白河三兎
(みと)作品のページ No.1


2009年「プールの底に眠る」にて第42回メフィスト賞を受賞して作家デビュー。


1.
プールの底に眠る

2.角のないケシゴムは嘘を消せない(文庫改題:ケシゴムは嘘を消せない)

3.私を知らないで

4.君のために今は回る

5.もしもし、還る。

6.神様は勝たせない

7.総理大臣暗殺クラブ

8.ふたえ

9.小人の巣

10.田嶋春にはなりたくない


十五歳の課外授業、計画結婚、他に好きな人がいるから、無事に返してほしければ、冬の朝そっと担任を突き落とす

 → 白河三兎作品のページ No.2

 


           

1.

「プールの底に眠る」 ★★☆      メフィスト賞


プールの底に眠る画像

2009年12月
講談社刊
(800円+税)

2013年04月
講談社文庫化



2013/01/23



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夏の終わり、主人公である「僕」は裏山で、首にロープを巻きつけて木の上に立つ少女と出会った。彼女はセミ、そして僕はイルカ。お互いをそう呼び合うことを決めたところから始まる7日間の物語。
そして13年後の今、殺人罪の罪を背負った僕は警察の留置所の中でその7日間を回想しようとしている。

高3の僕には、親友と呼んでいい由利という幼馴染の同級生女子がいる。その一方で僕は未だ中一だというセミに惹かれ、彼女との関わりを持つ。
僕と由利、僕とセミ。まるで二等辺三角形のような構図ですが、それだけを見るなら、割りとよくある学園青春物語のひとつと言えるでしょう。
しかし本書には、ストーリィはいったいどこへ向かうのか、どう13年後に繋がるのか、皆目見当つかずといった風で、複層的なストーリィの上にスリリングさとミステリアスな香りが漂います。
ごく普通の青春小説と感じて読み進んでいたら、いつの間にか底知れない沼に足を突っ込んでいた、まるでそんな気分です。そこが本書の清冽な魅力。
私を知らないでに比べると初々しく拙い印象はあるものの、充分な力量を見せつけるデビュー作。

人というものは相反する感情を同時に持つことがある、そんな心理の輻輳をストーリィの中心に据えている辺りは「私を知らないで」に共通する趣向。
それにしても何故、警察の留置場なのか。留置場の中で現在の僕が気遣いを見せる相手の“
”とは一体どんな女性なのか。これらもまた読み手にとっては大きな謎です。
最後に全ての謎が解かれた時には、固結びの紐がやっと解けたようなホッとすると同時に幸せな気分を感じます。そして最後に残るものは、これからの未来に対する前向きな気持ち。

その辺りの気分一転、ストーリィの捌き加減が、白河さん、実に上手い!

                   

2.
「角のないケシゴムは嘘を消せない」 ★★
 (文庫改題:ケシゴムは嘘を消せない)


角のないケシゴムは嘘を消せない画像

2011年01月
講談社刊
(960円+税)

2014年01月
講談社文庫化


2013/08/07


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題名も風変わりですが、ストーリィの出だしもそう。
突然恋人とカウパレードの牛たちが消えてしまったと、東京に探しに出てきた妹=
有田琴里。その泊めて欲しいという頼みを一言で拒絶した兄=信彦は、離婚した直後から姿の見えない女性と同棲中(相手が何時の間にか部屋に入り込んでいたという事情)。幽霊あるいはそれに近いファンタジー小説かというと、どうもそれとは異なるようなのです。
ストーリィは、信彦、琴里の兄妹を交互に主人公としながら、2人がそれぞれ、人の姿が見えなくなるという人物たちに絡むトラブルに巻き込まれてしまう、というもの。
信彦の姿の見えない恋人=
タマに、信彦と離婚した加奈子と悟の母子、琴里が知り合った少年(白馬)、さらにミロという謎の多い女性と、登場人物は多彩にして個性的、ストーリィを十分理解できずともそんなところについつい引き込まれてしまいます。

信彦を主人公にした展開、琴里を主人公にした展開が、入れ替わりながらかつ並行して繰り広げられるだけでも十分厄介なのですが、展開は一転二転三転、さらに四転五転と留まることを知らないという予想を超えたストーリィ。
果たしてファンタジーなのかSFなのか。途中の良そうに反して本作品、読み終わってみればどうも兄妹それぞれの恋物語のようなのです。

ここまでするかと思う程の複雑なストーリィですが、そこまで趣向を凝らしている点にむしろ感嘆するばかりです。

             

3.

