大竹昭子作品のページ


1950年東京都生。ノンフィクション、エッセイ、小説、写真評論等、ジャンルを横断した執筆活動を展開。

 


      

●「ソキョートーキョー(鼠京東京)」● 




2010年02月
ポプラ社刊
(1600円+税)

 

2010/04/09

 

amazon.co.jp

再開発が押し寄せていない東京の古い町、その町のマンションに住む幸太と、その地下に広がる、スナネズミアルタイたちが住む鼠たちの町=鼠京
その2つの町を並行して描いていく、長篇小説。

鼠京の中でも底の方、ドプチャプ街に住むドブ族たちと、乾いたところを好むモンゴルの砂漠原産であるスナ族たちは折り合って暮らしてきた。
それなのに、人間の街で古い建物が次々と壊され居場所を失ったクマ族が入り込んできてドブ族とぶつかり合うようになり、鼠京にも不穏な空気が漂う。
このネズミたちの街=鼠京、擬人化されていて新聞も発行され、まるで人間の世界のよう。
そして、食糧は人間たちの残飯に依存する等、人間の街があってこそネズミたちの街も存在し得る、という風なのです。

歴史の古くから、人間の住むところにネズミも住み、両者は共存してきた存在。
その事実をこうした形で描いて見せる、想像力を駆使して生まれた物語。
ネズミたちの、今の平穏な暮らしが永遠に続くとは言い切れない、血気にはやったクマ族の若者たちの暴走、そしてこの街もいつか大規模な災厄に襲われる可能性が否定できないとは、逆に人間社会にも通じるセリフです。

東京と鼠京を対のように描き、鼠京を借りて人間社会にも警鐘を鳴らすと同時に、壊れたら壊れたで若い連中が再び街を作り直せばいいだけだと助言する一冊。
しかし、私の脳裏の中、それ以上に想像力が広がっていくことのなかったことが、残念に思えます。

        


   

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