ハリウッド映画によくあるような、近未来バイオレンス・アクション風の長篇小説。 バイオレンス部分の非道さ、酷薄さには眼を背けたくなりますが、それでも惹き込まれてしまうのは、道州制導入の結果、首都を抱える関東州において飽和状態になった人口・犯罪を減らすため、社会で低位ランクに査定された人間(=執行該当者)を強制処分するという舞台設定が、あながち絵空事とも言えない要素を含んでいるためでしょうか。
そうした制度のため、あらゆる場所に監視の<眼>が設けられ、人々の行動を捉えて随時順位を自動判定していくという仕組み。
主要登場人物は、佐伯と篠田、槌田と春日という2組の特別執行官+補佐官に、監視の眼に対応できず監視障害者となった若い女性の加藤詩織。
その容赦なき執行をますますエスカレートしていく佐伯と篠田の一方で、突然に生じた民衆の暴動、爆発。
「ゼロになったら何者になるのか」という暗号のような言葉は、どんな意味をもっているのか。
裏面に何が隠されているのか判らぬまま疾走する暴力の渦、といった観あるストーリィ。その強烈な渦に引っ張られて読み通してしまったという印象です。
私の好みからは遠いストーリィですが、それでも本ストーリィの腕力を否定することはできません。
最近読んだ佐藤友哉「デンデラ」も相当にハードな小説でしたけれど、どこかにユーモア感がありました。それに対し本書は徹底して索莫とした感じ。それでもここまで徹底されてしまうと、引きずり込まれずにはいられない、ということでしょうか。
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