自動的に生じる知覚現象を言うのだそうです。
具体的には、文字や音、味や匂いに色を感じたりするのだとか。

私立の小中一貫校に通う小三の
「私」もそんな一人。
音や数字に色を感じてしまうため、色に惑わされて授業について行けず、「阿呆」「色ボケ」と嘲られ、酷いイジメを繰り返されている孤独な日々。その上家庭状況にも問題があり、食事も満足に取れなかったりしているという状況。

そんな主人公に光が差したのは、音楽室での中等部3年女子との出会いから。彼女もまた共感覚を持ち、やはり主人公同様に居場所を持てないでいるらしい。
彼女の目が檸檬色に見えることから、主人公と彼女はお互いを
「檸檬先生」「少年」と呼び合い、緊密に交わるようになっていきます。
彼女から「共感覚」について教えられ、そして勉強の面倒も見てもらえて、主人公の状況は少しずつ改善していきます。

孤独な状況の中、檸檬先生との出会いから居場所を見つけ、次第に救われていく「私」を描いた、成長ストーリィと言って良い内容です。
酷いイジメを受けていた頃も淡々とそのイジメを受け容れ、また声を掛けてくれるようになった同級生たちが現れた時も淡々として応じていく主人公の姿は、切なさを禁じ得ず、忘れ難い。
また、少女に誘われ、2人だけで電車に乗り海を見に行くシーンは、絵を見るように鮮やかで心に残ります。

しかし、本来であれば「少年」の私と「檸檬先生」の少女、2人それぞれの物語であって良い筈。
それなのに、冒頭、出会ってから10年後に彼女は飛び降り自殺を遂げてしまう。一体彼女に何があったのか、何故自殺するしかなかったのか、その辺りが描かれていないことに物足りなさを感じます。

ともあれ、孤独な私とやはり孤独な少女との出会い、そして共に歩もうとした姿を描く本作は、清冽な魅力をもった作品であることに間違いありません。

        


   

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