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1.知らない映画のサントラを聴く 2.砕け散るところを見せてあげる 3.あしたはひとりにしてくれ 4.おまえのすべてが燃え上がる 5.応えろ生きてる星 6.あなたはここで、息ができるの? 7.いいからしばらく黙ってろ! 8.心が折れた夜のプレイリスト 9.あれは閃光、ぼくらの心中 10.心臓の王国 |
「知らない映画のサントラを聴く」 ★★ |
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主人公の錦戸枇杷は23歳、大学卒業後就職せずに無職、実家に居ついたまま。 そんな枇杷が毎夜、密かに家を抜け出し自転車で近辺を走り回っているのは、大事な写真を泥棒に強奪されたから。その泥棒は何故かセーラー服を着込んでいた変態男だった。 そしてその大事な写真とは、去年伊豆の海岸で倒れて死んでいるのを発見された親友=清瀬朝野の写真。 そんな枇杷を、両親と同居中の兄夫婦が二世帯住宅に建て替えるからと、唐突に家から追い出します。 突然に実家から追い出され茫然自失状態の枇杷が遭遇したのは、写真を強奪したコスプレ男。そしてその正体は、朝野の元カレでマッサージ師となった森田昴だった。 行き場のない枇杷は、その昴のアパートに居候することとなります。 何か相談したらしかった朝野の話をきちんと聞かずに安易な励ましで済ませてしまった枇杷。フラれたことに憤然とし、後悔して復縁を願う朝野を徹底的に拒絶した昴。共に朝野への贖罪の念に囚われている2人がシンクロする、怒涛のようなストーリィ。 一人で自らを苛んできた二人が、相手を見る内に次第に心の変化が生まれます。 二人が救いを見出す日は訪れるのか・・・。 誰かを思ってこれ程までに悲しむことができるのは、ある意味、幸せなことなのかもしれません。 そしてその悲しみから卒業するためには、これ以上ないくらい悲しみに埋没する必要があったのかもしれません。 本作は、そんな2人が新たな歩みを始めるようになるまでを描いた、竹宮さんらしい圧倒的なストーリィ。 読了後、2人の今後に幸あれと祈るような気持ちになります。 |
2. | |
「砕け散るところを見せてあげる」 ★★☆ | |
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高校3年の濱田清澄は、全校集会の折にひどいイジメに遭っている1年女子を目撃し、思わず彼女を庇ってしまう。 ところがその女子=蔵本玻璃は、清澄が手を差し伸べようとした途端に「あああああああああああ!」という絶叫を挙げるばかりか、まるで睨みつけるような目を清澄に向けます。 一体何が起きたのか?・・・唖然とする清澄。 そこから、マイナスオーラを振りまく蔵本玻璃と、彼女に何とか救いの手を差し伸べたいとヒーローの道に足を踏み入れた濱田清澄、という2人の物語が始まります。 イジメられっ子の1年女子と、彼女を助けようとした3年男子と組み合わせによる高校青春小説と思いきや、2人を描くストーリィはまさに怒涛のごとく突き進んでいきます。 その先に、まさかそんな展開が待っていようとは・・・・、唖然としてもう言葉も出ず、と言わざるを得ません。 極端なまでのマイナスオーラと素直な純粋さを併せ持つ不思議な女子=玻璃と、手に余ることを承知で彼女のためにヒーローたらんとした清澄という2人の独創的なキャラクターと掛け合いがもの凄い吸引力を発揮して、ぐいぐいと読み手をストーリィに引っ張り込んで離しません。 最後の場面、ええっ!?と思わず混乱してしまいましたが、冒頭を読み直してみれば、あぁそういうことだったのか、と得心。 怒涛の様な破壊力をもった青春&人生を懸けた恋愛ストーリィ。 これはもう、迷いなくお薦め! |
※映画化 → 「砕け散るところを見せてあげる」
「あしたはひとりにしてくれ」 ★☆ |
