須賀しのぶ
作品のページ No.2



11.夏の祈りは


12.夏空白花

13.荒城に白百合ありて

【作家歴】、ゲームセットにはまだ早い、紺碧の果てを見よ、革命前夜、雲は湧き光あふれて、神の棘、くれなゐの紐、エースナンバー、帝冠の恋、また桜の国で、夏は終わらない

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惑星童話、キル・ゾーン、女子高サバイバル、女子高サバイバル−純情可憐編

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11.

「夏の祈りは ★★☆


夏の祈りは

2017年08月
新潮文庫刊

(520円+税)



2017/08/14



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甲子園を目指す県立高校野球部を舞台に、30年間、4代のチームに亘って連作形式で描いた、高校野球ストーリィ。

舞台は、
埼玉県立北園高校。学業の面でも名門高校であると同時に、野球部も長い伝統を持つ。しかし、1958年の第40回全国高等学校選手権埼玉大会で準優勝したのが、最高の成績。
そのため、県大会優勝=甲子園出場が野球部OBの悲願となり、支援もしてくれる代わりに、何かと口出しが多く喧しい。

「敗れた君に届いたもの」1988年、野球部主将の香山始が主人公。今年こそと決意していたのに、準決勝の対戦相手である溝口高校は、自分たちと対照的に試合がまるで楽しそう・・・。
「二人のエース」:その10年後。主人公の大畑旭は捕手。ずっとバッテリーを組んできたエースの葛巻と異なり、控えピッチャーの宝迫は自分たちとまるで違う発想をしていた・・・。
「マネージャー」:さらに10年後、北園高校野球部にも女子マネージャーが受け入れられるようになっていたが、雑用係扱い。それでも伊倉美音はずっと奮闘してきたが・・・・。
「ハズレ」:OBや下の学年からもハズレ世代と言われる学年で主将に任じられた巽大祐が主人公。自分たちの存在価値はどうしたら生み出せるのか・・・。
「悲願」:「ハズレ」続編。いよいよ夏の埼玉県大会が始まります。ところが主将の巽大祐が何を言い出しすかと思えば・・・。

各年のチームにとっては、常に一度だけの夏。
それでも、そのチームのドラマが生まれるまでには、数多くのドラマがあったということをリアルに感じさせてくれるストーリィになっています。
チーム内での競争もあれば、対戦チームから学ぶこともある。そして、チーム内での確執もあります。また、女子マネージャーの貢献も大きい筈なのに、それをきちんと評価しないというアンフェアもあります。須賀さんが描く高校野球ストーリィにドラマは尽きることが在りません。

なお、冒頭篇で登場した香山始が「ハズレ」では悲願を託された形で野球部監督となり、「マネージャー」に登場した
相馬蓮も姿を見せるところは、伝統校らしい流れを感じさせてくれます。

高校野球小説の逸品と言って間違いない一冊。
雲は湧き、光あふれて”シリーズと併せ、須賀しのぶさんの野球小説からは目が離せません。 お薦め!
 

1.敗れた君に届いたもの/2.二人のエース/3.マネージャー/4.ハズレ/5.悲願

                

12.
「夏空白花(なつぞらはっか) ★★


夏空白花

2018年07月
ポプラ社

(1700円+税)

2020年07月
ポプラ文庫



2018/08/21



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昭和20年 8月15日、昭和天皇による敗戦を知らせるラジオ放送を聞くところから始まるストーリィ。

主人公は、朝日新聞大阪本社の記者=
神住匡(かみすただし)。かつて沢村栄治と競い、甲子園球場のマウンドを踏んだこともある元球児。明治大学野球部に進んだものの壊した肩が治らずマネージャー転向、そして朝日新聞大阪本社に入社したという経緯。

敗戦直後、まだ混乱したままの状況の中で、全国中等学校野球大会の復活を目指す人が、そして待ち望む球児たちがいた。
抑えていた野球への思いを彼らによってかき立てられた神住は、翌年の野球大会復活を目指し、進駐軍の元へ足繁く通う等々、復活に向けて突っ走り始めます。

全国中等学校野球大会の復活を目指す、単純な奮闘ストーリィと思って読み始めたのですが、あにはからんや。
進駐軍が野球大会の開催を中々認めようとしない理由として、米国人と日本人との間にある野球観、野球への姿勢の違い、さらには職業(プロ)野球と学生野球のせめぎ合いまで描かれます。
ストーリィとしてすこぶる面白いだけでなく、野球観の相違というアプローチには興味尽きず。

高校球児に連作シリーズ
雲は湧き、光あふれて3作でもたっぷり楽しませてもらいましたが、今度は<戦後もの>か、というのが第一印象。
しかし、胸熱くなると同時に、限りなく広がる読後の爽快感は、前者と何ら変わるところはありません。お薦め。

※題名の
「白花」、どういう意味かまるで見当がつかなかったのですが、最後に分かりました。なるほどぉ〜。

1.終戦/2.セッティング・サン/3.白球/4.ベーブ・ルース/5.懸河のごとき/6.キベイ/7.神宮球場/終章

               

13.
「荒城に白百合ありて ★★


荒城に白百合ありて

2019年11月
角川書店

(1700円+税)

2022年11月
角川文庫



2019/12/17



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幕末〜会津戦争という、歴史に残る動乱時代を背景にした男女のドラマ。
題名にある「荒城」とは
会津若松城、「白百合」とは“会津婦人の鑑”と謳われたという森名鏡子のこと。

主人公の一方である
鏡子は、会津藩江戸詰藩士である青垣平左衛門の娘。
もう一方の主人公である
岡元伊織は、昌平坂学問所に留学してきた薩摩藩士。
本来であれば、会津藩士と薩摩藩士が親しく交わることなど中々考えられないことなのですが、安政の大地震によって2人は出会う。そして伊織は、美少女の鏡子をひとめ見て、自分と同類の人間であると確信する。

自分と鏡子のことを自ら「ばけもの」という伊織の言葉は、いくら何でもと思いますが、2人が周囲の人間といささか物の感じ方が違っているのは事実。
しかし、それはむしろ2人が、時代や境遇に考え方、感じ方を縛られていなかったからではないか、と感じるのです。
あの激動の時代にあって、そんな人間はさぞ生きにくかったでしょうから。

同類でありながら、動乱時代においてそれぞれ対照的な道を歩んだ男女2人の歴史ドラマ。
2つの人生ドラマを並行して描くことによって、自由に生きることの難しさが浮かび上がってくる気がします。
 
さて、2人の人生は結局、交わることがあるのか・・・。

      

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