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1.青い春を数えて 2.その日、朱音は空を飛んだ 3.君と漕ぐ-ながとろ高校カヌー部- 4.君と漕ぐ2-ながとろ高校カヌー部と強敵たち- 5.どうぞ愛をお叫びください 6.君と漕ぐ3-ながとろ高校カヌー部と孤高の女王- 7.愛されなくても別に 8.君と漕ぐ4-ながとろ高校カヌー部の栄光- 9.世界が青くなったら 11.君と漕ぐ5-ながとろ高校カヌー部の未来- |
嘘つきなふたり、可哀想な蠅 |
「青い春を数えて」 ★★☆ | |
2021年07月
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5人の女子高校生たちの行き場のない思い、鬱屈を描いた連作ストーリィ、青春群像劇。 見た目は順調そうに見えても、だからこそ、それに反発する気持ちが鬱屈となって滞る。しかしそれを、外に向かって発散するには、まだ子供でしかない、ということなのでしょうか。 「飛ぶ教室」の中でケストナーが語った言葉を思い出します。 子供だって大人と同じように悩みや苦しみはあるのだ、と。 それは本作に登場する女子高生たちについても言えることなのでしょう。 高校生だって、学校生活における束縛やこれから先の日々に不安を感じ、自らの人生に行き詰まりを感じることはあるんだ、と。 瑞々しい、そして清冽さが、本作の魅力。 文庫化を機に、本作を読んで良かった、と思う次第です。 ・「白線と一歩」:放送部3年の知咲が隠してきた思いは。そしてその彼女を救ってくれたのは・・・。 ・「赤点と二万」:効率のいい生き方を選ぶ菜々と長谷部。しかし、胸の内には揺らぎも・・・。 ・「側転と三夏」:料理部1年の真綾、不器用だけど愛嬌がある器の姉に対する思いは・・・。 ・「作戦と四角」:性別で型に嵌められるのが嫌な泉、偶然出会った他校生の清水千明から言われた言葉は・・・。 ・「漠然と五体」:3日連続学校をサボッてしまった優等生の細谷、清水千明との短い電車旅は、ミニ「スタンド・バイ・ミー」のよう。 白線と一歩/赤点と二万/側転と三夏/作戦と四角/漠然と五体 |
「その日、朱音は空を飛んだ」 ★★ | |
2021年04月
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朱音は何故、校舎の屋上から飛び降り自殺をしたのか。 その謎をめぐる、連作形式による高校青春ミステリ。 学校が行ったアンケートの回答者を各篇の主人公に据えて、朱音の死の前後を描いていきます。 各篇が連なることによって朱音が死を選んだ謎が明らかになっていくものと思ったのですが、前半はそうならず。 むしろ、高校生たち一人一人のエゴをむき出しにした、生々しいストーリィという印象。 朱音の死とはあまり関係ないドラマが繰り返されていくようで、前半はストーリィに乗り切れず、正直言ってしんどかった。 それが一変するのは後半になり、朱音と直接関わっていた生徒たちが主人公として登場するようになってから。 果たして川崎朱音とは、どんな女生徒だったのか。同級生たちの目にどういう女生徒として映っていたのか。 冒頭から謎が解き明かされる最後まで、ひとりひとりのエゴ、という思いが強く残ります。 しかし、あの時期、エゴが行動の中心にあったとして、それは当然のことではないでしょうか。 一人一人の行動を責めるには当たらない、と思います。 しかし、圧倒されたのは、クラスメイトたちのエゴを好きなように引っ張りまわして、とんでもない悲喜劇を演出してみせた生徒の存在。その生徒のことを、いったいどう評したら良いのでしょうか。 真相の重さより、その愚かしさに頭をガツンと一撃された気分です。最後の一頁が凄い・・・の一言。 プロローグ/1.回答者:一ノ瀬祐介/2.回答者:石原恵/3.回答者:細江愛/4.回答者:夏川莉苑/5.回答者:中澤博/6.回答者:高野純佳/7.差出人:川崎朱音/エピローグ |
「君と漕ぐ-ながとろ高校カヌー部-」 ★★ | |
