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2.シューマンの指 4.黄色い水着の謎−桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活2− 5.東京自叙伝 6.雪の階 7.死神の棋譜 8.虚傳集 |
●「神 器(しんき)−軍艦「橿原」殺人事件−」● ★★☆ 野間文芸賞 |
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2011年08月
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時は太平洋戦争の敗色濃厚になった昭和20年、架空の軽巡洋艦「橿原」の艦内を舞台にした、とんでもないストーリィ。 副題にあるとおり、橿原の艦内で起きた殺人事件を口切にストーリィは展開していきます。 最初こそ石目上水の、現代青年的な口調がユニークな面白さを醸し出し、現代の視点から当時の状況を観察し直すと言う面白さあり。 まさに、小説であるからには何でもござれ、というストーリィ。 |
●「シューマンの指」● ★★ |
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2012年10月
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指を怪我してピアニストを断念した筈なのに、ドイツで鹿内は永嶺のピアノ演奏を聞いた、出演者リストにも
Masato Nagamineと確かにあったという。 ピアニストを断念する他ないような指の怪我を追った永嶺が、何故ピアニストとして再登場できたのか。その点で本作品は、あくまでミステリと言えます。 音大入学を目指す主人公の通う高校に、ジュニアコンクールで注目を浴びた美少年の天才ピアニスト=永嶺修人が入学してくる。永嶺と主人公の交流は、2歳年下の修人が師となって主人公にシューマンの音楽を説いていく、という展開。 |
●「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」● ★ |
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2013年11月
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准教授というからには当然にスマートな主人公というイメージを抱いていたのですが、大違い。研究者としても最底辺レベル、勤務する大学も相応して最底辺レベル、というのが本書主人公である“クワコー”こと桑潟幸一准教授のキャラクター設定。 本ストーリィの舞台となるのは、千葉県は権田市、女子短大から総合大学に転換したばかりの“たらちね国際大学”。 呪われた研究室/盗まれた手紙/森娘の秘密 |
4. | |
●「黄色い水着の謎−桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活2−」● ★ | |
2015年04月
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これ以上の下はいる筈がないという底辺の教授陣を揃え、存続が危ぶまれるたらちね国際大学、そこで恥ずかしいくらいにおバカな准教授ぶりを発揮しているクワコーこと桑潟幸一と、そのクワコーが顧問を務める文芸部の女子学生たちが繰り広げる滑稽推理綺譚、“桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活”第2弾。 差し詰めおバカなクワコーが常に危機に立たされる役、木村都与部長が率いる文芸部の面々が集団ワトソン役、“ホームレス女子大生ジンジン”こと神野仁美がホームズ役というのがこのシリーズにおける設定と言って良いでしょう。 「期末テストの怪」は、生徒たちの全解答用紙にひとつずつコメントを記載すべきとの馬沢教授からの命令に呆然としていたクワコーですが、何と研究室から肝腎の解答用紙が盗まれるという究極のピンチが発生。 「黄色い水着の謎」は、文芸部による夏休み恒例の海合宿に参加したクワコー、部員の一人であるギャル早田の黄色い水着が盗まれたばかりか、クワコーのバッグの中からそれが発見されるというピンチ。 2回ともクワコー、文芸部の面々に好きなようにコケにされつつ、有料でピントを救ってもらうという前巻どおりの展開。 推理の鮮やかさ、名推理という要素より、クワコーのバカにされっぱなし部分にどうも面白みがある本シリーズ、読み手もまた翻弄されているような気がしないでもありません。(苦笑) 期末テストの怪/黄色い水着の謎 |
