荻原規子作品のページ


1959年東京都生、早稲田大学教育学部国語国文学科
卒。88年「空色勾玉」にて作家デビュー、児童文学作家として活躍。89年「空色勾玉」にて第22回日本児童文学者協会新人賞、97年「薄紅天女」にて第27回赤い鳥文学賞、94年「これは王国のかぎ」にて第41回産経児童出版文化賞、2006年「風神秘抄」にて第53回産経児童出版文化賞・第46回日本児童文学者協会賞・第55回小学館児童出版文化賞を受賞。


1.
風神秘抄

2.RDG−はじめてのお使い−

3.RDG2−はじめてのお化粧−

4.RDG3−夏休みの過ごしかた−

5.RDG4−世界遺産の少女−

6.RDG5−学園の一番長い日−

7.RDG6ー星降る夜に願うこと−

8.あまねく神竜住まう国

9.RDG−氷の靴 ガラスの靴−

 


   

1.

●「風神秘抄」● ★★
        
産経児童出版文化賞・日本児童文学者協会賞・小学館児童出版文化賞


風塵秘抄画像

2005年05月
徳間書店刊
(2500円+税)

2014年03月
徳間文庫化
(上下)



2009/08/23



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平安末期、源義朝らが起こした“平治の乱”の後を舞台にした古典的・歴史ファンタジー。

義朝の嫡子で悪源太と異名をとった源義平に従った16歳の坂東武者、草十郎こと足立十郎遠光が主人公。
この主人公の不思議なところは、彼が母親の遺品である笛を吹くと、鳥や獣がいつの間にか集まり、笛の音に聞き惚れているような様子を見せること。
戦に破れ逃避行の最中に傷を受けはぐれた草十郎は、盗賊団の首領に助けられた後、再び京の都に戻ります。
付き従うのは、人間世界での修業を命じられた“鳥の王”と名乗る、カラスの鳥彦王。なんと草十郎、笛を力によって鳥の王と言葉を交わす能力があるらしい。
その草十郎が六条河原で出会ったのは、不思議な舞を披露する少女。その少女の舞と草十郎の笛が合わさってひとつの音律を奏でるとき、特異な力が引き起こされることに2人は気づきます。
その2人の力に後白河上皇が目をつけたとき、2人の運命に暗雲が漂い始める・・・。

若者と少女が時空を超えて惹かれ合うラブ・ファンタジー。
そして同時に、日本の中世史を舞台にした純日本的ファンタジーであるという点が、本作品の得難いところ。
坂東の若武者である草十郎と遊君である糸世(いとせ)という組み合わせも魅力ですが、冒険旅を共にし、時に鳥の王である力を発揮して草十郎を助ける鳥彦王と草十郎のコンビが、異色過ぎるからこそ魅力に富んでいます。

ただ、話が長い。こんなに長い必要があったのだろうか。また、鳥と言葉を交わす能力と異世界に通じる能力とが共に笛からもたらされるという点にも少し無理があるような・・・。
結末に至っての納得感・達成感にやや欠ける印象と合わせ、ストーリィに少し粗いところを感じます。
ただ、日本ならではの歴史ファンタジー小説という点では、やはり興味尽きず、楽しんで読めた作品であることに間違いありません。

   

2.

●「RDG レッドデータガール−はじめてのお使い−」● ★★


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2008年07月
角川書店刊
(1600円+税)

2011年06月
角川文庫化



2009/08/03



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子どもから大人まで、全ての読者に物語(ファンタジー)の喜びを伝えようという“カドカワ銀のさじシリーズ”中の一作。

山伏の修験場として世界遺産にも認定される、熊野の玉倉山頂にある玉倉神社
そこで生まれ育ち、今も山頂から毎日車で中学校に通う鈴原泉水子は、内気で運動も苦手な目立たない女の子。
警視庁公安部に勤める母親の紫子、米シリコンバレーにスカウトされた父親の大成とはずっと離れ離れ、神社の宮司である祖父の竹臣、家事を担う末森佐和と暮らしている。
その泉水子が高校進学を前にして、前髪をちょっとだけ切り、自分が進学を希望する高校を口にした頃から、泉水子の周りには不可解な出来事が相次いで起きる。
それとまるで時期を合わせたかのように、かねてから知る父の友人で“山伏”であるという相楽雪政が現れ、泉水子と同学年の息子=深行を強引に泉水子と同じ中学に転校させてくる。