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どこまでも爽快な、高校部活スポーツ&青春ストーリィ。 舞台は埼玉県秩父郡長瀞町にある私立ながとろ高校カヌー部。 (※長瀞と言えば観光場所として長瀞渓流が有名です) ただし、カヌー部といっても部員は2年生の2人だけ、しかもその2人が入学して創設したという部。 元々2人は地元のカヌークラブに小学生の頃から所属。そのクラブが廃止となり、その備品を譲り受けて創部できたという経緯。 4月、新入生の2人が新たに入部してきて総勢やっと4名。 新入生の黒部舞奈は初心者、湧別恵梨香は経験者ですが今まで競技に出たことが全くないという無名の存在。そしてその2人、入学式前日に友達になったばかりという。 2年生の2人は、部長の鶴見希衣と副部長の天神千帆。 その4人が揃ったところから、本カヌー部の物語が始まります。 カヌー競技というスポーツ小説は初めて読むので、その競技内容を知ることが出来るのも新鮮です。 そして、両親が離婚し、父の実家である寄居町に引っ越してきた舞奈、カヌー初心者ということもあって苦闘しますが、天真爛漫。 一方、希衣、千帆、恵梨香の3人は、それぞれ高校生らしい悩みや課題を抱えているという設定。 4人の中でも特に葛藤を抱えているのが、部長の希衣らしい。 「君と漕ぐ」という題名が、すこぶる良い、魅力です。 それは、相手と繋がろうとする積極的な気持ちがあることを示す言葉ですから。 4人を囲む大人たちの存在、競技会で競う高校生たちの姿も気持ちが好い。 これだけ健やかで爽快な気持ちを味わえる青春ストーリィは、久しぶりに読んだ気がします。 青春、部活ストーリィをお好きな方には、是非お薦め。 1.そして春が始まる/2.それでも君と夢が見たい/3.彼女は孤高の女王/4.過去は鮮やかに光っている/5.その夢はノンフィクション/6.この一瞬を君と |
「君と漕ぐ2-ながとろ高校カヌー部と強敵たち-」 ★☆ | |
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シリーズ第2弾。 ながとろ高校カヌー部の4人、いよいよ関東大会を迎えます。 その大会を控えて、4人それぞれに想いはあるのですが、とくに子供の頃から常に一緒だった鶴見希衣、天神千帆の二人の胸の内が克明に語られます。 なお、第1作のような煌めくような輝きは、この第2作ではもはや感じられません。 第1作ストーリィの延長、本格的な競い合い、戦いの前の前哨戦という位置づけだからでしょうか。 今後の続刊が期待されます。かなり波乱に満ちた展開になるのかも。 新たに登場するのは、ペアでのライバル。 <千葉・小見山高校>の目立ちたがり屋双子ペア、楓と桜の大森姉妹。 <山梨・富士曙高校>の強面な神田優紀&如才ない堀菜々香のペア。 “孤高の女王”という異名を持つ<東京・蛇崩学園>の利根蘭子も引き続き登場とあって、ライバルの顔ぶれは多彩。 いざ、富士山のお膝元で開催される関東大会へ! ※もう一人、新たな人物が登場。それは、千帆の従妹であるまだ6歳の天神海美(うみ)。湧別恵梨香に憧れてカヌーに興味を持つようになり、黒部舞奈ともすっかり仲良しに。 プロローグ/1.栄光は箱の中に/2.井の中の蛙、好敵手を知る/3.あの子は合わせ鏡がお好き/4.過去と現在と、私と君と/5.変わらないあの子とあの子/6.負けず嫌いは背中を知らない/エピローグ |
「どうぞ愛をお叫びください」 ★☆ | |
2022年09月
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You Tuber にゲーム実況を投稿し始めた男子高校生4人の、生き生きとした青春譚。 私自身はYou Tuber に余り縁はなく、ゲームとなるともはや異世界といった状況なのですが、それが小説となれば私の世界。武田綾乃さんの新作と知り、迷いなく手を伸ばしました。 主人公の松尾直樹は高校1年。中三の時に同級生を応援しようと動画編集に手を出して以来、すっかり動画編集の面白さにハマっているところ。 そこに目をつけて声を掛けてきたのか、幼馴染で最近は疎遠になっていた織田博也が一緒にYou Tuber をやろうと松尾に声を掛けてきます。織田のバスケ部2軍仲間の坂上明彦、2年生で落語好きな夏目拓光がメンバーに加わり、4人でするゲームの実況投稿に乗り出します。 (ユニット名:「どうぞ愛をお叫びください」、略称:愛ダサ) そんな軽いノリで上手くいくのやら、と思う処ですが、ある時期をきっかけに動画視聴数、チャンネル登録者数が鰻上り。 