彩藤
(さいどう)アザミ作品のページ


1989年岩手県盛岡市生、岩手大学教育学部芸術文化課程卒。2014年「サナキの森」にて第1回新潮ミステリー大賞を受賞。


1.
サナキの森

2.
樹液少女

 


           

1.
「サナキの森 ★☆         新潮ミステリー大賞


サナキの森画像

2015年01月
新潮社刊
(1400円+税)

2017年11月
新潮文庫化



2015/02/16



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「旧字体を駆使した昭和怪綺譚的テイストとラノベ的文体を併せもった新鮮な表現力」という紹介文にかなり期待して読んだ新人作品だったのですが、残念ながら期待までには至らず。

主人公の荊庭紅(いばらばこう)は、中学校教師を辞めてひきこもりになったばかりの27歳。その紅の亡き祖父である荊庭零は、在庭冷奴(あらばれいど)という筆名で猟奇的な小説を書いていた小説家。
その祖父が遺した
「サナキの森」という本の中に、紅は自分宛ての手紙が挟まれていることを見つけます。その内容は、遠野の外れにある佐代村へ行って、神社の祠に隠してある鼈甲の帯留めを持ち帰り自分の墓に供えて欲しいというもの。
そして紅は一人で遠野へ向かうのですが、そこで出会ったのが地元の名家である
東條家の娘で中学生の泪子(るいこ)。年齢の差を超えて意気投合した2人は、奇しくも泪子の曾祖母の時代に東條家で起きた殺人事件の真相を解き明かそうと行動を始める、というストーリィ。

上記主ストーリィと並行して語られるのが、妖女“サナキ”伝説と死者に娘を嫁がせる風習=“冥婚”をモチーフにした作中作である「サナキの森」。どうやらこの怪綺譚は実際に起きた事件とシンクロしているらしい。
古典的文体で書かれたその「サナキの森」がお見事、私としてはこの作中作部分の方が実は面白かった。
それと対照的に、主ストーリィは如何にもライトノベル風。
一冊の作品中に対照的な文体で語られる2作品が実質同居している、という構成が本作品の魅力なのでしょうけれど、その主ストーリィが何だかなァという思いです。
と言っても、あくまで両者は一体、切り離して考えることはできない作品であるということは理解しているのですが。

        

2.
「樹液少女 ★


樹液少女

2016年02月
新潮社刊

(1600円+税)



2016/02/14



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大雪で閉ざされた北海道は旭川、藍ヶ岳山頂にある天才的な磁器人形(ビスクドール)作家の架神千夜の邸を舞台に繰り広げられる連続殺人というゴシックミステリ。
表紙の人形絵、私にはどうも薄気味悪く感じられてしまうのですが、彩藤さんの2作目とあって読んでみた次第。

大雪の中、山頂にある邸を目指すのは
森本という青年。何か事件を起こして逃亡しているらしいのですが、それなのに何故架神邸を目指しているかというと、15年前4歳の時に行方知れずとなったままの妹=蓮華を探すためらしい。
その架神邸には4人の住人(少女、メイド、男)と5人の招待客(医者、フリーライター、舞台女優、占い師)が滞在している最中。しかし、主の架神千夜はついに自分の姿を現しません。

ストーリィの鍵は、架神千夜が作り続けてきた“樹液少女”と裏印に付けられているトランプコードの謎にある訳ですが、ついに殺人事件が連続して起きた後も、いったい誰が探偵役なのか判然とせず。探偵役かと思われた此代乃春は、いっこうに邸へ辿り着いた様子がありませんし。

ビスクドールに関わる薄気味悪さが全篇を覆っている一方で、ストーリィ展開は探偵役が定まらない所為かいまひとつ歯切れが悪いという印象。
所詮は好み次第ということなのかもしれませんが、最後に明らかにされる真相にも結末にも、すっきりしないという思いを禁じ得ず。


一日目/二日目/三日目/四日目/五日目/後日談

       


   

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