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私立の難関高校に合格してそこに通う月岡瑛人は、一見真面目な高校生だが、実は内に人に言えない鬱屈を抱えていた。 その鬱憤晴らしの対象になったのは、瑛人が月岡家の養子として迎えられる前から抱えていたというくまのぬいぐるみ。 ある夜、またしても鬱憤晴らしのためぬいぐるみを埋めた空き地にやってきた瑛人はそこで、ぬいぐるみの傍らに埋められ、半死半生の若い女を掘り出してしまいます。 慌てふためいたまま泥だらけの女を背負って自宅に駆け戻った瑛人、それを迎えた父母と妹、そして居候の高野橋は当然ながら仰天し、月岡家上げての大騒ぎとなります。 一晩明けた翌日、その女性が月岡家を出て行ってお終い、となる筈でしたが、俄かに彼女を放っておけないと言い出した瑛人の懇願により、女性はそのまま月岡家の居候第二号となります。 さて、「アイス」と呼ばれることになったその女性と瑛人は、そこからどういう道を辿るのか・・・。 最初こそサスペンス的な出だしでしたが、ストーリィが進んで行ってみれば、とんだドタバタ家族劇。 その傾向は終盤で決定的になりますが、その一方で明らかになるのは、瑛人を囲む月岡家の人々の温かさ。 特に「お兄ちゃんをいじめるなぁぁぁー!」と突進する妹=歓路の存在がとても素敵です。 家族や人との温かな繋がりがあってこそ人は前に進むことができる、そう感じさせられる青春ストーリィ。 |
「おまえのすべてが燃え上がる You Glow like an Invisible Flame」 ★★ |
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主人公は樺島信濃、26歳。愛人生活でやっと楽ができるかと思っていたら、愛人であるおっさんの奥さんが包丁を振りかざして追いかけてきて、必死で逃げ出す。 今はキックボクシングジムで受付のバイトをしているが、生計は赤字。貢いでもらったブランド品を売っては生活費の不足を補填している。しかし、いつまで続けられるやら。 そんな信濃の元に6歳下の弟である睦月がひょっこり現れたと思ったら、その背後から元カレの醍醐健太郎まで現れる。 醍醐は過去に2回絶交した相手。追い返そうとしますが、多分に鈍感な醍醐はそのまま信濃に再びまとわりつくようになり、否応なく信濃と醍醐の関わりが復活します。 何といい加減で場当たり的、後先を考えないだらしない女、というのが主人公の信濃に対する冒頭の印象だったのですが、ストーリィを読んでいくに従いその印象は変わっていきます。 本性は優しい心の持ち主。だから、信濃に寄り掛かってくる相手を突き放すことが出来ない。醍醐もまたその一人。 そんな中で、信濃は精一杯自力で生きてきたのです、なりふり構わずに。 そんな信濃を応援してくれるのは、キックボクシングジムで知り合った同僚の青葉であり常連客の白鳥であると言えるでしょう。 そして信濃の一番の支えになってくれているのは、弟の睦月。 あぁ、それなのに・・・なんて切ない・・・・。 読み終わってから落ち着いて整理すると上記のような内容に落ち着くのですが、読んでいる最中は信濃の怒涛のような生き様に押されまくり、一気に押し流され尽くした、という思い。 理屈ではない、必死に生きてきた一人の女性の姿がそこにあります。その竜巻のようなエネルギーに、ただもう魅せられるばかりです。 |
「応えろ生きてる星」 ★★ |
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結婚直前、馴染みのバーにいた久田廉次は、突然現れた美女にいきなりキスされ椅子から転げ落ちてしまいます。その間に女は、謎の言葉を残して消えてしまう。 そして婚約者の満優と両方の親を招いて食事をしていた廉次は、目の前で、突然現れた男に満優をさらわれてしまうというショッキングな経験をすることに。新婚旅行の海外ツアーをキャンセルする気力もなく呆然自失したままの廉次は、謎の女の言葉を思い出して再びバーに。 再会したその女=滝織朔は、満優を取り返すのを手伝ってあげると言い、そのためには自分と廉次が最高のカップルであることを演じて見せつけ、相手を後悔させようと提案。 それから廉次は休暇の間、毎日のように朔とのデートを実行するのですが・・・・。 突拍子もない場面から始まり、怒涛のように展開していくストーリィですが、格好付けしていた自分から解き放たれたように、廉次が活き活きとしてくる様子が楽しい。 満優よりむしろ朔の方が廉次にとっては望ましい相手ではないかと思えるのですが、ついに朔の正体、その(予想された)事情が明らかになり・・・・。 何やらダスティン・ホフマンとキャサリン・ロス主演の名作映画「卒業」のクライマックス場面を見るようです。 朔、冒頭では何と勝気な女性と思えましたが意外にも可愛いじゃないですか。そして廉次も、ボォーッとしたぼんぼんのように思っていましたが、実に好い奴じゃないですか。 痛快で怒涛のようなラブストーリィ、まさに私好みです。 ※竹宮ゆゆこ作品、本当に面白いなぁ。 |