いったい泉水子にはどんな秘密が、能力が隠されているのか。そしてまた、相楽は息子を何のために泉水子の周辺に置こうとするのか。
アニミズム的なファンタジー・ストーリィ、第一作。
主人公の泉水子が、特殊な才能を持つとは思えないような、内気で地味、目立たないタイプの女の子であるからこそ、なおさらどんな秘密が隠されているのかと、興味惹かれます。
何はともあれ、シリーズの第一作。これからの展開に興味津々。

なお、「RDG」は「レッドデータガール」の頭文字。どういう意味なのかはともかく、泉水子、意識することなく、パソコン、携帯、ゲームと典型的な最新機器を何故かすぐ壊してしまうという導入部分が、非現代的で興味湧きます。

1.泉水子(いずみこ)/2.深行(みゆき)/3.雪政/4.和宮

     

3.

●「RDG2 レッドデータガール−はじめてのお化粧−」● ★★


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2009年05月
角川書店刊
(1600円+税)

2011年12月
角川文庫化



2009/10/24



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「RDG」シリーズ、第2巻。
初めて熊野の玉倉神社を離れ、父親の勧める東京(八王子)の鳳城学園に寄宿生として入学した鈴原泉水子が、その鳳城学園で思いも寄らぬ生徒たちに出会うストーリィ。

一見、選りすぐりの優秀な生徒を集めた寄宿生学校という風の鳳城学園でしたが、次第にその謎めいた状況が明らかになっていきます。
前巻では、幼い頃から修験道に精進してきた相楽深行が格別の存在でしたが、ここ鳳城学園にはその深行を越える力の持ち主がいる、ということが何よりのインパクト。
その一人である男子生徒、高校を牛耳ろうというのか、1年にして早くも生徒会長に立候補するらしいと噂がながれ、深行は率先してそれに対抗しようとする。
一方、人気抜群の女子生徒であり、泉水子と相部屋となった宗田(そうだ)真響とその三つ子の弟=真夏、彼らもまた深行を越える力の持ち主なのか。

引っ込み思案な性格なのに格別の存在である泉水子、山伏である深行の2人があくまで主たる存在と思っていたら、さらに陰陽師の系統や忍者の里=戸隠の系統の特異能力をもつ者まで登場、日本古来のアニミズム的ファンタジー物語の要素を本巻はいっそう濃くしています。
この辺り、荻原さんならではの面白さでしょう。
シリーズものは、巻を追う毎に面白さが高まっていく、というのが見せ所なのですが、本シリーズはそんな期待を裏切らず、という気がします。次巻も楽しみです。

※なお、絶滅の恐れのある野生生物の情報をとりまとめた本を「レッドデータブック」と言うらしい。本書の題名の「レッドデータガール」とは、そうした意味のようです。    

1.真響(まゆら)/2.一条/3.真夏(まなつ)/4.穂高

  

4.

●「RDG3 レッドデータガール−夏休みの過ごしかた−」● ★★


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2010年05月
角川書店刊
(1600円+税)

2012年07月
角川文庫化


2010/06/20


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「RDG」シリーズ、第3巻。
初めての夏休み、秋の学園祭準備のため泉水子・深行ら生徒会実行委員たちは、宗田真響(まゆら)の提案を受けて、彼女の故郷・戸隠で夏合宿をすることに。
しかし、戸隠に行くというと、実家の佐和、相楽雪政ともいい顔をしない。泉水子が戸隠に行くこと自体に何か懸念することがあるのか。
それにそもそも真響、何か画策していることがあるらしい。

舞台が宗田姉弟の元々の出身地である戸隠とあってか、本巻ストーリィは真響、真夏、そして今は亡き三つ子の残る一人=真澄をめぐるストーリィ。
後半その3人の葛藤に泉水子と深行は巻き込まれ、大いなる危機に直面することに。そしてその時現れたのは・・・・。

前2巻に比べると泉水子の立場は脇役的。姫神の衝撃的な登場もなく、面白さとしてはやや減。
ただし、この1冊だけをとって云々しても仕方ないこと。この長い物語自体に興味が尽きないのですから。
そして、各巻毎、泉水子自身も知らない彼女の秘密が少しずつ明らかになっていくのですから。

1.休暇前/2.訪問/3.重層/4.真澄(ますみ)

            

5.