5. | |
「東京自叙伝」 ★★☆ 谷崎潤一郎賞 | |
2017年05月
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冒頭は幕末、そして明治維新という動乱の時代。 そんな時代にあって御家人の養子となり柿崎幸緒となった主人公は、時代の動きに浮かれながらも要領良く世渡りして生きていきます。 そんな柿崎の意識は、鼠や猫を経て、今度はやがて陸軍中枢で昇進していく榊春彦という人物に移り変わります。 6人の人物を移り渡りながら、幕末・維新から太平洋戦争を経てバブル、原発事故までという東京の近世史をたった一人の主観により描いた奇想天外ストーリィ。 主人公の意識が次々と乗り替わっていく展開は奇々怪々と思う他ないストーリィですが、次第に別の姿が浮かび上がってきます。誰がという特定人物のことではなく、これは東京という首都に充満した時代の空気というものではなかったか、と。 主人公は、大好きな東京にいるだけでついつい興奮し、後先考えず目先のことに夢中になり、深く考えることもなしに突っ走ってしまう性格設定。それはもう一人の人物像より、東京に巣食った群集像という方が相応しい。 世の中、なるようにしかならない、というのがテーマとか。 東京、そして日本が歩んだ現代歴史をまさに仮想体験するようにして描いていくストーリィですが、語り手がお調子者で軽率な処ある主人公像に設定されているため、良きにしろ悪しきにしろ愉快(?)と言って良い位に面白い。 しかし、面白いとばかり言っていられないのも事実で、所詮そんなものだと達観するのか、反省して教訓にするのか、それは読者に委ねられていると受け止めるべきでしょう。 いずれにせよ、奇書風な実験的歴史小説。読み応え十分! 1.柿崎幸緒/2.榊春彦/3.曽根大吾/4.友成光宏/5.戸部みどり/6.郷原聖士 |
6. | |
「雪の階(きざはし)」 ★★ 柴田錬三郎賞・毎日出版文化賞 |
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2020年12月
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二つの文学賞を受賞したこともあって読もうとは思いつつ、単行本の余りの厚さにいずれ機会を見てと決めた後、ずるずるとそのままになっていた作品。ようやく読むに至りました。 昭和十年、笹宮伯爵家の令嬢である惟佐子は、ただ一人の友人と言っていい宇田川寿子が富士樹海で心中したというニュース報道を知って不審を抱きます。 何故なら、寿子から仙台中央の消印がある葉書が届き、そこには帰ってきたら事情を話す、と書かれていたから。 惟佐子が事件の真相を調べようと探偵役を委ねたのは、かつての「おあいてさん」(親が選んで当てがった友人役)、現在は女性カメラマンの牧村千代子。 その千代子、新聞記者の蔵原誠治を巻き込み、二人で寿子の行動を調べ始めますが、その過程で浮かび上がったのは・・・。 寿子の心中相手とされたのは、陸軍中尉の久慈亮二。 そこから、久慈の士官学校同期の槇岡貴之陸軍中尉、さらに惟佐子の15歳上の兄、やはり陸軍中尉である惟秀も登場します。もしや寿子の事件に陸軍士官たちが何か関わっているのか。 一方、父親の笹宮惟重は、国政の舞台で美濃部達吉教授が唱えた<天皇機関説>排撃の急先鋒、かつ反英米・親独派の最右翼と、当時の社会風潮を象徴するような人物で、現代からするとやたらきな臭いところあり。 そうした情勢は、まさに<二・二六事件>前夜。 ストーリーはミステリから始まり、歴史的事実を基にした歴史フィクション、恋愛、薄幸な少女たちの苦難と進んでいきますが、奥泉さんが本作で設定したとんでもない発想、妄想には、驚愕するばかり。 