「私を知らないで」 ★★★


私を知らないで画像

2012年10月
集英社文庫刊
(650円+税)



2012/11/27



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とにかくいい、すごくいい、という感想に尽きます。

ストーリィは、横浜の中学に転校してきた黒田慎平が主人公。その慎平はすぐに、クラス一の美少女ながら負の雰囲気を纏い、一人孤立している女子の存在に惹きつけられます。彼女の名はキヨコ。もっともキヨコは本名ではなく仇名。その由来は途中明かされますが、彼女が除け者になっている理由は、両親が2人とも多重借金をして出奔し行方知れず。そのため祖母と2人きりの貧しい暮らしをしていて暗い様子の故と判ります。やがて慎平は、新たな転校生でマイペースの高野に引きずられ、休日に出掛けるキヨコの後をつけることになる・・・・。

本書においては謎めいた処のあるキヨコという女子の人物造形が絶品なのですが、加えて慎平とキヨコという2人の関係の描き方が素晴らしい。
慎平はキヨコに対しあっさり「好き」と言い、一方のキヨコは「黒田君が大嫌いだ」とこれまたはっきり言ってのけます。それにもかかわらず2人は繋がりを深めていく。何故か?というところに実は含みがあって、対照的なキャラクターだからこそ緊密に引き合い、互いに手を差し伸べ合うことによって2人とも安らげる場所を手に入れるに至る、という風なのです。そんな2人でありながら・・・・という持って行き方が、こうしたストーリィ結末の定石を軽々と超越してみせていて、凄い!

題名の「私を知らないで」は、自分の後をつけてきた慎平と言葉を交わす中でキヨコが慎平へ投げた言葉なのですが、題名として聞くとかなり不可解です。しかし、その簡単な言葉にどれだけ意味深い事情、心情が含まれていたことか。それが漸く知れるのは終盤になってから。
当初は青春、恋愛、いや友情物語かと思われたストーリィでしたが、最終的には家族の物語だったと言うべきか。しかし、簡単に落ち着けるような家族物語ではないところに本作品の真骨頂があります。
さてこの後の慎平、どう道を歩んでいくのか。終章だけでも新たな一つの物語が生まれそうです。

ストーリィ運びも小気味よく、ただただ、お見事! 是非お薦めしたい逸品です。

                                

4.
「君のために今は回る」 ★★


君のために今は回る画像

2013年06月
講談社刊
(1400円+税)



2013/07/24



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事故にあった挙句に、気がつけば横浜みなとみらいにある大観覧車のゴンドラの一つに地縛霊として縛り付けられてしまった若い女性=千穂
その千穂は幽霊となって8ヶ月、ひたすら幼馴染である
山田銀杏が訪れてくるのを待っています。
その間、観覧車に乗り込んでくるのは、評判の占い師、自信喪失した女性記者、ゴンドラで見合いする30代の美人女医・・・。そしてその観覧車の案内係をしているのは銀杏が喧嘩別れした元恋人。