●「RDG4 レッドデータガール−世界遺産の少女−」● ★★


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2011年05月
角川書店刊
(1600円+税)

2012年12月
角川文庫化


2011/06/18


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「RDG」シリーズ、第4巻。
夏休みが終わって
泉水子鳳城学園に戻りますが、キャンパスに足を踏み入れた途端、何か違和感が・・・。
一方、戦国時代をテーマにする秋の学園祭に向けて本格的な準備が始まりますが、何やら泉水子を引っ張り出そうとする企みが密かに進行している気配。
本巻でははっきり表面に出ませんが、見えないところでは相変わらず陰陽師の
高柳一条一派と宗田真響・真夏姉弟らとの対立が繰り広げられているらしい。
そんな中で何も気付かずのほほんとしていると、泉水子に対し
深行がいらだちを見せますが、泉水子もまた深行に対する感情は微妙。
内気で大人しいだけの存在だった泉水子も、漸く年齢相応の女の子らしい感情を見せ始めます。

本巻では、泉水子が三つ編みを解かないでいた状況にもかかわらず姫神が登場、深行に自分のことを少し語ります。
でも、判ったようで何も判らないような・・・・。
荻原さん、読者に対しそう簡単に手の内は明かさないようです。

とにかく、興味は次の、鳳城学園祭で何が起きるのか?に向います。本巻は、学園祭に向けての初段階と本段階の中間にあり、繋ぐ章と言えるでしょう。

1.城跡/2.護身/3.顕現/4.結界

                 

6.

●「RDG5 レッドデータガール−学園の一番長い日−」● ★★


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2011年10月
角川書店刊
(1700円+税)

2013年03月
角川文庫化



2011/11/23



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「RDG」シリーズ、第5巻。
いよいよ鳳城学園の文化祭<
戦国学園祭>が開催されます。
陰陽師である
高柳一条一派は、学園祭をきっかけに何かを企んでいる筈。相楽深行宗田真響・真夏姉弟らは高柳一派の動きを警戒しますが、一方で泉水子を含む執行部は黒子役にも回らなくてはならないため、そう高柳ばかりを気にしている訳にはいきません。
一方、目立たない存在であった筈の泉水子がいつのまにか中等部の生徒たちから注目を浴びていて、やたら泉水子を表舞台に引きずり出そうとうする不穏な動きが見られます
そして学園祭のメインイベントである八王子城攻めに見立てた合戦ゲームの最中、泉水子は高柳の仕掛けた巧妙な罠にうかうかと嵌ってしまう。
しかし、罠に気づいた泉水子はついに怒りを爆発させ・・・・。

鈴原泉水子が目覚め、真の力の一端を示す巻。
これまでは
宗田真響・真夏・真澄3姉弟の存在が目立っていましたが、この巻に至って初めて、泉水子は戸隠忍者の正統である宗田姉弟、陰陽師の系統である高柳を遥かに超えた存在であることが示されます。
そしてもうひとつ、泉水子にとって相楽深行の存在が大切なものであることも。
本書は、本物語の転機であると同時に、本物語が今後さらにスケールアップしていくだろうことを予感させる巻となっています。
これまでの巻にない刺激的な面白さを味わえることは勿論ですが、今後の巻への期待が大きく膨らみます。楽しみ。

1.布告/2.暗躍/3.迷走/4.選択

         

7.

●「RDG6 レッドデータガール−星降る夜に願うこと−」● ★★


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2012年11月
角川書店刊
(1700円+税)



2012/12/25



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「RDG」シリーズ、第6巻にして最終巻。
本シリーズ、何となくもっと続くものと思い込んでいたので、意外の感が強いです。随分あっさりと終わってしまうのだなぁとまず感じた次第。

本書ストーリィはまず、世界遺産最終候補を巡る争いから蓋を開けます。陰陽師派の代表である高柳一条の挑戦を受け、陰の生徒会長=村上穂高の仕切りの下、ついに鈴原泉水子は高柳と術を競って対決することになります。
もう周囲に守られているだけで済んでいた時期は通り過ぎ、自分が守りたいものは自分の手で守らなくてはならない、そうした段階に泉水子は至っていた、ということ。
しかしその後のクリスマス・パーティ前後、遥かに驚くべき事態が泉水子、そして
相楽深行を襲います。それは外部からの、泉水子を自らの利益のために利用しようとする力の侵入。
さて、泉水子・深行らは自分たちの世界を守れるのか。

まだまだこれからという段階で終わってしまうのかという気分なのですが、元々子供から大人まで楽しめるファンタジー物語をという“銀のさじシリーズ”のコンセプトからすると、ちょうど良い幕切れ時期なのかもしれません。
いずれにせよ、最終巻を迎えたからといって泉水子や深行、
宗田姉弟らの物語が終る訳ではありません。
むしろ本書の結末に至り、泉水子と深行は手を携えてやっとスタートラインに立った、と言うべきでしょう。
全6巻が、これからに向けて2人がスタートラインに立つまでのストーリィだったというのは、それはそれで楽しいものがあります。
できればいつか、再び泉水子と深行らに会いたいものだと思いますが、それは予測できない未来のこととして楽しみに取っておきたいと思います。

消失/再審/冬至/瑞穂

   

8.