「あなたはここで、息ができるの? Breathless Time Traveler」 ★★ | |
2020年05月
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竹宮作品を読む中で初めての単行本。 いつも衝撃的な竹宮さんのストーリィ、今回は20歳の主人公がバイク事故で瀕死の重傷を負った状態で横たわりながら、読者に話しかけはじめる、というところから始まります。 そこに宇宙人? その宇宙人の手によって、彼女は高一の頃に戻って青春をやり直し始めます。 しかし、その都度宇宙人は「失敗だ!」と叫び、次こそは失敗するなと彼女に言い渡します。 一体、どんな秘密、意図がそこにあるのでしょうか・・・・。 主人公は観波邏々(かんなみ・らら)、高一の時、彼女は通学電車の中で萩尾健吾に出会い、彼に恋をします。 本書は、青春を繰り返すというタイムトラベル・ファンタジーのような展開ですけれど、本質は青春期の迸るような恋情を描いた作品、と言って良いでしょう。 自分のことをさておき、相手のことを優先して想う、そんな無私で純粋な恋情は、青春期だからこそのものと感じます。 これまでの作品に較べると衝撃度はそれ程でもありませんでしたが、読後感は実に気持ち良い、満足です。 ※題名となった言葉は、終盤、邏々の口から語られます。その場面をどうぞお楽しみに。 |
「いいからしばらく黙ってろ! That's enough just stay quiet!」 ★★ | |
2023年07月
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竹宮作品の未読本。入院を機会に読書。 主人公の龍岡富士、姉と兄が双子なら、弟と妹も双子。間に挟まれた子の所為か、何時の間にか両親から常に上下双子の調整役を押し付けられている。 とは言っても地元高崎で有力企業のタツオカフーズ、その娘。大学卒業してすぐに有能社員との結婚が決まっていたが、突然の婚約解消申し出、大学生活最後の飲み会で自分には友達などいなかったと認識させられ、結婚予定だったから就職先の当てもなしという苦境に転落。 そんな時に出会ったのが、小劇団“バーバリアン・スキル(バリスキ)”による「見上げてごらん」の舞台。 とんだトラブルで公演が失敗に終わった後、バリスキ主宰者である南野から富士は、劇団員応募と、ボロアパート(シェアハウス?)ながら無料寮の提示を受けます。 仕事も住まいも失った富士、喜んで申し出を受けるのですが、その後は思っても見なかったゴタゴタ続き・・・。 主人公・富士の仕切り直し青春記といった印象のストーリィですが、とにかく長い 約450頁、それでも面白い。 それだけバリスキ連中にはゴタゴタが絶えなかったということなのですが、そんな猥雑さが多くあってこそ青春ドラマだと言われれば、確かにそのとおりと言うべき青春譚。 2組の双子の間に挟まれて本来仕切り屋だった富士が、その本領を発揮するのは終盤。 自分の居場所、存在意義に富士はついに目覚めるのです。 富士が放つ大声、生で聞きたかったなァ。 衝撃度はありませんが、たっぷり奇人変人を楽しめる、痛快な自分探しドタバタ劇。 |
「心が折れた夜のプレイリスト Our not so Perfect Lives」 ★☆ | |
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奇妙で破壊的、いやひょっとすると変態的かな、思いも寄らぬ事態に巻き込まれた大学生=法律学科3年、萬代(ばんだい)を主人公とする青春グラフティ。 ・「およそ1000日の窓」 人生初の彼女に振られた途端、アパートの部屋の窓が閉まらなくなった(夜きちんと閉めているのに朝になると開いている)。怪奇現象か? 怖くなってしまった主人公は自分の部屋に戻ることができず、友人たちの部屋を転々とするが、それももう限界。その時主人公の前に現れたのは、濃見秀一という先輩、変態? ・「わたしのまんなかにそびえたつ、いきているし、うつくしいし」 振られたばかりの主人公の前に現れた、「アナ雪」こと穴口雪奈というラーメン大好きな女子大生。