九段理江作品のページ


1990年埼玉県生。2021年「悪い音楽」にて 第126回文學界新人賞を受賞し作家デビュー。23年「Schoolgirl」にて第73回芸術選奨新人賞、「しをかくうま」にて第45回野間文芸新人賞、「東京都同情塔」にて 第170回芥川賞を受賞。 


1.Schoolgirl 

2.東京都同情塔 

3.しをかくうま 

 


                   

1.
「Schoolgirl ★★      芸術選奨新人賞、文學界新人賞


Shoolgirl

2022年01月
文芸春秋

(1500円+税)


2022/02/15


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芥川賞受賞作・候補作というと少々身構えてしまうところがあるのですが、本書収録の2篇、予想の外に面白かったです。

「Schoolgirl」は、社会派YouTuberとしての活動に熱中している14歳の娘に、やたら批判されている母親=専業主婦が主人公。
まぁこの娘の、母親に対して何と容赦ないことか。
しかし、その母親だって外に出れば、知ったら娘が仰天するような行動をとっているのです。
遠慮ないやり取りは、母娘という関係だからなのでしょう。娘にとって母親は遠慮しないでいられる相手、という。現に最後は、母親に寄り添っている風ですから。
これが息子と父親の関係であれば、ただ無視される、というだけのことのように思います。

「悪い音楽」は、演奏者の道に進まず中学校の音楽教師となった三井ソナタが主人公。
その中学校での合唱祭、ソナタは生徒たちの状況を踏まえて適切な指導を行ってきたというのに、突然ひとりの女生徒がソナタを感情的に批判し、合唱指導者の座を奪い取ってしまう。その結果は・・・。まさにブラックジョークと言うべきでしょうか。


Schoolgirl/悪い音楽

             

2.
「東京都同情塔 ★★       芥川賞


東京都同情塔

2024年01月
新潮社

(1700円+税)



2024/02/19



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ザハ・ハディド設計による新国立競技場が建設されるという、実現しなかった現在とは異なる、別の日本、東京が舞台。
 
犯罪者は不幸な境遇の“同情されるべき人々”であるという再定義がなされ、彼らのために新宿に新しい刑務所<
シンパシータワートーキョー>が建てられることになります。
その設計を担ったのが、37歳の女性建築家である<サラ・マキナ・アーキテクツ>の牧名沙羅。
そのサラの本音は、美貌の青年、22歳の
拓人に向けて吐き出される・・・・。
(「
東京都同情塔」という名を口にしたのは、その拓人)

本作の解釈についてはいろいろな意見があるようです。
私としては、本ストーリィには常に対比があるように感じられました。
・日本語表記と、サラが嫌うカタカナ表記
・「東京都同情塔」と、「シンパシータワートーキョー」
・人間と、
AI-built(文章構築AI)
・自己への不信と、自己肯定

そこから感じるものは、選択しなければならない、ということです。
どう選択するか、我々の未来は、その選択にかかっている。
だとすれば、真剣に、慎重に、よくよく考えたうえで選択しなければならないのだ、という重い責任を突きつけられたように感じます。


※なお、本作中のAIに関する部分については、生成AIが作成した文章がそのまま使用されているとの由。その点は画期的と言えますし、受賞要素の一つとなったのではないでしょうか。

             

3.
「しをかくうま ★★       野間文芸新人賞


しをかくうま

2024年03月
文藝春秋

(1500円+税)


2024/04/05


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主人公は、TV局に勤務するアナウンサーで競馬中継を担当。
しかし、中継技量は我ながら今ひとつ。馬ともっと密接に通じ合いたいと思う。

一方、先史時代、原始人である
は馬のと出会う。
そしてヒは、「乗れ」という声を耳にして、マに何とか乗ろうと挑戦を繰り返す。

主人公が注目している競走馬は、
シヲカクウマ
その、人嫌いだという個人馬主=
ネアンドウターレンシスに会う機会を手に入れた主人公は、そのターレンシスの山中にある家を訪ねていく。そこでターレンシスが主人公に語ったのは・・・。

正直言って、ストーリーが有るようで無いような不確かな作品。
馬と人間の関係が、先史時代に遡って語られようとします。
その先に、いったい何があるのか・・・。

仕掛けに満ちた、実験的な小説、という印象です。

※なお、「シヲカクウマ」の「シ」は何のことか。それすらも、人によって解釈のしようマチマチのようです。

       


   

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