南原幹雄作品のページ


1938年東京生、早稲田大学政経学部卒。1973年「女絵地獄」にて小説現代新人賞を受賞し、作家デビュー。81年「闇と影の百年戦争」にて吉川英治文学新人賞を受賞。


1.
銭五の海

2.天皇家の忍者

 


 

1.

●「銭五の海(上下)」● 

 

1995年4月
新潮社刊

 
1998年6月
新潮文庫刊

(各667円+税)

  

1998/08/16

幕末期、加賀の一商人から海運業に乗りだし、一代で日本一の豪商とまで言われるまでに至った 銭屋五兵衛の物語。
ストーリィは、中古船に乗って初めて五兵衛が航海に乗り出すところから始まります。その積極性と度胸によって事業を急拡大していく五兵衛の姿は、読みながらも爽快で胸躍るものがあります。
そんな五兵衛を、作者は単なる商いの成功者としてのみにとどまらず、硬直した武士による加賀藩の経営と対比し、自由貿易主義者として描き出しています。
銭屋五兵衛は、商いの拡大に伴い、薩摩藩とも交流し、蝦夷地の俵物という抜荷貿易にも手を染める。更にはロシア船との密貿易にも乗り出していく。それは儲ける目的からではなく、幕府の鎖国政策に反対し、自由貿易こそ必要な政策との信念から、自ら先覚者になろうとする意気込みに基づくものなのです。その理想はまさに気宇壮大で、現代から見てさえ、気持ちが晴々します。
しかし、それは当然の如く硬直的な倹約主義を唱える加賀藩武士の一部と敵対する結果を招くに至ります。
一方、現在の日本はというと、武士が明治維新後役人となり、相変わらず自分たちの権力のもと規制づくめの社会を存続せしめ、現在の閉塞した経済状況をもたらしたと言えるかもしれません。そうであるなら、銭屋五兵衛の物語は、決して過去のこととばかり言えません。
最後は無念な結果となりますが、これは間違いなく魅力あふれる海洋冒険小説と言えます。

 

2.

●「天皇家の忍者」● 



1999年7月
東洋経済新報社
(1800円+税)

2001年11月
新潮文庫化

 
1999/10/11

天皇家には二つの忍者集団があった、というのが本作品の主筋。ひとつは駕與丁を勤める八瀬童子、もうひとつは八瀬に隣接する静原の冠者たち。
天皇家の忍者という構想を、私は隆慶一郎「花と火の帝」にて初めて知りました。その「花と火の帝」があったからこそ、本書を読む気になり、そうであるからこそ両作品を読み比べずにはいられません。

本ストーリィは、後醍醐天皇以来現在も駕與丁を勤める八瀬と、後白河法皇以降駕與丁を勤めながら今は八瀬にその名誉を奪われている静原との抗争から始まります。
そしてその対立は、更に後水尾天皇ら朝廷側と、江戸遷都を企む幕府側との力争いの中に巻き込まれていきます。
しかし、朝廷VS幕府の対立にしろ、八瀬VS静原の対立にしろ、スケールが小さく、何のための争いなのかという気持ちになります。
やはり、隆作品にははるかに及びません。

 


  

to Top Page     to 国内作家 Index