ストーリィは、幽霊となった千穂、千穂が待ち望む相手=銀杏を交互に主人公としながら語られていきます。
いったいどのような趣向なのか、どう展開していくのか、極めて判りにくいストーリィと言わざるを得ませんが、読み終わってみれば紛れもなく恋愛小説。
ただし、恋愛そのものではなく、恋愛感情に身を任せられないでいる等々、恋愛以前の段階で足踏みしている登場人物たちを描いたストーリィと言って良いでしょう。
白河三兎作品であるからには何かある筈だと思って読み進みましたが、そうした意識がなければ何だかわからない、つまらないとおざなりに読み通して終わってしまったかもしれません。
しかし、どの主人公も表向き恰好を付けているものの、それはそれで真っ裸になれない自分をずっと持て余しているようです。
その点、単純にして直情径行型である銀杏は、対照的に皆が実は羨むタイプの女性なのかもしれません。

恋愛以前の段階での切ないストーリィ。
終盤明らかになる千穂、そして銀杏の切ない思いと予想外の幕切れは、かえってその残像が胸に残ります。

                          

5.
「もしもし、還る。」 ★★


もしもし、還る。画像

2013年08月
集英社文庫刊
(620円+税)



2013/09/21



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主人公の志朗が目覚めると、何と砂漠の真ん中にただ一人。そしてそこへいきなり空から降ってきたのは電話ボックス。
電話をかけて繋がった先は 119番、相手は志朗の言うことをまるで信じない。すると逆に掛かってきた電話。相手は平凡な主婦だといい、志朗とは違って大洋の真ん中でボートにただ一人、あるのは小さな電話一つという。
いったいどんなシチュエーションなのか、ファンタジーなのか、サスペンスなのか。志朗同様、訳の分からぬまま読み手もまた前へと進むほかありません。

【さらさら】部分では今現在の志朗が状況が描かれます。もう一つの【ぐるぐる】は、志朗が回想する過去の出来事。
志朗のことにまるで関心のない父母、親代わりに志朗を育ててくれた姉=
。大学入学時声を掛けられずっとセックスフレンドの関係にある遠藤桐子、そして会社の上司、回想の中で志朗と関わりをもった人物が順々に登場します。
いったい彼らと現在の状況がどう関係するのかないのか、判らぬままストーリィは前へ前へと進んでいきます。
やがて志朗の目の前に、過去の出来事の謎、真相が明らかになっていきます。それは少しも止まることなく、まるで玉ねぎの皮を剥いていくように、新しい事実が次々と顔を見せます。いったい志朗が抱えていた秘密とは何だったのか。
ひとつひとつのミステリ要素は、決して目新しいものとは言えません。でもこれだけ複層的に積み上げられると、ただもう作者に引きずられるようにしてその謎の中に身を委ねる他ありません。

シッポの先から頭まで、砂漠という不可解な舞台設定の元に尽きることなく繰り返される多重性のミステリ。すっかり本ストーリィの世界に引きずり込まれました。
最後には、ただもう主人公のために祈る気持ちになります。
読み応えある、ファンタジー性を超えたミステリ。

※なお、繰り返される謎に翻弄されつつ、最後には主人公にとって何が一番大事なのかが明らかになっていく、白河三兎作品にはそうした共通性があるように感じます。

      

6.
「神様は勝たせない」 ★★


神様は勝たせない画像

2014年03月
ハヤカワ文庫
(640円+税)



2014/05/06



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あの白河三兎さんが何でスポーツ小説?と思ったものの、別にスポーツ小説を書いてはいけないというものでもなし、と読み始めたのですが、そこはやはり白河三兎さん、通常のスポーツ小説には全く当てはまらない異色の学園スポーツ小説がそこにはありました。