すっかり舞い上がって喜んだものの、4人の間にちょっとした不協和音が生じたり、足を踏み外す者が出たり・・・というのがまだまだ未熟な高校生らしいところ。 さてその難題を、彼らは自分たちで解決できるのか。そこがまさに王道の高校生青春ドラマらしい展開。 思わずやきもきしてしまいましたが、その分楽しめました。 なお、織田が松尾に声を掛けてきた背景には何らかの目的があったのではないかとは、何となく感じられるところでしたが、やはりそうだったか。 その辺りも、やはり高校生らしい青春だなぁ。 読んだからといってゲームに興味を惹かれる、というようなことは今更ありませんでしたが、武田綾乃さんらしい青春譚としてそれなりに楽しめました。 (※過去に一度だけ、息子が買ったスーパーマリオに私も嵌ったことがありますので) 第一話/第二話/第三話/第四話/エピローグ |
「君と漕ぐ3-ながとろ高校カヌー部と孤高の女王-」 ★☆ | |
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本巻ストーリィは、前巻以降、インターハイ出場まで、と言うに尽きます。 なお冒頭、 “孤高の女王”と呼ばれる<蛇崩学園>の利根蘭子が唐突にながとろ高校カヌー部に押しかけてきて、湧別恵梨香に対しインターハイ後の文部科学大臣杯レースに自分とペアを組んで出場しよう、と申し入れてきます。 さて、恵梨香本人、そして現在恵梨香とペアを組んだばかりの鶴見希衣は、それにどう対応するのか。 前巻の関東大会からインターハイまでの展開ですから、ながとろ高校カヌー部の4人に大きな変化はありません。 それでも、どこか悟ってしまった観のあった希衣、天神千帆の2人に気持ちの上でちょっとした変化が、そして恵梨香においては更に一歩成長した姿が描かれます。 残念なのは、黒部舞奈にあまり進歩が描かれないところ。 一人だけ初心者ですからやむを得ないところもありますが、応援する側に留まらず是非一皮剥けて欲しいものです。 次巻以降へ期待です。 プロローグ/1.ようこそスーパースター/2.少女よ、大志を抱け/3.エビフライのしっぽを食べるか、食べないか/4.その場所はまだ空席/5.万全を期した、その結末に至るまで/6.この手に掴めたもの、それが努力の結果 |
「愛されなくても別に」 ★★☆ 吉川英治文学新人賞 | |
2023年07月
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現実社会のニュースにおいても、また小説のテーマにおいても、昨今は育児放棄の問題が目白押しですが、本作はそれを超える壮絶な物語。 母親が自分の損得のために実の娘を犠牲にする・・・それはもう娘の人生からの搾取であり、希望や夢の蹂躙、という他ない仕打ちでしょう。 主人公の一人は、宮田陽彩(ひいろ)・私立大学2年。両親が早くに離婚、シングルマザーとして育ててもらった恩があるとして、料理や家事を全て引き受け、学費もバイトで捻出しているほかに毎月8万円を家に入れている。バイトに懸命の余り、大学生だというのに友達はひとりもいない。 もう一人は、大学で同学部、バイト先のコンビニでも一緒という江永雅。彼女もまた宮田以上に凄絶な道を歩んできたらしく、ボロアパートで一人暮らし。 訳あって江永のアパートに宮田が転がり込んだところから、2人の生きる道が交錯します。 その2人の他に登場するのは、コンビニのバイト仲間で大学6年という男子学生の堀口。また、やはり大学で宮田たちと一緒で金持ちのお嬢様学生である木村水宝石(あくあ)。 木村もまた母親から異常に拘束されていますが、宮田と江永と同じに論じることはできません。何しろ学費・生活費の不安はないのですから。 宮田と江永の2人がようやく手を取り合ったところから、2人の新たな道が開け、希望が生まれる。 人は誰しもたった一人では生きていけない、そこにはやはり仲間と呼べる存在が必要なのだと思います。 この2人の間のやりとり、会話が実に濃く、余韻も深い。 これまでの武田作品と比べ、一皮も二皮も剥けた、という印象です。武田さんの今後の活躍に期待大。 是非お薦めです。 01.愛、或いは裏切り/02.救い、或いはまやかし/03.祈り、或いはエゴ |
「君と漕ぐ4-ながとろ高校カヌー部の栄光-」 ★★ | |
