野中 柊作品のページ


1964年生、新潟県出身。立教大学卒業後、渡米。ニューヨーク州在住中の91年「コモギ・アイス」にて海燕新人文学賞を受賞し、作家デビュー。


1.
マルシェ・アンジュール

2.シュガー アンド スパイス

 


   

1.

●「マルシェ・アンジュール MARCHE UN JOUR」● 




2007年10月
文芸春秋刊

(1429円+税)

 

2007/10/27

 

amazon.co.jp

24時間営業の高級スーパー、“マルシェ・アンジュール”を背景に出会いと恋をめぐる人間模様を描いた短篇集。

スーパーといえば人が多く集まる場所。そこを訪れる人にはそれぞれのドラマがある。
その点ホテルと似ますが、お客をもてなそうと待つ人がいるホテルと違い、基本的にスーパーに人はいません。その代わり、そこには様々な高級果物や輸入食品が色鮮やかに並べられています。
その風景に夢を感じるかどうかは、所詮訪れる人の気持ち次第なのでしょう。
本書では、夫との間に隙間を感じるようになった主婦、知り合って間もない高校生カップル、恋人に去られたばかりの女性、現在恋人のいる女性が、先への希望をこの店によって繋ごうと訪れます。
店の名前“アンジュール”は、ある日、とか、いつか、という意味とのこと。本書ストーリィを象徴する名前です。

最後の章「聖夜」は、この店で働く咲子が主人公。
それまでの章でも彼女は店内のデリカテッセン担当の女性として登場していますが、改めて主人公として登場することで、マルシェ・アンジュールが決して無機質な場所でないことを示すかのようです。
その彼女もまた、この店での出会いに夢を託していたことが最後に描かれ、本書を気持ち良く読み終えることができました。

ただ、本書は女性の揺れる胸の内を丹念に描いていて、女性向きのストーリィと言えるでしょうか。
小説としての価値とは別に、私の好みからはちょっとズレのある作品。それ故に評価は低めとなりました。

初恋/予感/記憶/距離/星座/聖夜

  

2.

●「シュガー アンド スパイス Sugar and Spice」● 




2009年10月
角川書店刊

(1600円+税)

 

2009/11/14

 

amazon.co.jp

天才的なパティシェ=柳原弘明が腕を振るう店、それがパティスリー・ルージュ
その店で働く見習いシェフ=永井晴香21歳を主人公、パティスリー・ルージュを舞台に、仕事、美味、恋を描いた連作短篇集。

ケーキ、美味、というと大好きです。
だからこそ本書に手を出したようなものでしたけれど、う〜ん、今ひとつ盛り上がらないなぁ・・・。
柳原シェフが作り出す、究極の美味というべきそのオリジナル・ケーキの描き方が足りないのでしょうか。それとも、私の感度が低い所為なのか。
正直言って、最近美味しいケーキへの執着が薄れてきたんですよねぇ。もしかすると、ケーキを食べ飽きてきたのかも。
若い頃にフランス料理とかケーキとか一人で食べ歩いた経験から言うと、美味しい料理を食べて、あぁ満足、お腹一杯、というその後で出てくるデザートのケーキこそ、実は本当に美味しい、と思うのです。ですから、ケーキだけだと物足りない、という思いが私にはありまして。
肝心のケーキ作り部分が盛り上がらなかったので、ストーリィ自体についても今一つというのは、私として当然の成り行き。

そんなことはともかくとして、美味しいケーキを作り出すためには、身を焦がすような恋、等々が必要なのかもしれません。
そのためか、主人公の晴香は、柳原シェフと店のオーナーであり女優でもある坂崎紅子との関係にやきもきしたり、高校時代からの恋人に突然振られたり、恋焦がれる気持ち持て余したりと、様々な経験をしながら、パティスリー・シェフとしてもちょっとばかり成長する姿を描くストーリィ。
もちろん、数々のケーキ作り部分も見逃せません。
バースデーケーキ、記念日向けスウィーツ、クリスマスケーキ、バレンタイン用チョコレート菓子、春のスペシャリテ、エクレール、最後を飾るスペシャリテと。

プリンセスのティアラ/千枚の葉/ノエルの翼/黒いマリア/さくら、さくら/青い稲妻/ほんもののスペシャリテ

        


   

to Top Page     to 国内作家 Index