こんなことを本気で信じる人間が・・・と思った処で、それは冒頭から伏線が敷かれていたと気付きます。 ナチスの選民思想とも、パズルのピースがぴったりハマるようなものですが、それにしてもこれはもう・・・・。 驚愕かつ壮大な、ミステリ&歴史フィクション。また、多岐にわたる事実の積み重ねと、数多くの人物登場により、読み応えたっぷりです。 ただ、本作で最大の謎はむしろ、笹宮惟佐子という人物にあります。これは最後までしかと判らず。しかし、最後の惟佐子の行動は、颯爽とし、また痛快、そして感嘆するばかり。 一方、千代子と蔵原の、ごく普通の人間っぽい様が対照的で、微笑ましい。 第一章〜第五章 |
7. | |
「死神の棋譜」 ★★ |
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2023年03月
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奥泉光さんの繰り広げるミステリは、並大抵のものではないという印象が強いのですが、本作もまさにそうした一冊。 それどころから、魔界に引きずり込まれるような不気味さにとらわれました。 四段に昇段できず奨励会を退会した十河樹生三段がその後失踪。 そして22年後、またもや同様の状況で夏尾裕樹三段が失踪。 奇しくもその2人、直前に矢文の詰将棋図面を手にしていた。 その図面から浮かび上がってくるのは、かつて北海道に存在したという将棋団体「棋道会」、そしてその「龍神棋」。 夏尾の失踪を追おうとする主人公=北沢克弘は、やはり奨励会を退会して今は物書き。 その北沢に、同様の経緯で先輩物書きとなった天谷啓太郎が、十河失踪とかつて棋道会があった地=姥谷の調査行について語ります。 さらに夏尾の後輩で女流棋士二段の若い玖村麻里奈が、北沢と調査行を共にします。 さて2人の失踪には、どんな秘密の闇が隠されているのか。 将棋に憑りつかれたような十河、夏尾の行跡は相当に不気味。 しかし、終盤、すべての予想を覆すような展開には呆然とせざるを得ません。 ただ、そうしたミステリとしての巧妙な仕掛けに増して本作に圧倒されるのは、現実とも幽明会とも定かならない地下神殿、龍神棋の対局場面です。 将棋には全く門外漢の私ですが、この死神像は本当に怖い。 1.名人戦の夜/2.地下神殿の対局/3.謎への旅程/4.仮説と告白/5.死神の棋譜 |
8. | |
「虚傳集」 ★★ |
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出版社紹介文に「虚も語れば実となる。稀代の名手が贈る偽書歴史小説集」とあります。 そもそも小説とはフィクションですから、事実そのものではありませんが、歴史小説となればある程度事実を踏まえているもの、という思い込みがあります。 しかも、如何にも事実を小説化したらしい雰囲気をもった作品となればなおのこと。 本作もまさしくそんな短篇集なのですが、最初から堂々と虚史、と明言されてしまう処にむしろ面白さを感じます。 冒頭篇の「清心館小伝」がまず面白い、噴飯ものです。 江戸で有名な三道場の他に、もうひとつ有名だった道場がある、という処から語りだされるのですが、この<自然天真流清心道場>が教える剣法というか兵法に仰天します。本当にこんな流派があったのか、とつい信じ込んでしまいそうです。 この辺りがまさに、奥泉光さんの語りの上手さなのでしょう。 他の篇も、如何にも実際にあった事実と思ってしまう処を、いやいやこれはあくまで偽書、と思い返しつつ読み進むところに楽しさあり。 大長編の多い奥泉さんにあっては初めての短篇集ということで、取り組みやすい一冊。是非お薦めしたい処です。 ・「印地打ち」:信玄、真田家に投石術を以て仕えた“印地の衆”がいたという。その術は天下人をも驚かし・・・。 ・「寶井俊慶」:霊木から仏像を掘りだす技を運慶から学んだという仏師。しかしその名は、好事家の間で張型の代名詞にも。 ・「江戸の錬金術師」:医業の傍ら、朱子学、蘭学、からくり製作、見世物興業まで。錬金術師と呼ばれたその人物は・・・。 ・「桂跳ね」:幕末、将棋の好敵手として友情に結ばれた豪農の息子と武家の三男。その最後の一手は・・・。 清心館小伝/印地打ち/寶井俊慶/江戸の錬金術師/桂跳ね |