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シリーズ第4弾。 湧別恵梨香は前巻で一歩抜き出た観があり、本巻で注目することになるのは鶴見希衣と黒部舞奈の2人になります。 また、これまでのシングル、ペアに加え、舞奈が育ってきたので初めてフォアに挑む、というのが楽しみであり、見処。 希絵にとって長年にわたる親友でありライバルでもあるのが天神千帆。自身の記録タイムでは千帆を上回るものの、何故かレースで千帆に勝つことができない、というのがこれまで。 恵梨香からも厳しい目を向けられた希絵、壁を破ることができるのか。 一方、初出場となる舞奈。実姉の応援を得て頑張るのですが、出場したシングル、フォアとも初レースの結果は・・・。 新学年を迎え、カヌー部にも新入生が一人入部。しかし、その土器富歌(どきとみか)、中々曲者で写真撮影が入部動機、運動神経は極めて鈍いと自己紹介。 新入部員だぁとはしゃいで喜ぶ舞奈と富歌との掛け合いが、とても楽しい。 さて、3年生、2年生となって初めて迎えるレース、希絵、舞奈の二人は壁を乗り越えることができるのか。はたまた、フォアのレース結果は? それぞれがステップアップする姿と、この先への道が開けた観のある巻。爽快です。 プロローグ/1.一人より二人、二人より四人/2.ハロー、私の最大の敵/3.そこにいるのは推しか、好敵手か/4.急募、バズる入部動機/5.だから私は私が好きだ/6.グッバイ、私の最大の敵 |
「世界が青くなったら」 ★☆ | |
2025年05月
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ファンタジー要素を糧とした青春恋愛ストーリィ。 しかし、舞台設定を拵え過ぎて、ストーリィ展開が散漫になってしまったように感じます。 主人公の仲内佳奈は大学生。 奇妙な夢を見た後で目覚めると、恋人である坂橋亮が世界から消えていた。亮が存在していたという何の痕跡も無しに。 友人である茉莉も不思議な夢をみたといい、その夢に現れた店へ行く茉莉に佳奈も同行します。 そこは、「本来なら絶対に会えない人に会わせてもらえる店」なのだという。 2人を迎えたミツルと名乗るイケメン男が曰く、ここは会いたいと願った、現世界とは別のパラレルワールドにいるその相手に会えるのだという。 現世界とパラレルワールドを繫ぐ「邂逅の間」で再会をする人は4組。それなりのドラマはあって<短編もの>として読ませられるのですが、果たしてパラレルワールドである必要があるのか?と思う処です。 一方、佳奈と亮のストーリィは<長編もの>。パラレルワールドはこの部分で重要な要素になります。 最後には、亮がなぜ世界から消えたのか、その理由も分かり、その後への期待も生まれるのですが、う~ん、スッキリしない気分ですねぇ・・・。 恋愛小説は、あまり凝り過ぎない方が良い、と感じます。 ※似て非なる小説に辻堂ゆめ「いなくなった私へ」があります。 興味を惹かれたらこちらもお薦めです。 プロローグ/1.自己満足を売る店/2.君とは仲直りできない/3.拝啓 大好きな恋人様/4.優しい嘘つき/5.世界が青くなったら/エピローグ |
「君と漕ぐ5-ながとろ高校カヌー部の未来-」 ★☆ | |
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シリーズ第5弾にして、完結篇。 終わりへとまとめ上げる必要があった所為か、これまでの巻に比較し、展開は大人しめ。 本書では、ながとろ高校カヌー部4人揃っての最後の関東大会、インターハイの様子が描かれます。 それに先だち、鶴見希衣と天神千帆においては大学進学という次の進路がいよいよ視野に入り、決断の時を迎えます。 そしてそれは、湧別恵梨香、黒部舞奈にとっても同様です。 恵梨香についてはオリンピック、舞奈については選手としての成長と新たな役割が問われることになります。 4人がそれぞれ、変化の時を迎えた、ということでしょう。 各章、登場人物それぞれの立場から次へのステップが綴られるという構成、波風はあっても多少のことに過ぎず、さらっと読み終えてしまった、という感想です。 本シリーズ完結後の彼女たちの成長、健闘を祈りつつ、読了。 プロローグ/1.画面に映るあの子の現在/2.あてのない未来と約束/3.トラブルはいつも突然/4.再会、オープンキャンパスにて/5.ノー・ミュージック・ノー・ライフ/6.そして戦いが始まる/エピローグ |