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1.キャプテンマークと銭湯と 2.ソノリティ はじまりのうた 3.透明なルール 4.わたしのbe |
| 「キャプテンマークと銭湯と」 ★★☆ | |
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※本作、中学入試に多数出題された作品だそうです。 サッカーのクラブチームに所属している中学2年の加賀谷周斗が主人公。 これまでずっとキャプテンを務めてきたが、U-14になって突然、キャプテンの座を一ヵ月前に加入したばかりの清野大地に奪われてしまう(皆の前で突然に柴山コーチが発表)。 強豪チームから移籍してきた大地は確かに上手い、でも・・・。 ショックからの苛立ちを抑えられなくなっていた周斗は、試合で物足りないプレーをした仲間についキツイ言葉を投げかけてしまう。それ以来、周斗は練習に足が向かなくなり・・・。 一方、そんな周斗を救ってくれたのは、亡き祖父が常連だったという銭湯<楽々湯>との出会い。薪で炊いた柔らかなお湯とともに、左官職人の比呂や女子高生のコナ等、常連客との交流が周斗の心を和らげていく。 ひとつのことだけに捕われ、夢中になってしまうと、周囲のことに目が向かなくなってしまうというのは、子どもだけでなく大人にあってもよくあることだと思います。 そんな時、世代を超えた人と交流や、それまでにない経験をすることは、視野を広げるのに役立ち、心を柔軟にしてくれるように思います。 それが、昔ながらの銭湯だった、というのが楽しい。 大地と思わぬ場所で遭遇したことが、周斗と大地の間に会話を生みます。 そして、楽々湯が思わぬトラブルに見舞われたとき、率先して動こうとしたのは・・・。 仲間との繋がり、世代を超えた人との交流、今では中々味わえなくなった銭湯の良さ。 好いですよねぇ本物語、お薦めです。 |
| 「ソノリティ はじまりのうた」 ★★ | |
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校内合唱コンクールを背景にした、中学一年生5人の青春譚。 水野早紀は引っ込み思案な性格。それなのに吹奏楽部だからという理由で教師から指揮者に指名されてしまったのですが、クラスをまとめる自信なんか、まるでない。 そんな早紀が一人で歌っている処をふと聴き、その澄み切った声に魅了されたのが、バスケ部員の山東涼万。早紀のためにも練習に協力したいと思うのですが、ついつい声の大きな同じバスケ部員の武井岳に引っ張られてしまう。 岳と保育園以来の幼馴染である金田晴美(キンタ)は女子バスケ部員。合唱の練習に積極的に参加するものの、オンチと岳に笑われたことがトラウマ。 ところがピアノの伴奏者であり、早紀と幼稚園以来の幼馴染みでやはり吹奏楽部員である井川音心(そうる)から、早紀と晴美二人でのソロを提案されたところからやる気をとり戻す。 一方の武井岳、バスケに情熱を燃やしているものの、膝の故障で練習を休まざるを得ず、また合唱練習に非協力的だったことから同級生たちからの疎外感を味わってしまう。 井川音心だけは冷静かつ大人びていて別なのですが、他の4人、自分の欠点にヤキモキしながらも、同級生の長所をきちんと認める良さを持っています。 そんな彼らが、互いに関わり合うことによって各自の良さを発揮していく、そんな本作はとても爽やかで清新です。 また、彼らの健やかで清らかな心根に触れるようで、とても気持ちが良い。 そう感じるのは彼らが、自身に対する評価はともかくとして、他人を素直に正しく評価する目を持っているからでしょう。 全編にわたり、清らかですこぶる気持ち良い作品、お薦めです。 プロローグ/1.涼万の場合−声の矢/2.キンタの場合−彫刻の手/3.岳の場合−玉のしずく/4.早紀の場合−シトラスムスクの香り/5.ソノリティ/エピローグ |
| 「透明なルール」 ★★☆ | |
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主人公は、中二の佐々木優希。母親が小四の時に病気で死去し、今は父親との二人暮らし。 自己評価が低く、学校では目立つことがないよう、自分らしさを抑えて過ごしている。 しかし、名門と言われる中高一貫校から転校してきた米倉愛がふと放った、「クラスに35人いれば、35通りの心がある」という言葉に衝撃を受けます。・ そして、運動も、人前に立つのも苦手という同級生で同じ生徒会役員の荻野誠、それでも彼は自分を偽ろうとはせず、いつもマイペース。 そんな二人と触れあったことで、優希の心にも変化が生じていきます・・・。 今の中学生たち、グループに入れてもらえないと学校生活がツライ、だから仲間たちに合わせようとする、という気持ちはわかるなぁ。 本作では、“同調圧力”という言葉で語られています。 でもそれを超えて、見えないルールを自ら作ってしまい、自分で自分を縛り付けてはいないだろうか、というのが本ストーリーのテーマです。 自分らしさを出せず、我慢してばかりだったらこんなに辛いことはありません。 伸び伸びと自分らしく成長して欲しい、そういう作者の願い、エールが籠められた作品。 お薦めです。 ※本作に登場する北側という中年男性教師、なんて時代錯誤的な人間かと笑えるほど。一方、優希たちクラスの担任で、教師二年目の女性=辛島、彼女の突然の告白には驚かされました。 |
| 「わたしのbe−書くたび、うまれる−」 ★★☆ | |
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高校を舞台にした、ルッキズム+部活(書道部)青春譚。 主人公は高等部に進学したばかりの望月文香。自分の容姿に自信がなく、部活動は中高合同の書道部。 その書道部に、友人が“リアルのヒカル様”と騒いだイケメン、桂田佑京が入部してきます。 さらにその佑京を狙って、学年で一、二を競う美少女=須藤蘭までが入部してくる。 それまでたった4人だった書道部、大丈夫なのか?と思うところですが、書に詳しい佑京、明るい蘭のおかげで活気づく。 とはいえ、佑京に恋心を覚えた文香、佑京と蘭の取り合わせにますます敗北感を味わうばかり。 せっかくの高校生活、あまり容姿ばかり気にしてもねぇと思うのですが、年頃で恋愛感情まで絡むとなれば、仕方ないのかも。 それでも、個性的な部員が新たに加わり、部活動に活気が生まれてくるのですから歓迎すべきこと。 それから紆余曲折を経て文香が知り、驚いたことは、佑京、蘭もまたそれぞれにコンプレックスを抱えていたという事実。 そうした展開の一方で魅力なのは、書道部の活動風景と、文香のちょっとした前進。 そして、皆の気持ちが一つになる、というのは何と快いことか、と思います。 外見を気にするより、やりたいことを夢中になって取り組む、そこから繋がりが生まれる、その方が余っ程素晴らしい。 書道部員たちの絡み合いが気持ち良く、ワクワクする気持ちが湧き上がってくる高校青春譚。好きだなぁ。 ※題名の「be」は、“美”であると同時に、“在り様”という意味でもある、と考えます。 シェイクスピアの「to be, or not to be」 という台詞に共通するものを感じましたので。 |