楡 周平作品のページ No.2



11.国士

12.バルス

13.鉄の楽園

14.終の盟約

15.食王

16.逆玉に明日はない 

17.黄金の刻

18.サンセット・サンライズ

19.日本ゲートウェイ 

20.限界国家 


【作家歴】、再生巨流、ラストワンマイル、プラチナタウン、虚空の冠、「いいね!」が社会を破壊する、砂の王宮、和僑、ラストフロンティア、ドッグファイト、ぷろぼの

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ショート・セール、ラストエンペラー 

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11.

「国 士(こくし) ★★


国士

2017年08月
祥伝社

(1600円+税)

2020年09月
祥伝社文庫



2017/09/04



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集団就職で務めた町工場が25歳の時に倒産。その後カレー店を夫婦で開業、苦労の末一代でカレー専門店チェーン“イカリ屋”を年商 400億円の一部上場企業まで育て上げた篠原悟・74歳
もうこれ以上国内での発展は見込めない、海外進出を目指すべきという社内の意見に耳を傾けます。しかし、それには高齢で何の経験もない自分には無理と、外資系ハンバーガーチェーンを好業績に導いた
“プロの経営者”である相場譲・50歳をスカウト、自社のこれからの発展を相場に託します。
しかし、相場が取った経営戦略は、確かに業績だけに目を留めるのなら合理的なものかもしれませんが・・・・。

本ストーリィで描かれるものは、フランチャイズ・オーナーと手を携えて皆を幸せにするため事業を大きくしてきた創業者である経営者と、米国的な合理性と業績数字を第一にする“プロの経営者”との比較、対立です。

上記対立は本ストーリィだけのことではありません。今や、日本中にゴロゴロしている話であると思うのです。
確かに大企業の経営体質や利益率は高まり、投資家の期待に応えられるようになったのかもしれませんが、かつて“ジャパン・アズ・ナンバーワン”と言われた日本株式会社はどうなったのか、ひとりひとりの日本人の幸せ度は高まったのか。残念ながら企業業績と逆比例しているとしか思えません。
そもそも“プロの経営者”とは何ぞや。むしろ胡散臭いものに聞こえます。何の理念もなく、ただ数字だけに走るのであれば、それはもう真の経営者とは言えず、単なる数字請負人と言うべきでしょう。

そうした中で大事にすべきものは、篠原悟の経営者としての思いではないか。また、本書にも登場する
プラチナタウン」〜「和僑」山崎哲郎の発想ではないか、と強く感じる次第。

     

12.

「バルス ★★


バルス

2018年04月
講談社

(1650円+税)

2021年04月
講談社文庫



2018/06/03



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かつてラストワンマイルでネット通販会社と運送会社の対決を描き、最後に勝者となるものは物流を手にしたものである、と唱えたのが楡周平さん。
本作は再びネット通販会社と物流の関係を描いた長編ですが、単なる企業同士の闘いに留まらず、日本社会の現在の有り様、そしてこれからの日本社会の進む道を訴えた力作です。

本ストーリィでは、現在の日本社会が抱えた大きな闇、病巣といった問題点を洗いざらい描き出した、と言って良いのではないでしょうか。
まず登場する主人公の一人は、有名私立大学の学生ながら、大企業ばかりを狙って結局どこからも内定を取れず、就活浪人(留年)を決めた
百瀬陽一
就活が始まるまでの間、
外資系ネット通販会社<スロット>の本・CDを扱う集中センターで派遣社員として働きますが、分刻みで効率的な作業を求められる過酷な職場、そうした職場で働くしかない立場に置かれた人たちの姿を知ります。

その後いろいろあって陽一がスロットを辞めた後、物流の隙をついたようなテロ事件が次々と日本各地で起こり、物流が滞ることによってあらゆるビジネス、労働に影響が広がっていく・・・。

ネット通販を利用したときに宅配料が無料というケースが結構あります。物流には多大な経費が掛かるはず。それなのに無料というのなら、その負担はどこが担っているのか。
正規社員が減り、派遣労働者が増えている現在、彼らは将来に希望を持つことができるのか。むしろ不安に苛まれているのではないか。
大企業に就職すれば一生が保証されるのか。事業縮小、リストラはないのか。いざその時、新たな職場を見つけることができるのか。

