高野和明作品のページ


1964年東京都生。85年より映画・TV・Vシネマの撮影現場で働き、映画監督・岡本喜八門下となる。89年渡米、ロサンゼルス・シティカレッジで映画演出・撮影・編集を学ぶ。91年同校中退、帰国して脚本家となる。2001年「13階段」にて第47回江戸川乱歩賞を受賞。

 
1.
13階段

2.幽霊人命救助隊

3.踏切の幽霊

 


 

1.

●「13階段」● ★☆       江戸川乱歩賞

 
13階段

2001年08月
講談社

2004年08月
講談社文庫
(648円+税)



2005/07/06

死刑執行が間近に迫った死刑囚の冤罪を晴らすため、元刑務官と出所したばかりの元受刑者という青年の2人が、10年前に起きた殺人事件の真相を突き止めるため、調査に乗り出すというストーリィ。

本書はミステリであると同時に、死刑制度の意味について問い掛けた作品であると言えます。
主人公の一人である刑務官の南郷正二は、2度の死刑執行経験に自責の念を抱いている人物。もう一方の主人公は、居酒屋での喧嘩が元で傷害致死の罪に問われ、2年の刑期を終えて南郷が勤務していた松山刑務所を出所したばかりの三上純一
そして死刑囚の樹原亮は、バイク事故で事件前後の記憶を喪失し、罪の意識を持たぬまま迫りつつある死刑執行に震え慄いている人物。
そうした人物配置だけに、死刑が恣意的に執行されている現行法制度の問題点を語るのと並行して、加害者・被害者・その家族という具体的視点から殺人という罪における贖罪、更正、応報という意味が問いかけられていきます。
これらの点は、刑法を勉強するとまず最初に出てくる要点。したがって、久しぶりに刑法の勉強を思い出した気分です。

死刑論議が具体的に展開される一方で、ストーリィの始まりは納得性に欠けます。
何故今更樹原の冤罪を晴らそうとするのか? 多額の報酬を払おうとする依頼人の正体は誰なのか、等々。
樹原が唯一取り戻したのは、13階段を登ったという記憶。
三上と南郷がついに隠されていた階段を見つけた時から、ストーリィは緊迫をはらみ、手に汗握る展開へと、俄然面白くなってきます。
最後に明らかになった真相は、かなり無茶苦茶な部分もありますが、ストーリィの面白さという点ではまず文句ないところです。

 

2.

「幽霊人命救助隊」 ★★

 
幽霊人命救助隊

2004年04月
文芸春秋

(1600円+税)

2007年04月
文春文庫



2004/06/13



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自殺して中途半端な場所に留まっている4人。
その4人が神様から天国行きを見返りに命じられたのは、自殺しようとしている 100人の命の救済。
ヤクザ、中年、若い女性、浪人生という4人は、レスキュー隊として地上に舞い戻ります。与えられた期間は7週間。天国行きを賭け、4人の懸命な奮闘がそこから始まります。
読み始めたら最後、頁をめくる手が止まらない、圧倒感あるエンターテイメント。

まず、幽霊による人命救助チームという発想が秀逸。何と現代にマッチする、奇抜なストーリィであることか。4人の年齢が違ううえに自殺した年代に24年もの差があるというのも、センスが良い。言葉や考え方のスレ違いがまた楽しいのです。
ジェット・コースター的ストーリィ展開の中で、様々なドラマが語られていきます。孤独、挫折、リストラ、借金、家庭不和、いじめ、事業の失敗と、各々如何にも現代的。当人にとっては深刻な事態も、ちょっと客観的に眺めれてみれば、まだ救いの道は残っている筈。そんな役割に、自殺経験者である4人はうってつけの存在です。
自殺しようとする相手を思い留まらせるため、躍起になって奮闘する彼ら4人の姿には、とても勇気づけられます。気分が落ち込んだような時に読むには、格好の一冊でしょう。
軽妙にしてユーモラス、かつエネルギッシュ。涙溢れそうになることも、笑いにお腹がよじれることもあり。存分に楽しめるエンターテイメントです。まさにTVドラマ向き。

※本ストーリィ中最も記憶に残ったのは「第3章 子供たち」

       

3.

「踏切の幽霊 ★★   


踏切の幽霊

2022年12月
文芸春秋

(1700円+税)



2023/01/16



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妻を一人寂しく死なせてしまったという悔恨を抱え続けている主人公=松田法夫・54歳は、新聞記者を辞め、今は月刊女性誌の契約記者。
その松田、編集長の
井沢から幽霊話の取材・記事を指示され、取材を開始した処で出くわしたのが、下北沢駅近くの踏切で撮られた心霊写真。
実は一年前、その踏切近くで若い女性の殺害事件があり、犯人は逮捕されたものの被害者である女性の身元は不明のままであることが分かります。
松田、その被害者女性の身元を突き止めようと取材を開始するのですが・・・。

幽霊の存在を前提にしたストーリィですが、いつしか被害者女性の身元調査、殺人事件の真相を追うミステリへと変転していきます。
読み進んでいくうち、何度もゾクゾクッとするようなスリル、緊迫感があり。
とくに幽霊の正体は? 何故幽霊となったのか? その理由が分らないからこそ、なおのこと本当に怖い、という感じ。

ミステリといっても、幽霊という不気味な存在があってこそ。事件の悲惨さが際立つために本ストーリィに惹きつけられて止みません。
ミステリより、幽霊譚としての凄み、迫真さが本作の魅力。
圧巻、のひと言です。

   


  

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