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1.存在のすべてを 2.踊りつかれて |
1. | |
「存在のすべてを」 ★★☆ |
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ふと犯罪捜査ものミステリを読みたいなという気持ちになり、2024年本屋大賞3位だった本作品を手に取った次第です。 1991年、神奈川県で<二児童子誘拐事件>が発生。 誘拐された小六児童は川崎市内の倉庫で発見され、保護されたものの、4歳児の内藤亮については身代金の受渡が実現せず、事件は進展しないままとなってしまう。 その3年後、祖父母の家を7歳になった亮が一人で訪ねてきて、亮は無事に保護されます。しかし、空白の3年間、誘拐事件の裏には何があったのか。誘拐事件の真相はついに不明のまま、事件は迷宮入りしてしまいます。 ただ、亮の祖母曰く、その3年の間に亮はきちんと躾けられていたという。 事件から30年後、当時捜査員の一人で懇意だった中澤元刑事の葬儀に参列した大日新聞の門田次郎は、写真週刊誌のスクープ記事により今人気を博している写実画家=如月脩が、あの内藤亮だと知ります。 そこから門田は中澤の遺志を継ぎ、誘拐事件の真相を一人で調べ始めます。 誘拐事件の謎、写実絵画の魅力、絵画業界の泥臭さ、高校時代の淡い恋、地道な捜査と、様々に読み手を惹きつける要素を散りばめながら、究極的には“親子”を鍵としたストーリー。 親、子、それぞれ先行きに希望が持てない状況にあるだけに、双方が寄り添う姿は切なく、同時に愛おしいものがあります。 読み応えたっぷりにして、感動も深い佳作です。 序章.誘拐/1.暴露/2.接点/3.目的/4.追跡/5.交点/6.住処/7.画壇/8.逃亡/9.空白/終章.再会 |
2. | |
「踊りつかれて」 ★★ |
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直木賞候補作になったということで読んだ次第。 冒頭、SNS上で他人を誹謗中傷し、面白がったり、ストレス解消していた者たちに宣戦布告がなされる。 自分の大好きだった芸能人2人がその犠牲になった、ついては重罪認定した83人の個人情報を暴露する、と。 −以下はネタバレ気味かもしれません。ご注意ください。− 本作は、SNS上のそうした問題を扱った社会派サスペンス小説かと思ったのですが、個人情報を暴露されて苦境に陥った身勝手な人間たちの顛末を描く部分は、ほんの冒頭だけ。 暴露した加害者はすぐ判明し、被害者の一人から告訴されます。 その加害者(瀬尾政夫)から弁護を依頼されたのは、弁護士の仕事に意義を持てなくなった処の久代奏(くしろかなで)。 そこからストーリーは、思いがけない方向に進んでいきます。 瀬尾が挙げた二人の芸能人とは、過去に捏造記事等によって芸能界から姿を消した天才的な歌手=奥田美月、SNSの誹謗中傷により自殺した芸人=天童ショージ。 実はその天童ショージ、久代の中学時代の同級生で、ずっと親しい間柄。 瀬尾は何故このような行動を起こしたのか、という久代による聞き込み調査が進むにつれ、思いもよらず暗と明の人生が露わになっていきます。 本作、瀬尾と美月、久代と天童という2つのバディ小説とも思えますし、大きな流れをもった苦闘の人間史とも思えます。 読者の見方によって、作品の色は変わりそうです。 なお、最後から3行目の言葉、それこそ本作を通じてのメッセージではないかと思います。 序章.宣戦布告/1.加/被害者たち/2.依頼/3.宵山に生まれて/4.東京/5.テレビ/6.公判/7.B面の夢/8.弁護士/9.独白/終章.踊りつかれて |