かつてエズラ・ヴォーゲルが
「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を著した時から、日本のビジネス社会で何を良しとするか、その評価基準は逆転と言っていいくらいすっかり変わってしまったと思います。
ある面では確かに正しいと言える部分もあります。しかし、何もかも欧米流にすることは、多くの人にとっての幸せに繋がるのだろうか、というのはかねてから疑問に思って来たことです。

その結果、今どういう現実があるのか。
本作ストーリィ、登場人物たちの語りによって、その現実がリアルに描き出されます。
しかし、それをどうしたら改善できるのか。
リアルな現実を巡るサスペンスという興奮と、政治と企業の身勝手さに対して鋭く問題提起した力作。お薦めです。


序章.お祈りメール/1.派遣労働/2.絶望の淵で/3.祭り/4.週刊近代/5.手紙/6.接点/終章.バルス

             

13.

「鉄の楽園 ★★


鉄の楽園

2019年09月
新潮社

(1800円+税)

2022年04月
新潮文庫



2019/10/21



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楡周平さんの経済小説にはいつも、現代社会が抱える問題点とそれに対する解決策の提言が含まれていて、ワクワクします。
今回本作は、日本に留まらず、海外に枠を広げたストーリィ。

・北海道南東部の景勝地にある
海東学園は鉄道の専門学校。創設者の孫娘である相川千里と、婿養子になった隆明が経営を引き継ぐが、経営は厳しくなるばかり。取引銀行である北海銀行は、学園を廃業し、リゾート開発を目論む中国資本に土地を売却するよう圧力をかけてきます。
・途上国の
R国で計画されている<高速鉄道整備計画>四葉商事は新幹線の売り込みを図るが、青柳次長中上とも、競争相手である中国に比較して分が悪いことは認めざるを得ない。
経済産業省竹内美絵子は入省3年目、筋金入りの「鉄子」。海外へ日本の技術を売り込むためにはハードだけでなくソフトが不可欠と、上司の橋爪課長へ主張する。
R国の首相候補に一躍名乗り出たキャサリン・チャンは、有力財閥総帥の長女ながら、R国の国民を貧困から救うためには何より教育が重要と、四葉商事R国駐在員の相川翔平に説く。

日本の鉄道技術のため、商社ビジネスだから、という日本の新幹線商談が、2人の鉄道オタクの発想によって風穴を開けられていく。そしてさらに、利権狙いではなく真剣に国民の生活向上を目指すキャサリン・チャンによって、海外ビジネスとはどうあるべきかという斬新な視点が生まれていく。

R国との商談成約に向けてどう道を切り拓いていくか、斬新な発想にワクワクさせられます。
その発火点となるのが鉄道オタクなのですから、鉄道ファンとしては楽しい限り。
それ以上に興奮と感動を抱かせるのは、儲けだけでなく、それ以上に人のためになるという喜びです。

米国並みに日本企業も利益率ばかりが重視されるようになってから、人の育成、人のために尽くすという視点が経営者から薄れてしまっている気がします。
その意味においても、胸のすく思いがするストーリィです。
そして、竹内美絵子の言葉が強く印象に残ります。 お薦め。

   

14.

「終の盟約 ★☆


終の盟約

2020年02月
集英社

(2000円+税)

2022年08月
集英社文庫



2020/03/04



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父親・長男とも開業医、次男は弱者救済を主とする弁護士。
その一家を舞台に、認知症介護、そして安楽死の問題を取り上げた、現代社会の課題を描いたストーリィ。

率直に言って今さら驚くような問題ではない、と思います。
私の年代だったら、常に頭の中にあって不思議ではないことではないでしょうか。
親の介護問題に現実として向き合っている年代、翻って自分が老いた時はどうなるだろうかと考えざるを得ない年代。
主人公となる兄弟=
藤枝輝彦・真也も、初めてそうした問題に向かい合います。

母親がくも膜下出血で死去してから3年、父親の
が認知症を発症。久が予め「事前指示書」を作成していたことから、指名されていた医者に連絡を取り、久は老人介護施設に入所します。
そしてまもなく久は、その施設で急死します。
実は久と久が信頼する医師たちの間には、密かに
「盟約」が交わされていた・・・。

