成田名璃子作品のページ


1975年青森県生、東京外国語大学仏語学科卒。2011年「やまびこのいる窓」にて第18回電撃小説大賞<メディアワークス文庫賞>を受賞し、翌年改稿・改題した「月だけが、私のしていることを見おろしていた。」にて作家デビュー。12年コピーライターとして勤務していた会社を退社し、フリーのコピーライターとしても活動中。15年「東京すみっこごはん」が人気を博し、ヒットシリーズとなる。16年「ベンチウォーマーズ」にて第7回高校生が選ぶ天竜文学賞および第12回酒飲み書店員大賞を受賞。


1.月はまた昇る

2.世はすべて美しい織物 

3.いつかみんなGを殺す 

 


                   

1.
「月はまた昇る ★★


月はまた昇る

2020年09月
徳間書店

(1650円+税)

2023年06月
徳間文庫



2021/02/02



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職場復帰しないとプロジェクトから外されてしまうのに保育園が見つからない・・・(北村彩芽)。
シングルマザーのため娘を保育園に預けるしかないのだが、娘が保育園で仕打ちを受けている・・・(
沢村敦子)。
子供がいても保育士として働き続けたかった・・(
江上梨乃)。

保育園絡みでそれぞれ葛藤を抱えていたママさん3人が、彩芽の「この指止まれ!」というネット投稿により出会い、
「保育園がないなら、つくっちゃえ!」という彩芽のひと声に巻き込まれ、振り回されつつも、自分たちが理想と思う保育園作りを目指して奮闘するストーリィ。

等身大で身近な問題である上に、3人がそれぞれに抱える悩みも共感できるものですから、理屈抜きに面白い。
ただ、素人であるうえに事業資金の当てもないまま突っ走り始めてしまうのは、幾らなんでも無謀。
しかし、それら難題を奮闘して乗り越えてしまうのですから、面白く、また痛快。

彼女たちの底辺にあるのは、実は理想を実現することよりも、それまで孤独、何もできないと自己否定的な気分になっていた状況が、一緒に夢に向かって突き進む友達、仲間を得て積極的な行動がとれるようになった喜び、にあるのではないかと思います。

何はともあれ、夢としか思えなかったことを実現させてしまう、サクセス・ストーリィは楽しく、痛快なものです。
それにしても、社会の上層にいる者たちはいい加減頭を切り替えるべき時代になっているのではないか。
つまり、子供を持ったって女性も働き続けるのは当然のこと、子供を持っても働きやすい社会づくりは当たり前と。
そしてそれは、単に子育て支援とか出生率向上とかに留まるものではなく、社会全体の活力を高めることに繋がることでしょう。

本作を読んで、そんな風に考えさせられた次第です。


1.運命の通知/2.保育園つくりませんか?/3.目覚め始める女神達/4.応募がない?/5.それぞれの保育園/エピローグ

                       

2.
「世はすべて美しい織物 ★★☆


世はすべて美しい織物

2022年11月
新潮社

(1800円+税)



2022/12/17



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昭和12年から25年、糸を紡ぎ意匠を考え、布を織る、ということに情熱を燃やした女性=芳乃
一方、平成30年、トリマーとして働きながら、手芸や織物仕事に魅了されて止まない25歳の女性=
詩織
2つの時代にまたがり、布を織るという手仕事に熱中する2人の女性の歩む道を交互に描いた、逸品。

私の好みに合うストーリィということなのですが、2人の主人公に魅了されます。
片や
芳乃は、養蚕農家である実家を出て、地元=桐生の大企業である新田家の、変わり者の次男=達夫に望まれて嫁入り。
嫁入りを承諾する条件が、好きなだけ織りものをしていい、というのですから面白い。
ちょうどアジア太平洋戦争を含む時期、困難にもめげず機織りを続ける芳乃の姿は、時代を生き抜く女性たちの姿として読み応えがあります。

一方の
詩織は、ADHD(注意欠陥性多動障害)。そのこともあってか母親の絹子はやたら過干渉気味ですが、娘に手芸を絶対許さずという姿勢は何故なのか? 謎と詩織が母親の過干渉から抜け出そうとする展開はスリリングで、こちらも読み応えあり。

しかし、芳乃の物語と詩織の物語、それがどう繋がるのか。
そこが読んでのお楽しみです。

男性とか女性とかに捉われず、人より優れた感性に恵まれ、またそれに傾ける情熱を持っている処、魅了されて止まないストーリィです。
さらに現物を見ることはできずあくまで文章による描写に留まりますが、芳乃が遺した糸、織物のなんと美しいことか。
本作題名の意味が、此処に至って得心できます。 お薦め。


プロローグ/1.昭和12年:芳乃−綿毛の嫁入り/2.平成30年:詩織−糸の導き/3.昭和12年:芳乃−白い結び目/4.平成30年:詩織−透明な糸/5.昭和13年:芳乃−巣を張る/6.平成30年:詩織−糸をたぐって/7.昭和16年:芳乃−破れ綻ぶ/8.平成30年:詩織−こじれた結び目/9.昭和18年:芳乃−夜を織る/10.平成30年:詩織−見知らぬ小指/11.昭和19年:芳乃−世界の退色/12.平成30年:詩織−染め直し/13.昭和20年:芳乃−雷の一閃/14.平成30年:詩織−糸の片端/15.昭和25年:芳乃−織り人/16.平成30年:詩織−経糸緯糸

                     

3.
「いつかみんなGを殺す Someday we'll all kill G. ★★☆


いつかみんなGを殺す

2023年05月
角川春樹
事務所

(1800円+税)



2023/06/10



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老舗高級ホテルを舞台にした、群像ドタバタ劇。
というと単なるコメディ的な作品と思われかねませんが、それを超えて実に面白い!

「殺す」という題名文句からは極めて不穏なものを感じたのですが、その対象となる
“G”とは何なのか?
それが分かった時、読み手は親近感に捉われてしまうに違いありません。そこが成田さんの巧妙な手口、と言って過言ではないと思います。

ホテルの総支配人の地位にあるのは、会長の孫娘であり若干28歳の
鹿野森(かのもり)優花
ホテルの経営を上向けるため革新的なアイデアを次々と実行しますが、それに反駁して立ちふさがろうとするのが58歳のベテラン副支配人の
穀句
その穀句、あろうことか、優花が企画し本日開催されるナイト・イベントを失敗させて優花を失脚に追い込もうと、Gを使った妨害活動を開始します。
一方、優花に要請に応じて駆け付けたのが、長年ホテルに勤める“Gハンター”の
姫黒マリ
さて・・・・。

本ストーリィに登場する主要人物たち、それぞれ何らかのトラウマを抱えている、という設定。
それが彼らの前に進むことを妨げているのですが、彼らがその殻をついに破る展開が痛快、面白い。

本作、前2作と全く異なる趣向の作品であることに驚きました。成田さんの引き出しの多さに、今後も期待大です。


1.グレイトのG、あるいは。/2.蠢く思惑/3.愛憎は翅をひろげ/4.ホイホイ・ファイルの人々/5.G線上のナイトメア/6.Gショックに踊れ/7.G・エンド

        


   

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