中学サッカーの首都圏大会、県予選の準々決勝。
前半早々2点を先行されもうこれで終わりかと思ったところを予想外にも味方が盛り返して同点、PK戦へともつれ込みます。ところが0−2とまたもや先行され、いよいよお仕舞かと思われた時点から、本ストーリィは始まります。
学園スポーツ小説となれば、最初こそいろいろといざこざや対立があったとしても、最後は一丸となって相手に立ち向かっていくというのが通例パターンのようなものですけれど、本作品はそこからして異色。
皆のチームワークで勝ち進んできたチームが、試合の直前になってバラバラになってしまうという事態がどうも生じたらしい。そのうえ、強力な指導力を発揮してきた顧問の教師もまた沈黙、チームをまとめる人物さえ不在といった状況。
メンバーでさえもう負けるものと決め付け、その後のデート予定まで考えているという始末。
そういう状況の中で中心メンバー一人ずつ、チームにおけるこれまでと今現在彼らの胸の内に去来する思いを書き綴っていくという構成。
いったい彼らの間にどんな事態があったというのか、まるで想像もつかないまま、最後の最後までその秘密は明かされません。
ごく普通のストーリィの中にミステリを埋め込むという手練、真に白河三兎さんらしいところです。

異例の展開+ミステリ、この異色さこそ白河三兎作品の魅力。それが学園スポーツ小説のうえでも発揮されるとは思いもしないことでした。
チームとしてバラバラであるかどうかは別として、メンバー各自の思いがそれぞれ異なるというのは本来当たり前のことでしょう。それをまざまざと見せつけ、巧みに料理してみせたところに本作品の面白さがあります。
白河三兎作品、当分目が離せません。


1 守護神 潮崎隆弘/鬼マネージャー 広瀬はるな/4 守備の要 真壁芳樹/14 万年ベンチ 宇田川定史/9 点取り屋 阪堂隼人/10 司令塔 鈴木望

        

7.
「総理大臣暗殺クラブ」 ★★


総理大臣暗殺クラブ画像

2014年06月
角川書店刊
(1600円+税)



2014/07/31



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白河さんについては私を知らないで以来期待しているのですが、本書については題名を知った時から?? 実際に読み始めてからも、何と突拍子もないストーリィか、というのが冒頭での印象です。
そもそも仲が良かった双子の姉妹、父親が事故死した直後の母親の失言から、
妹=御手洗三重子は母親と姉から決別して父方祖父母の元へ。そして同じ高校に入学して再会した姉=小松茂子に三重子は、総理大臣暗殺計画への協力を依頼します。
そして誕生した部活動、表向きは
「政治部」、その内幕は「総理大臣暗殺クラブ」という次第。
本書の主人公は
“お局”こと茂子、妹を守るためにという動機から三重子の要請を受けて部長に就任。
そして同部の個性的なメンバーは、情報収集能力に長けた
“ムセン”こと田崎もも、スポンサー的存在である“ボンボン”こと成村明人、風貌からして“オッサン”こと柏木保という5人。
そんな5人が集まって、いったいどんな青春あるいはサスペンスドラマが展開されるのやら。

正直なところ真剣な学園サスペンスものなのか、ブラックジョーク的コメディなのか、一体どう捉えて読み進んでいけばいいのやら戸惑います。各章でのストーリィはまるで“スパイ大作戦”のようです。
しかしその実態としては、総理大臣暗殺計画以前に部員間での熾烈な駈け引き、騙し合いが展開されます。これはもう、部員間の複雑極まるコンゲームと言って良いのではないか。総理大臣暗殺など単なるフェイクに過ぎないのではないか。
そして究極的には、これは作者が読者に仕掛けたコンゲームなのではないか、と思えるのです。何しろ部員各人のキャラクターがまるでオセロゲームのように次々と裏返しされ、暴かれていくのですから。
そしてふと気付いて振り返ってみれば、本書は如何にも白河さんらしいストーリィ。

本書を読むにあたってはくれぐれも題名に惑わされる勿れ。白河さんの仕掛けは読み手をも対象にしているのですから。
キャラクター然り、ストーリィ展開然り、複雑極まりない仕掛けこそ、本書の特徴と言って良いでしょう。
最後にひとこと言わせてもらえば、白河三兎という作家、只者ではないのです。

始まりはどんなものでも小さい/チェンジー/票は銃より強し/二位じゃダメ?/お金こそすべて/あなたとは違うんです/始まりの終わりですらない

          

8.

