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１．小さいおじさん ２．有村家のその日まで ３．竜になれ、馬になれ ４．たこせんと蜻蛉玉 |
| 「小さいおじさん」 ★★ ボイルドエッグズ新人賞 | |
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中学２年の時に同級生だった女性３人の、28歳の今を描いた長編ストーリィ。 成績優秀だった曜子は今、設計士として仕事に手応えを感じているが、母親の最近の行動について心配を抱えている。 中学時代にクラスで花形だった女子も、社会に出て28歳にもなれば各々それなりに苦労、悩みも抱えているという姿が明瞭です。学校という閉ざされた世界と現実社会の違いと言ってしまえば簡単ですが、28歳という一つの曲がり角を迎えた女性たちが各々葛藤を抱えているという光景は理解できる気がします。 表題の“小さいおじさん”とは、地元の音無神社で目撃された、という謎の存在のこと。実在するのかどうかは別として、自分以外の者にちょっと後押しされた、という気持ちで一歩踏み出してみるのも良いのではないかなァと思った次第です。 |
| 「有村家のその日まで」 ★★ | |
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実家で父親と２人暮らしの母親が、末期がんであることが子供たちに知らされます。余命はもっても１年程とのこと。 それから母親が死すまでの有村家の姿を描いた家族物語。 死因の多くが癌という現在、いつ何時、どの家庭に起きても不思議ない出来事。 ただし、本ストーリィでの母親＝仁子が個性的、いや独創的。 医師の勧める治療方法、ケアを拒否し、サプリや怪しげな気功を信じて病気が治ると信じて疑わない。 おかげで父親や子供たちは振り回されてばかり。 ・父親＝照夫は、仁子の浪費癖の酷さに一度は離婚した程。何を言ってもきかないと、老後の蓄えが減るのを恐れつつ諦め顔。 ・在宅診療所を営んでいる長女＝美香子は、娘であると同時に医師として仁子に向かい合うことに。 ・独身でイラストレーターの次女＝文子・39歳は、母親の状況を心配しつつ、マンション隣室に住む、１年前に突然母親を亡くした少女あおい・５歳のシッターを引き受けているところ。 ・長男＝優は２人の妹と違って母親に強く出られない性格。その分夫に代わってと、嫁＝真弓が何とか仁子の浪費を止めさせようとあれこれ思案。 どう向き合えば良いのか、どう対処すればいいのか。それは本人の考え方次第もありますし、遺される家族の思いも当然あるでしょう。 本作では、仁子のキャラクターが際立っているが故に、その辺りの問題や苦労が明瞭に浮かび上がっている、という印象です。 ただ、何を言っても聞かない、非常識な考えに凝り固まっているという状況だと、家族としては参るだろうなぁ。 （病人だからなおさら、ということなのかもしれませんが。） 身近な問題についていろいろと考えさせられる、重たくもあり、コミカルでもある家族ストーリィ。 お薦めです。 一月／三月／五月／七月／八月／九月／亡き後 |
| 「竜になれ、馬になれ」 ★★ | |
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2023年08月
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理由は分からないながら小児脱毛症を患ったハル（橘波瑠）、小６の二学期からウィッグを付けて登校しますが、暑くて痒いし、友達に隠している気疲れから、友達とも遊ばず塾にも行けず、という困った状況。 そんな中、将棋好きのハルの目に偶然留まったのが「Hu･cafe」という名のカフェ。目が合った店の女性から、おいでをされてハルが店の中に足を踏み入れたのが、ハルと元女流棋士の神部夕子との出会いです。 そこから綴られるハルと夕子の物語。 毎日夕子の店に通うようになったハルは、夕子から将棋の手ほどきを受けながら、苦しい胸の内を打ち明けられる相手、場所をようやく見出すことができます。果たしてハルは、前に進むことができるのか。 一方、各章の間に挟まれる「夕子」の掌編は、夕子の物語。将棋に自身を失くした夕子が、棋士を引退し、店を開くまでの経緯、ハルに出会う時までが、ハルの物語と並行して綴られます。 12歳のハルと31歳の夕子。将棋が楽しいハルと、将棋が楽しくなくなった夕子。というように、２人は対照的です。 でも、将棋が好きなところ、自分の居場所を探しているという点では共通しています。 ２人が出会うことによって、互いに足りないところ、忘れていたものを思い出し、手を携えて前に進んでいけるのかもしれません。そうあって欲しいと、心から願うばかりです。 僅か半年余りの物語。２人の新しい道がここから伸びていくような、希望を感じるストーリィ。清冽で、心が洗われるような気がします。本作品、私は好きです。 1.九月一日／2.八十一のマス／夕子／3.端歩(はしふ)をつく／4.お母さんと二人／夕子／5.変わった子／6.小さなボート／夕子／7.本物の半分／8.四人組／夕子／9.歩の化け物／10.サンタクロースは来ない／夕子／11.ホワイトクリスマス／12.丸い月／夕子／13.穴熊／夕子 |
| 「たこせんと蜻蛉玉(とんぼだま) Tako Sen and Tombo Dama」 ★★ | |
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日常生活という狭い世界、そして地味なストーリィですけれど、読んでいてとても気持ちが好い、爽快です。 何故なら、主人公である宇多津早織が、今の生活にきちんと向かい合って精一杯生きているからでしょう。 主人公の早織は42歳。夫の槙は数年前に癌を再発して死去しており、今は染物工房の事務をして働き、小五の息子＝柊を一人で育てるシングルマザー。 その槙、25歳の時に癌の手術をしたことを早織に言わずに結婚、自分は夫から信用されていなかったのかというショックで、夫の籍から抜けて旧姓に戻り、夫のことは思い出さないようにしている。 一方、息子の柊、しばらく前から不登校、日がなベランダに出てＵＦＯが飛来するのを待ち受けている、という状況。 そんな早織、検査結果を聞きに行った病院で、淡路島の高校時代の同級生＝雨谷尚美と偶然再会します。雨谷はかつて因縁のあった相手。 その雨谷との再会によって、高校時代、同じ美術部だった沢井文也への初恋、そして雨谷との確執の思い出が鮮やかに蘇ってきます。 あの頃は、大人になったら遠くへ、行きたい処へ、羽ばたいて行けると思っていた。 実際、沢井文也は、羽ばたいていくことができた人間なのでしょう。それに比較して、今の早織はどうなのか・・・。 雨谷との友情の復活、柊との母子関係の再構築。目の前にある今をしっかり見据えてきちんとした足取りで生きていく、そんな早織の一途さが良いんだなぁ。心から応援したくなります。 ※なお、「たこせん」とは、たこ焼きを煎餅で挟んだものとのこと。蜻蛉玉と合わせて、早織の高校時代の思い出の品です。 1.ＵＦＯの来る日／2.最後に食べたいもの／3.右岸と左岸／4.初恋／5.空想の友達／6.ペントハウス／7.彼の匂いと熱と／8.ひそやかな欲望／9.あの夏の終わり／10.欄外の空／11.好きだった人／12.花火とＵＦＯ／13.送り火 |
