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「九年前の祈り」 ★★ 芥川賞 | |
2017年12月
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芥川賞受賞ということで読んでみた一冊。 評価の理由は小説技法ということにあるらしいのですが、その辺りの理解は私の手に余るというのが正直なところです。 表題作の「九年前の祈り」は、カナダ人の夫と離婚して心に障害のある子供を連れて故郷、大分県の海辺の集落に戻ってきたシングルマザー=さなえ35歳を主人公にした作品。 さなえが慕う年上の女性=みっちゃん姉の息子が脳腫瘍で入院していると聞き、子供を連れて見舞いに行こうとするまでのストーリィです。 「ウミガメの夜」の主人公は都会からやってきた大学生3人、「お見舞い」の主人公は父親を継いで兄が経営する水産会社で働くトシ45歳。子供の頃兄のように慕っていたマコ兄は今や自堕落な中年男、それでもマコ兄と縁を切れないトシを描くストーリィ。 「悪の花」の主人公は、はみっちゃん姉の近所で、彼女とその息子の身を案じる独り身の老女=吉田千代子。 別々の物語と思っていたのですが、読み進む内に、同じ町で何らかの繋がりを持つ人々のストーリィと気づきます。 登場人物たちのいずれも、難しい問題を抱えています。頑張って解決しようとしたって、どうもできないような問題。 人がそこに至った時出来ることと言えば、祈ることだけではないでしょうか。そして苦しい中においても、他人のために祈るということができる人であれば、お互いに繋がり合うという救いを得ることができるのではないでしょうか。 一見バラバラなドラマに見えますが、そこにはさなえとミツ、トシとマコ兄、そして大学生、千代子とダイコー(大公)という繋がりを見い出すことができ、救われる思いがします。 九年前の祈り/ウミガメの夜/お見舞い/悪の花 |