「ふたえ ★★☆


ふたえ

2015年07月
祥伝社刊

(1500円+税)



2015/08/21



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修学旅行を目前に控えた高校2年5組のクラスに大阪から転校生がやって来ます。ところがその転校生の手代木麗華、顔見せの冒頭から同級生、担任教師に喧嘩を吹っかける風。正論を堂々と主張する麗華に取り持とうとしていた担任教師もタジタジ。
どのクラスにも目立たなかったり、軽んじられたりして孤立しがちな同級生がいたりするもの。この5組にも、
ノロ子や地味ぃな宮下、将棋好きなのに弟に勝てず「渡辺兄弟の劣化版」と呼ばれる右京、タロット占いオタクの小堀、存在感薄い桜井というのがその顔ぶれ。必然的に修学旅行の班編成ではじき出された5人に手代木が加えられて“ぼっち班”という次第。

本ストーリィは、そのぼっち班が京都への修学旅行中、一人一人が勝手な単独行動に走り出し、その結果として自分に目覚めるといった連作形式の成長ストーリィ。中には人の助けを借りてという部分が無きにしも非ずですが、基本的には自分自身で気づき、目覚め、変わろうと自分で決意するという展開が、本ストーリィの優れているところ。とくに第2章での思い切った行動ぶりは、とても楽しい。
それだけでも十分佳作と言って良い作品なのですが、終盤において「えええっー!!」とホントに驚かされた。
えっ、何でそうなるのか? どこでこうなったのか?と、慌てて以前の章をめくり確かめようとした程です。
そういえば途中違和感をもった部分があるんですよねぇ、けれどその巧妙さについつい目を晦まされてしまったという次第。

自分への自身を持てなかった高校生たちが、ぼっち班での修学旅行を踏み台にして自分自身に目覚めるといった成長ストーリィですが、作品・ストーリィ自体にミステリ要素が仕掛けられているところが、白河さんならではの切れ味鋭い、驚愕の魅力。

冒頭、ダメ教師という印象だった担任の久米先生が後半で意外な面を見せる処、「ノロ子」とだけで名前を秘した生徒に関わる部分、後になる程楽しみが増していくという展開は、すこぶる面白いという他ありません。
なお、肝心な部分について不自然と否定的に考える読者もいるかと思いますが、それを補って余りある面白さがあるから、私は肯定的に受け入れようと思います。
表題の
「ふたえ」は第2章で具体的に登場する言葉ですが、その章だけではなく、人が表面的に、あるいは先入観から見た自分と本来の自分という二重性を示唆する言葉であり、全篇を貫くテーマとなっている言葉のようです(本ストーリィの構想も語っていると思いますし)。爽快な読後感+読み応えたっぷりの一冊。

※修学旅行と言えば趣向はまるで違うものの、
有沢佳映「アナザー修学旅行も良い作品でした。こちらの作品もお薦めです。

1.重なる二人/2.素顔に重ねる/3.重なる想い/4.偶然に重ねる/5.重なる生徒/6.過去に重ねる

      

9.
「小人の巣」 ★★


小人の巣

2015年10月
双葉社刊

(1500円+税)



2015/11/20



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クラス全員から執拗なイジメを受け続けてきた中三女子の木原沙菜は、校舎の屋上から飛び降りようとしたその時、保健室担当の春日先生から呼び止められ、自殺幇助サイト<小人の巣>の存在を教えられます。
安楽な死に方を求めてサイトの管理人<
シャーマン>を訪ねて行った沙奈の前に姿を見せたのは、意外な人物だった・・・。

要は“自殺”をテーマにした連作ストーリィなのですが、白河三兎さんはやはり上手い、曲者の上手さ、と言ったら良いでしょうか。
「小さな世界」は学校でのイジメにより自殺しようと思った木原沙菜が主人公ですからそう珍しい内容ではありませんが、沙菜とシャーマンとの出会いは目を瞠るほど魅力的です。