何故自分がモテル?と思いつつも、アナ雪に誘われるままラーメン屋行脚を始めたのですが、アナ雪にされたことでラーメンを食べたいという欲求が抑えきれなくなります。これは一体何が起こったのか? そしてまた、この先に待っているのは死? 絶体絶命の中、助けを求めたのは・・・変態先輩。 ・「エピローグ、あるいは、ちいさいおとこ」 解決篇というか脱却篇というか、解放感あるエピローグ。 およそ1000日の窓/わたしのまんなかにそびえたつ、いきているし、うつくしいし/エピローグ、あるいは、ちいさいおとこ |
「あれは閃光、ぼくらの心中 Flash and Die(with us)」 ★★☆ | |
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初めて読んだ「砕け散るところを見せてあげる」にて竹宮さんの爆発力に圧倒かつ魅了されたのですが、本作はその爆発力を久しぶりに感じさせられた一冊。 15歳の嶋幸紀はY音楽大学附属中学校ピアノ科三年、しかし才能に見込みなしと突き付けられ、終業式の日に家出を決行。つまりは、逃れられない現実からの逃走。 その嶋、ヤンキーたちに追いかけられ、その胸に飛び込んだ相手は泥酔状態のホスト=25歳の弥勒。 その弥勒の部屋に転がり込んだ嶋が仰天したのは、その部屋が何と酷い汚部屋だったこと。 しかし、他に行き場所もないことから、「出て行け!」という弥勒に対して開き直り、嶋はその部屋に居座ることになります。 そこから始まる、互いに行き場所のない嶋と弥勒、2人の物語。 10歳という年齢差があるものの、実は弥勒、15歳の時に起きた事件以来、時が止まったまま、今は惰性で暮らしているだけ。 この2人のやり取りが、凄く面白い。 遠慮なしに言葉を叩きつける嶋に、弥勒はタジタジ。 しかし、立場変われば優位も変わるという訳で、バスケ等になると弥勒の颯爽ぶりは輝くようです。 終盤、その嶋と弥勒に物語は怒涛のように流れ始め、その果てについに爆発、と言って良い程。 弥勒が過去にどんな惨い秘密を抱えていたかが明らかになったとき、爆発はもう止まりません。 弥勒を求めて絶叫する嶋のなりふり構わない行動は、凄い! 2人の出会いは、決して無駄ではなかった、いやむしろ必然だった、と語り続ける竹宮さんの文章は圧巻です。お薦め! |
「心臓の王国 The Kingdom of Heart」 ★★☆ | |
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出版社紹介文では、「著者の才能が爆発した、衝撃の青春ブロマンス小説!」とか。 初めて“ブロマンス”という言葉を聞きました。 “Brother”と“Romance”を合体させて生み出された言葉で、男性同士、恋愛以外の幅広い関係を言うのだそうです。 主人公は17歳、高二の鬼島鋼太郎。その鋼太郎の前に突然現れた美青年=「アストラル神威」は、鋼太郎と共に<せいしゅん>をしたいと、転校してきたその時から、鋼太郎にぴったりとくっついてきます。 突拍子もなく、どこか変で、どこか一本気、持て余したくなる。 それでも突き放せず、鋼太郎は神威を自分たちに仲間入りさせます。 しかし、その神威がいつの間にか、鋼太郎たちを変えていく。まさに怒涛のような「せいしゅん」ドラマ。 笑える処、噴き出してしまう処、満載です。 一方、鋼太郎の妹で7歳になるうーちゃん(宇以子)は、生まれついての心臓疾患があり、入退院を繰り返している。 やはり母親が入院して病院通いを繰り返している同級生の“ガリ勉クソ女”である千葉巴と鋼太郎には同胞意識で繋がっている。 ずっと気になるのは、神威の変な、世間離れしたところ。 それは冒頭の話とどう関わっているのか。 勘のいい方なら薄々、本ストーリィの背景を察しているのではないかと思いますが、その秘密が明らかになる終盤に至るともう、その衝撃に加えて怒涛の流れが止まりません。 竹宮ゆゆこ作品の魅力はその爆発力にあるのですが、本作 500頁と大部なだけに、爆発力を長く抑えて、そして最後に<せいしゅん>を爆発させた、と言って良いのではないかと思います。 ちょっと暑苦しいところもありますが、鋼太郎と神威の怒涛のような友情、繋がり意識が圧巻です。お薦め! |