李 琴峰(り・ことみ)作品のページ


1989年台湾生、作家・日中翻訳者。2013年来日、早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程修了。17年「独り舞」にて群像新人文学賞優秀作を受賞し作家デビュー。21年「ポラリスが降り注ぐ夜」にて芸術選奨新人賞、同年「彼岸花が咲く島」にて 第165回芥川賞を受賞。


1.彼岸花が咲く島

2.生を祝う

 


                   

1.
「彼岸花が咲く島 ★★          芥川賞


彼岸花が咲く島

2021年06月
文芸春秋

(1750円+税)



2021/08/10



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芥川賞受賞を機に興味を感じて読んだ作品。

記憶を失った少女が漂着したのは、<
ノロ>と呼ばれる女性たちが島民たちを指導し、歴史を担っている不思議な島。

その島では、島民たちが使う<
ニホン語>以外に、<女語>という言葉があるが、女語を学べるのは女だけ。
女語を学び、試験に合格した女だけが<ノロ>となり、島の歴史を担うと共に島の行く末に責任を負う。

宇実(ウミ)と呼ばれることになった主人公の少女は、海岸で彼女を発見し助けた游娜(ヨナ)という少女、拓慈(タツ)という少年と親しくなりながら、島の生活に馴染んでいきます。
何やらファンタジーのようであり、近未来小説のようでもあり、さらに漂着した見知らぬ島で少女が生き抜いていく冒険小説のようでもある、という風で、楽しく読んでいけます。

何故、男ではなく女が指導的な立場にあるのか、ノロに選ばれた女だけが島の歴史を知ることができるのか? その理由は読み進む中で概ね推測がつきます。
しかし、この島の今がユートピアか、と問われれば、決してそうではないと言わざるを得ません。

島のこれからを担うのは、若い宇実や游娜、拓慈たち。そこには懸念より、期待を抱きます。
そう、これからどう進むかの選択は、若い人たちに任せるべきなの
でしょう。考え方が保守的になりがちな老人たちが、進路を牛耳るべきではないのです。

                    

2.
「生を祝う ★★




2021年12月
朝日新聞出版

(1600円+税)


2021/12/28


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同性婚、同性婚者による出産、死期の自己決定権が認められた近未来の日本社会、これらは皆想定内(女系天皇も認められたらしい)。
しかし、出産において胎児の合意が必要になった社会など、これまで想像したこともありませんでした。

本作が描くのはそんな未来社会。
特殊な信号で胎児とのやりとりが可能となり、胎児には出生に合意するか、拒否するかの選択権が法律で認められる。
つまり
“合意出生制度”なのだとか。
そして「合意出生公正証書」が作成されないまま出産に至ると、「合意なき出生」として親は出産強制罪に問われることになるというのですから、何と!

ただでさえ、妊娠〜出産は大変なイベント。せっかく胎児を育ててきて出産間近になったというのに、最後の最後でその胎児から拒否(リジェクト)を食らったとしたら、ショックはさぞ大きいことでしょう。

そんな世界など実現して欲しくないと思いますが、万が一そうなった時、人間とは、そして生命とはいったい何なのか?と問わずにはいられないでしょう。

      


   

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