「あまねく神竜住まう国」 ★★


あまねく神竜

2015年02月
徳間書店刊
(1600円+税)

2018年09月
徳間文庫化



2015/06/01



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伊豆に流刑となっていた少年時の源頼朝を主人公にした歴史ファンタジー。
頼朝が主人公ということで躊躇する処があり一度は見送ったのですが、思い直して読んでみたら、予想外の面白さでした。

父親の義朝のみならず兄弟らも殺され、1人伊豆に流刑となった頼朝。将来に何の希望も見いだせないどころか、生き延びられるかどうかさえ定かではない絶望的な状況。
そんな頼朝の前に元乳母の娘婿という名目で現れたのが
草十郎、そして遅れて登場したその妻の糸世
しかしこの2人は、頼朝の助力者になるという目的の他に、複雑な事情を抱えているらしい。その辺りは本書でもざっと語られますが、正直に言って判らない部分も多々あります。実はその草十郎と糸世の経緯は
風神秘抄に描かれていて、既にそこにおいて頼朝との関わり合いも生じていました。

要は、草十郎と糸世に助けられながら少年頼朝が、伊豆の土地神である大蛇と対決し、それとの苦闘の末に伊豆の土地、人々に受け入れられるに至るまでを描いた歴史ファンタジー物語。
日本の歴史を築いた歴史上の実在人物=源頼朝をファンタジー物語の世界に取り込んだという点も面白いのですが、伊豆を語るについて
“土地神”という発想を持ってきたところがお見事!

なお、「風神秘抄」から繋がっている物語なので、同作を先に読んでから本書を読んだ方が、ストーリィにすんなり入り込めると思います。

1.流刑の地で/2.祭りの夜に/3.権現の参詣/4.神竜と蛇と

                 

9.
「RDG−氷の靴 ガラスの靴− ★★


RDG 氷の靴 ガラスの靴

2017年12月
角川書店刊

(1500円+税)

2019年01月
角川文庫化



2018/02/21



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RDG”シリーズ全6巻が完結して5年、その追加巻が出るとは思いもしていなかったため、正直言ってびっくり。

収録されているのは、これまでの物語に遡り、断片的に
相楽深行の視点から描く短編3作。
粟谷中に転校してきた中三の初夏、さらに鳳城学園に転校した中三の秋、そして鳳城学園での高一の秋と3つの時期が描かれますが、そのすべての場面において深行の目線の向こうには鈴原泉水子がいる、という処が楽しい。

表題作である
「氷の靴 ガラスの靴」は、その後の物語を描いた中編。宗田真響(まゆら)が主人公に設定されています。
突然行われることになったスケート教室、しかも有名ホテルでの宿泊付き。
何故突然にこんな催しが行われたかというと、真響の祖父=
宗田重蔵が、早く孫娘の婚約者を決めてしまおうと裏で企んだことらしい。
そんな訳なら放っておけないと泉水子や深行ら
“チーム姫神”の面々も宗田姉弟と一緒に参加します。
ところがそこで思わぬ出来事が・・・・。
突如姿を現した危機に、チーム姫神の面々が力を合わせて対抗するという、ファンタジーでスリリングな展開へ。

やっぱりこのシリーズは面白い! 何といっても、
忍者山伏陰陽師と、和風ファンタジーの主役にそれぞれなっても不思議ないそれらの末裔たちが泉水子を囲んで出揃っているのですから。

この面白さを読者に思い出させてしまった荻原さん、こうなれば是非「RDG」シリーズの再開をお願いしたいところですが。


影絵芝居−相楽深行・中三の初夏−/九月の転校生−相楽深行・中三の秋/相楽くんは忙しい−相楽深行・高一の秋/氷の靴 ガラスの靴−宗田真響・高一の冬/あとがき

  


   

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