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1.約束の果て 2.最果ての泥徒 |
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「約束の果て−黒と紫の国−」 ★★ 日本ファンタジーノベル大賞 |
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2022年12月
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架空の大国=伍州で発掘された、矢をかたどった青銅の装身具。 そこには「コウ国のバ九が、ジナン国の瑶花にこの粗末な矢を捧げる」という趣旨の銘文が刻まれていた。 コウ国、ジナン国とは実在する国か? 考古学研究者の梁斉河は上司から命じられて数多くの古文書を調べた結果、2つの文献に両国の名前が記載されているのを発見します。 その文献とは、一種の小説である「南朱列国演義」と、偽史もしくは奇書である「歴世神王拾記」。 本作は、その2つの書に綴られた物語を辿る、という設定で繰り広げられる歴史ファンタジー。 まずその根幹となるのが、2組のいわゆる“ボーイ・ミーツ・ガール”。 「南朱列国演義」では、コウ国から祭祀のためジナン国を訪れた王子の真气と、ジナン国女王の瑶花。 そして「歴世神王拾記」では、小民族の少年=バ九と謎の童女=ジナン国の瑶花。 この2つの物語が交互に語られていきますが、読み手は何時しか気づきます、綴られていく末にこの2つの物語が相対するそれぞれの側から同じ物語を綴ったものであることを。 本書がファンタジーらしい作品であるのは当然ですが、それを超えた広大なファンタジーにして、まるでホラ話といった観ある奇想天外な面白さを披露してくれるところが魅力。 おどろおどろしさ、謎と不思議・・・部分的に眺めるだけならそんな印象止まりなのですが、2つの物語を合わせて眺めると奇想にして壮大、楽しさ溢れるファンタジー物語に昇華しているのですから、何とまぁ。 最後は思いもしなかった爽快なエンディング。 まさにこれは、悪戯心溢れる、3つの国の建国をめぐるファンタジーであると同時に、清新な“ボーイ・ミーツ・ガール”ストーリィ。 読む人の好み次第かもしれませんが、私としては是非お薦め。 1.旅立ちの諸相/2.壙国の都/3.伍州の境界/4.目前/最終章.黒と紫 |
2. | |
「最果ての泥徒(ゴーレム) Golem z najdalszego kranca」 ★★★ |
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傑作ファンタジー大作と言って過言ではないでしょう。 舞台となっているのは、現世界に類似する世界、異なっているのは<泥徒>という存在があるかどうか。 その世界における、20世紀初頭の動乱の時代を描いた、歴史ファンタジー。 その<泥徒>とは何かというと、泥から創った躯体に礎盤を埋め込み秘律文を刻むことで、主人に忠実な人間型ロボットになる、というもの。 東欧の都市国家=レンカフ自由都市で代々続く尖筆師(泥徒の創造を行う)の名門カロニムス家に生まれたマヤは、何と12歳の時に独力でスタルィという泥徒創造を成し遂げた天才児。 しかし、父親であるイグナツが殺害され、<原初の礎盤>のうち3つが失われるという事件が起こります。 事件の折に失踪したのは、イグナツの3人の弟子。 その時から、マヤの、スタルィを従えての、3人の弟子を追い、礎盤を取り返すための長い旅が始まります。 泥徒というストーリィ素材がとても面白い。今後生まれるであろうAIによるロボットの原型、と言って良いかもしれません。 そして、東欧から米国、日本へ、そして露国へと、弟子たちの出身国を巡り、それぞれの土地でどう泥徒が活用されようとしたのかが描かれる各章のドラマも、実に面白い。とくに日本での面白さはダントツと言って良いでしょう。 マヤとスタルィの旅は、ロードノベルと言えると同時に、マヤの成長&人生譚でもあります。そしてそれは、マヤと共にスタルィという泥徒の成長を辿る、魅力に富んだストーリィにもなっています。 マヤとスタルィが3人目の弟子に辿り着いたとき、そこには驚愕の真相が。そしてそこから先、壮大な歴史ストーリィが展開されていきます。この辺りは現代的で、実にリアル。 人間とは一体何なのか。人とロボット(泥徒)とでは何が違うのか。それはこれからのAIロボットを考えるにあたって、共通する問題、課題でしょう。 何たるファンタジーの枠に留まらない、壮大な歴史ファンタジー、そして人間とはどういう存在なのかを謳い上げる壮大な叙事詩とも言えます。 最後には、圧倒される感動が待ち受けています。是非お薦め! 序 第一部 1890年−王冠の芽吹き 籠の中の街/危険な旅支度/色褪せた島 第二部 1900年−書き換えられた数枝 小さな足跡/矛を待つ盾/行き違いの途上 第三部 1912年−王国の消失と再生 歓喜のパレード/旅の終わり 余禄 |