大城立裕
(おおしろ・たつひろ)作品のページ


1925年沖縄県中城村生。43年上海にあった東亜同文書院大学予科に入学したが、兵役、敗戦による大学閉鎖のため中退して46年帰国。
50年以降、琉球政府〜沖縄県の公務員。琉球政府通産局通商課長、県立博物館長を務め、86年定年退職。
その一方で、敗戦直後から青春の挫折と沖縄の運命を繋ぐ思想的な動機で文学を始め、59年「小説琉球処分」の新聞連載を開始、67年「カクテル・パーティ」にて沖縄初の芥川賞作家となる。琉球/沖縄の歴史、民俗をテーマとした作品を多く執筆、93年「日の果てから」にて平林たい子賞を受賞。また、86年からは沖縄芝居実験劇場に参加し、「世替りや世替りや」にて第22回紀伊國屋演劇賞特別賞を受賞。
90年紫綬褒章、91年沖縄タイムス賞、98年琉球新報賞、2000年沖縄県功労賞、10年日本演劇協会演劇功労者表彰。15年初の私小説「レールの向こう」にて第41回川端康成文学賞を受賞。20年10月死去。


1.レールの向こう

2.
あなた

  


     

1.
「レールの向こう ★★☆       川端康成文学賞


レールの向こう

2015年08月
新潮社刊

(1600円+税)



2015/09/25



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川端康成文学賞を受賞した「レールの向こう」を含む、沖縄を舞台とした短篇集。

冒頭の2篇「レールの向こう」と「病棟の窓」は“私小説”とのことです。
かつて近代日本文学はと言えば“私小説”という具合ですが、今はエンターテイメント小説が全盛、滅多に私小説にはお目にかかれません。すぐに思い出すのは佐伯一麦さんくらいでしょうか。
「レールの向こう」は妻が脳梗塞で倒れ、記憶障害もあって那覇市立病院に入院した後の日々を描いた作品。
そして
「病棟の窓」は、その後に今度は主人公自身が道端で倒れて救急搬送され、脚の骨折により入院となった後の日々を描いた作品。
両篇とも、年老いた後の夫婦生活を占うようなストーリィで、私小説ということも合わせてしみじみとした気分を味わいました。
なお、表題にある「レール」とは、那覇空港駅から首里駅までを結ぶモノレール
“ゆいレール”のこと。
昨年の沖縄旅行でゆいレールには何度も乗ったことから、左右の景色を思い出させられ、懐かしさと嬉しさを味わいました。

「まだか」は、95歳になる父親が入院して後の、主人公と2歳下と弟、5歳下の妹の微妙なやりとりを描いた作品で、正直なところ他人事ではありません。
「四十九日のアカバナー」「天女の幽霊」は、沖縄ならではの風俗等を基にした作品で、前者は亀甲墓、後者は巫女(ユタ)が登場します。

沖縄がすっかり好きになった私としては、小説の中でも沖縄に巡り合えるのはとても嬉しいことです。

レールの向こう/病棟の窓/まだか/四十九日のアカバナー/エントゥリアム/天女の幽霊

           

2.

「あなた ★★☆


あなた

2018年08月
新潮社刊

(1750円+税)



2018/09/27



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私小説とは縁のない小説ばかりを書いてきたという、92歳になる作家がレールの向こうに続いて刊行した私小説集。
読み始めてすぐ、あぁ良い小説だなぁと感じました。
じっくり読むほどに味わいがあり、また喜びも感じる、という類の一冊。
また、行間から感じられる沖縄の雰囲気も好いんだよなぁ。

「あなた」:1954年に見合い結婚して以来60年余を連れ添った亡き妻へ「あなた」と語り掛け、2人で共に過ごした年月を振り返った表題作。
名前を呼ぶのではなく「あなた」と呼ぶその言葉の中に、客観的に語ろうとし、妻を正当に評価したいと願う気持ちと共に、愛しく想う気持ちが温かみをもって感じられ、とても味わい深い篇になっています。
また、結婚が決まり2人でデートした折に亡き妻が語ったという
「わたし、一所懸命やるわ」という言葉が、いつまでも清冽に繰返し響いてきて、印象的です。

「辺野古遠望」:いうまでもなく、普天間基地の辺野古移転問題について、沖縄人の一人としての思いを語った篇。
今は、日本政府と米国の両方を相手にしなくてはならない。「米国だけを相手にしていたころの方がむしろ楽だった思われる節がある」というその言葉には、思わず頭を下げたい気持ちに駆られます。

「B組会始末」:同窓会を機に、かつての同級生たちのその後と思い出を語った篇。懐かしさと郷愁を感じる次第。
拈華微笑(ねんげみしょう):父親の思い出を語った篇。身勝手で浪費家、一緒に暮らした時間も短いという、どうしようもない父親ではあったものの、確かに筆者に対する愛情、優しさがあったと語っています。
「御嶽の少年」:中城村の祖父母の家で過ごした夏休みの日々の思い出を語った篇。いかにも田舎らしくのどかに過ぎていく時間が、むしろ豊かに感じられて愛おしい。
「消息たち」:東亜同文書院時代の学友たちから始まり、学生時代当時らの友人たちの消息を語った掌編。

あなた/辺野古遠望/B組会始末/拈華微笑/御嶽の少年/消息たち

   


  

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