今の人間社会ではどんなことがあっても、法律上は自分で死を選ぶことはできません。
しかし、思考能力を失い、人間としての尊厳を維持できなくなった状態で、子供たちに負担をかけてまで生きていたいと、誰が思うでしょうか。そこに至ると生きる権利ではなく、もはや意識を失った死刑囚と言う他ないものでしょう。
ただし、恣意的な運用の余地が生じたりすれば、子供たちが親に死を強要する、ということさえ起こりかねないという大きな問題もあります。

富裕な義兄一家に対して、我が家は将来が不安と真也の妻である
昭恵はやたらカネ、カネと言い出すようになり、金銭に対するすさまじい執着心を見せるようになります。
嫌悪感を抱かざるを得ないキャラクターですが、先立つものがないとどうにも動けない、ということも事実。

少子化、高齢化が進み、介護問題が重く覆いかぶさっていくこれからの社会。いつか、何かの変化は生まれるのでしょうか。

       

15.

「食 王 ★★


食王

2020年07月
祥伝社

(1800円+税)

2023年10月
祥伝社文庫



2020/08/09



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「食王」という題名からは壮大なストーリィを予感させられますが、読んでの印象はむしろこじんまりしたもの。
それでも、現代日本が根源的に抱える課題に対する、真摯なメッセージを含んだ作品であることには、これまでの作品と変わるところはありません。

・かつて主力銀行に騙されて倒産の憂き目に遭いながら、寿司屋&居酒屋のチェーン展開で成功した
「築地うめもり」のオーナー社長=梅森大介・71歳。再成功の大恩人である「桶増」から麻布にある5階建ての飲食店用ビルを買い取って欲しいと頼まれ引き受けますが、そこは飲食業にとって鬼門中の鬼門と言われる悪名高き場所。
やるからには新業態で勝負と、全店舗にアイデアを公募するのですが・・・。
・桶増の次男=
森川順平は、金沢にある懐石料理の名店「万石」の花板に昇進したばかりのところですが、十代目店主の籠目義郎から折り入って頼みたいことがあると言われます。それは、ひとり娘の亜佑子が、娘婿でイタリアンシェフの重則を立て、東京で無謀なフュージョン料理店を出店しようとしている、ついては計画を見直すよう説得してくれ、というもの。
・東日本大震災で祖父母と弟を失くした
滝澤由佳は、現在都内の有名私立大学の4年生で、現在「寿司処うめもり」六本木支店でバイト中。水産加工会社に勤める父親は、地元産業の衰退を食い止めようと百貨店の催事場出店に各地を飛び回る日々。何とか自分も力になりたいと思うのですが・・・。

彼らが抱えている課題や悩み、夢が出会った時、そこに何が生まれるのか、何が始まるのか。本作はそんなストーリィ。

また、本ストーリィの中で、経営者とサラリーマンの違いも浮かび上がります。サラリーマンとはとかく自分の身を守るため保守的になりがちなもの。
新しい事業はどこから生まれるものなのか。
斬新な発想と柔軟な発想、
石倉と由佳のコンビは新しい波を十分に感じさせてくれます。
持たれ気味なストーリィが、終盤は一気に爽快で刺激的なストーリィへと変身。そこが本作の楽しいところです。

         

16.

「逆玉に明日はない ★☆   


逆玉に明日はない

2021年08月
光文社

(1700円+税)

2024年04月
光文社文庫



2021/09/17



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大手総合商社「四葉商事」に務める商社マンの是枝昭憲、米国での丁稚仕事にいい加減うんざりしていたところ、降って湧いてきたのが役員からの見合い話。
それも相手は、日本屈指の総合食品メーカー「MIRAIゼネラルフーズ」のオーナーである
堂面乗定の跡継ぎ娘である三津子
婿入りすればすぐMGFの役員就任と確約。条件の一つである、子どもが生まれたらすぐ乗定夫妻と養子縁組というのは気になったものの、三津子と一緒に大企業で腕を奮うことができると婿入りした昭憲でしたが、次第に・・・。

