咲沢くれは作品のページ


1965年大阪府生、立命館大学二部文学部卒。生命保険会社に勤務後、中学教師を11年間務めたのちに退職。2018年「五年後に」にて第40回小説推理新人賞を受賞し作家デビュー。

 


                   

「五年後に ★★         小説推理新人賞


五年後に

2020年05月
双葉社

(1500円+税)



2020/07/18



amazon.co.jp

小説推理新人賞を受賞した表題作「五年後に」を含む4篇からなるデビュー短篇集。
4篇とも主人公が中学教師である点が特徴です。

・「
五年後に」:主人公は30代半ばの女性教師=安崎華
女子生徒から告白された若い男性教師、「五年後に言ってくれたらもっとうれしいのに」とその生徒に答えたのだという。
それと同じ言葉を、かつて夫が口にしていた。その真意は何だったのだろう。そして、その言葉によりどんな結果がもたらされたのだろう。
自分勝手で不用意な一言は、時によって人に大きな悲劇をもたらすことがある。その事実に気持ちが震えるような気がします。

「渡船場で」:主人公は46歳の教師=結城航平
仕事で忙しい妻の紘子との溝が広がるばかり。そんな航平の気持ちを救ったのは、学校帰りに寄る渡船場で出会う老女との会話だった・・・。
「眠るひと」:主人公は教師の藤枝泰子、78歳の母親と二人暮らし。その母親が末期癌で入院する、動揺したのは母親自身より泰子。40年前、母親が黙って家出し2日間戻らなかったことがある。その時母親は、誰の元へ行ったのか・・・。
「教室の匂いのなかで」:主人公は森野浩輔
担任クラスの中で村雨恭斗と古内拓は友人同士だった筈なのに、今や拓は恭人らにイジメられているのか?
自分は教師として何をすべきなのか。ふと自分の中学時代のことを振り返り・・・・。

各主人公自身の人生ドラマと共に、受け持ち生徒の問題にどう向き合えば良いのか、という迷いが描かれます。そしてまた、そこには、自分が同世代だった頃への回想と葛藤があります。

結局、生徒たちは夫々、自分の力で乗り越えなくてはいけないのでしょうか。教師ができるのは、その時傍にいてあげることくらいなのでしょうか。
「五年後に」と「教室に匂いのなかで」の2篇が、印象深いものでした。

五年後に/渡船場で/眠るひと/教室の匂いのなかで

        


   

to Top Page     to 国内作家 Index