「アリとキリギリス」は、自殺の動機が何とも珍しいもの。一抹の説得力を感じてしまうところが危ない、危ない。でもそこに迷いは本当にないのだろうか。
「勇者の名」は、就活に絶望した主人公=呂斗と沙菜の話。極めてリアルであると同時に、救いのあるストーリィです。
「白雪姫」、何と目茶苦茶で自分勝手な女性主人公かと思うものの、やがて明らかになる真相が切ない。
「王様の耳」は自殺幇助サイト<小人の巣>の謎を明らかにする篇。

様々な自殺ドラマのストーリィそのものにミステリがあり、またその背後に木原沙菜とシャーマンこと
若宮明という2人の少女をダブル主人公にした長編ストーリィを忍ばせるという、複層構成の作品。
本作品を読んでいると、自殺を考えること自体が何となく阿呆らしいことのように思えてきます。

様々な仕掛けが施され、次に何が出てくるのか見当もつかないというところに白河三兎作品の魅力があるのですが、結末に切なさのあることも特徴。だから白河三兎作品は忘れ難い・・・。


小さな世界/アリとキリギリス/勇者の名/白雪姫/王様の耳

       

10.
「田嶋春にはなりたくない」 ★★☆


田嶋春にはなりたくない

2016年02月
新潮社刊

(1500円+税)

2019年01月
新潮文庫化



2016/03/14



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これまでの作品から一転して、ユーモア作か。
本書の紹介文を読んで、
姫野カオルコ「ひと呼んでミツコに類する青春コメディ作品かと思ったのですが、そんな単純なものではありませんでした。
やはり白河三兎は侮れない、全く驚かされるばかりです。
すこぶる痛快にして怪作、そして快作、の一言。

“タージ”こと田嶋春は一流私立大学法律学科の女子学生。その言動は常に正論、それも堂々とかざすのですから、周囲の人間としてはウザったく、迷惑このうえない。しかし、タージ本人は全くそれに気付かないのですから、これだけ空気の読めない人間がいるのか、世の中は広いなぁと呆れられる程。
例えば、新歓コンパで飲酒は20歳以降と学生証で誕生日を確認し出すのですから、何ともはや笑っちゃいます。

そんなタージを敬遠しているというのに、そのタージに各篇の主人公たちが心ならずも難局を救われる、という展開が痛快。おまけにどの篇もちょとしたミステリが仕掛けられていますし。
「肩を濡らさない相合傘」:相合傘に隠れていた真実は?
「自作自演のミルフィーユ」:浮気に鷹揚そうだった深井の妻がいきなり怒り出した真相は?
「スケープゴート・キャンパス」:一浪で同学年生になった高橋奏がタージを除け者にしようとした真の理由は?
「八方美人なストライクゾーン」:サークル会長の宮崎が気付いたタージの真の姿とは?
「手の中の空白」:タージの胸中にあるもの、覚悟とは?

表題の
「なりたくない」という言葉には、そうなったら怖い(周囲から孤立)という思いと同時に、それだけ強くなどなれるものかという諦めの気持ちが潜んでいるのではないでしょうか。
最近はとかく「気配り」や「KY」という言葉が闊歩していますが、気にし過ぎという面があるのではないでしょうか。
気にする余りに委縮し、自分をさらけ出さないのが当たり前。それより、自分らしさを堂々と披見できたらどれほど開放感に浸れることか。まぁタージは極端過ぎますが、それは小説であるからであって、だからこそ痛快な面白さがあるのです。
そして意外や意外、日常ミステリの味わいもあるというのですから、面白さは尽きない、もう快感という他ありません。
でも、タージの逃げない姿勢には、切なさもちょびっとあり。

白河三兎さんの力量を見せつけた快作、是非お薦め!


1.肩を濡らさない相合傘/2.自作自演のミルフィーユ/3.スケープゴート・キャンパス/4.八方美人なストライクゾーン/5.手の中の空白

   

白河三兎作品のページ No.2

    


   

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