まぁ、分不相応の逆玉になど乗るものではない、という教訓のようなドタバタコメディ的ビジネスストーリィ。

乗定の余りの仕打ちに呆然とする昭憲でしたが、他にもはや選択するべき道も無し。与えられた米国の薬品開発会社の社長に就任しますが、その途中で偶然に出会ったのが、乗定の次女である
堂面華子
思わぬ出来事から、華子と組んでの逆襲劇が始まるのですが、さてその結果は・・・。

いろいろ設定に荒いところはありますが、それはドタバタコメディだからと受け容れるべきでしょう。
それよりも、こうした中でもビジネスマネジメントの課題がしっかり書き込まれているのが楡周平作品らしいところ。

気分転換に、そして逆玉など乗らず平凡な生活で満足だと得心するには恰好の長編ストーリィです。


プロローグ/第1章〜第7章/エピローグ

            

17.

「黄金の刻(とき)−小説 服部金太郎− Time Keeper ★★   


黄金の刻

2021年11月
集英社

(2000円+税)



2021/12/20



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セイコー>創業者、服部金太郎の一代記。
事実に基づくフィクション、とのこと。

明治7年、15歳の服部金太郎は洋品問屋<
辻屋>で丁稚奉公。
店主である
辻粂吉の講話から時計事業の将来性に目をつけ、辻屋を退職後、時計修理、中古品販売、輸入品販売、そして服部時計店と別に<精工舎>を設立し時計の製造・卸販売へと事業を拡大していく。

勿論本人の先見性、信頼を得る力、決断力あってのことであり、相応の困難もあったとはいえ、気持ち良いくらいの成功ストーリィ。読んで面白くないわけがありません。

本作を読んで惹きつけられるのは、成功という結果よりむしろ、その過程です。
先見性、夢、人から信用と信頼を得ることを重んじ、儲けよりも顧客、従業員のためになる事業を目指す姿勢。それはかつて日本企業が世界で躍進するに至った理由ではないでしょうか。
そして同時に、現在問題を起こした企業がどこかに置き忘れ、あるいは失ってしまっていたもの、と感じます。

世界的潮流の中で後れをとってしまった観のある日本企業が、再び輝きを取り戻すためのヒントが、本作の中にはあるように思います。

※ふと、中学入学時、親から腕時計をプレゼントされたことを思い出しました。あの時計は、確かセイコーだったかな。

プロローグ/第一章〜第五章/終章/エピローグ

            

18.

「サンセット・サンライズ Sunset Sunrise ★★   


サンセット・サンライズ

2022年01月
講談社

(1800円+税)



2022/02/19



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コロナ感染拡大の中、主人公=西尾晋作(36歳)が勤務する大手電気機器メーカー<シンバル>東京支社の財務課資産管理課でも、カリスマ社長=大津誠一郎(79歳)の一声によりテレワーク実施が決まります。
釣好きの上に独身という気軽な身の上、魚影が濃いという宮城県県北の
宇田濱で家具・家電・食器等完備、築9年しかも未入居という魅力的な3LDKの賃貸物件を見つけ、即時申込み。

一方の主人公は
関根百香(39)、宇田濱で漁師をしている父親の章男(73)と2人住まいで現在独身、町役場の職員で空き家問題を担当することになったところ。
何か訳があって空き家にしていたらしい高台に立つ家を賃貸に出すことを決めます。ネットに掲載した処すぐ問い合わせをしてきたのが晋作、という次第。

到着後2週間は住民との接触禁止という厳しさはあり、住民たちから猜疑の目で見られているような気はするものの、釣りの成果は大満足、おまけに百香が届けてくれる地元の野菜はすこぶる美味しいとあって、晋作自身にとってテレワーク&移住は大成功。
そのうえ、章男の勧めにより、釣っても一人では食べきれない魚を近所に配ることにより、逆に野菜や漬物をもらったりして宇田濱に馴染んでいくこともできたという次第。

しかし、それだけで終わるストーリィではありません。
社長の大津からもけしかけられ、晋作はあるビジネスを思いつきます。それは空き家問題に心を痛める百香の助けになることであり、晋作はプランの具体化に励みます。
そしてそれは、最初に会った時から魅かれていた百香との距離を縮めることでもあり・・・。

過疎化する農村の活性化問題は、かつて黒野伸一さんが題材にしていましたが、本作のテーマはもっと大きく、今後の日本社会の在り方に全体に関わるもの。単にコロナ感染帽子防止というだけでなく、テレワークを新たな成長に繋げてほしいものです。
但し、晋作のようなアウトドア派には恰好のものですが、私のような非アウトドアには無縁です。でもそれで良いのでしょう。

「サンライズ・サンセット」といえば、
ミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」の代表的な一曲。
それが本作では何故
「サンセット・サンライズ」となるのか。それは本作を読んでもらえれば分かります。
楽しく、これからの変化に期待が持てる一冊、お薦めです。


プロローグ/第一章〜第五章/終章

           

19.

「日本ゲートウェイ Japan Gateway ★★   


日本ゲートウェイ

2023年03月
祥伝社

(1700円+税)



2023/04/05



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百貨店というビジネスモデルが曲がり角に来ているのではないかと指摘されるようになってから久しい。

本作はその百貨店が舞台。
日本橋に店舗を構える老舗の
マルトミ百貨店は、コロナ禍ならびにインバウンド需要の落ち込みにより業績低迷している折、主力銀行から支援融資を断られ、存続の危機に直面していた。
創業一族である現社長の
富島栄二郎は、業態転換しか生き残る道はないと覚悟しますが、ではどんな業態に転換すればいいのかというと、まるでアイデアが浮かばない。
そんな時、四井商事でかつて同期、今は同社専務の
徳田創が栄二郎に勧めたのは、やはり同期の山崎鉄郎に相談してみろ、ということ。

プラチナタウン」「和僑山崎鉄郎食王梅森大介滝澤由佳といった顔ぶれが登場してくると、これからどんな展開が待っているのかとワクワクしてきます。

かつては四井商事や大手広告代理店で活躍し、今はプラチナタウンの住人となっている面々の企画力が、固定観念に囚われない梅森や由佳の発想力が、栄二郎が思いもしなかった新業態への展望をこじ開けていきます。
本作を読んで思うことは、自分の責任や会社での立場を第一に考えてしまうサラリーマンに飛躍するような発想は難しいこと。
また、守りの戦略ばかりではつまらない、攻めの戦略をとってこそ意気は上がる、ということです。

さて、山崎や由佳たちが発案した新業態とは如何なるものか、本作題名の「ゲートウェイ」とはどういう意味か、それは読んでのお楽しみです。

         

20.

「限界国家 ★★   


限界国家

2023年06月
双葉社

(1800円+税)



2023/07/16



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現在の日本は既に“限界集落”ならぬ“限界国家”である。
日本の先行きを牛耳る政界、経済界ともトップに君臨するのは高齢者ばかりで、今後のため日本はどういう方策を立てなくてはならないかを考えることより、それぞれの権益死守のことしか考えていない。
日本の衰退はもはや回避できず、国は頼りにならないと見抜いた若者たちは日本を出ていくことを考える・・・・という、警告に満ちた一冊。

世界的コンサルティング会社=
LAC日本支社の社長である下条貴子は、フィクサーとして政財界に影響力を持つ前嶋栄作・75歳から、日本の2,30年後を予想して欲しいという調査依頼を受けます。
その担当を任されたのが
津山百合・43歳、LACのシニア・パートナー。
津山は早速、部下の
神部恒明と共に様々な人物にインタビューしますが、出てくる答えはことごとく暗鬱な予想ばかり。

上記のように一応小説、そして様々な人物による痛烈な指摘の言葉という形をとっていますが、実質的には<警告の書>と言って良いものでしょう。
政治経済に関わる著書というのではなく、直言する側、直言される側をそれぞれ置き、作中人物の会話を以てしていますから、それだけリアルに耳に届いてくるように感じます。

なお、誰に一番責任があるかというと、長期政権に胡坐をかき続けてきた自民党、特にその高齢かつ保守派議員、という気がしますねぇ。
何しろ今後の日本社会の在り方より、常に優先するのは選挙、与党地位の確保、なのですから。

いずれも耳の痛い、リアルな現実ばかり。
でも、前嶋が最後に、IT企業経営者であり21歳の大学生でもある
根本誠也の言葉から感じたように、チャンス、逆転施策がないわけではないのです。
我々国民も、その覚悟を持つ必要があるのは、勿論のこと。

       

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