中村文則作品のページ


1977年愛知県生、福島大学行政社会学部応用社会学科卒。2002年「銃」にて新潮新人賞を受賞し作家デビュー。04年「遮光」にて野間文芸新人賞、05年「土の中の子供」にて芥川賞を受賞。

 
1.
世界の果て

2.掏摸

  


 

1.

●「世界の果て」● ★☆




2009年05月
文芸春秋刊

(1571円+税)

 

2009/06/05

 

amazon.co.jp

よく判らないストーリィが次々と繰り広げられる短篇集。

施設の前に捨てられた赤ん坊の頃から幽霊のような男の姿を度々見てきた、交通事故による妻の死以来動かなくなり、動き出したと思ったら今度はバベルの塔の如く鉄屑を積み上げ始めた、部屋に戻ると見知らぬ犬が死んでいたので捨て場所を探しに自転車で走り回る、等々。
ストーリィ自体が闇の中、というだけではなく、各篇に登場する人物たちには基本的に名前すら与えられていない。
闇の中を彷徨うかのような彼ら主人公たちから感じられるのは、しかとした存在感を感じられないが故の不安定さ。
それでも各篇、決して嫌気が差す訳でなく、さほど暗い気持ちに陥る訳でもありません。
どこか、それなりの充足感、奇妙な面白さが漂っているからでしょう。
各篇共通して、主人公と主人公が求める何かという相対的に語られるストーリィだったからかもしれません。

本書「あとがき」で中村さん曰く、
「全体的にトーンが暗いのは、僕の性質なのでご容赦願いたい。でも、世の中に明るく朗らかな小説だけしかなくなったら、それは絶望に似ているのではないか、と個人的には考えている」
「僕は小説によって救われてきた」「この世界に、小説というものがあって本当に良かった」
とのこと。

ストーリィにどんな意味があるのか理解するのは難しく、暗い話は私の好みではないのですが、それでも途中で放り出したいと思わなかったのは、小説とは良いものだという点で通じ合うところがあったからではないかと思います。

月の下の子供/ゴミ屋敷/戦争日和/夜のざわめき/世界の果て

   

2.

●「掏 摸」● ★★




2009年10月
河出書房新社

(1300円+税)

2013年04月
河出文庫化

  
2009/11/03

   amazon.co.jp

天才的なスリ師を主人公にした不条理なストーリィ。

かつてコンビを組んだ仲間と別れ、今は一人働きをする主人公の元に、かつての仲間から連絡がある。しかし、その結果は、正体不明な男に命じられるまま、訳の判らぬ犯罪に加担させられたこと。
しかも、再びそれは繰り返される。
母親に命じられるまま、スーパーで万引きを繰り返す少年の拙さを無視できず、母子にちょっかいを出したばかりに、その母子の生命を脅しの材料に使われて。
そのうえ、失敗すれば、お前の生命はないと脅される。

スリ、という今はもう懐かしいとしか思えない、古典的犯罪を表す言葉の響きに引かれて読んだのですが、カフカ「城」以来久々と感じるような不条理な物語。
何故巻き込まれたのか、何のためか、何をさせようというのか、それらは一切、主人公に明かされないまま、主人公は結末を迎えるに至る。
その不条理さ故に心惹かれる、といった部分があって、ストーリィの意味が判らなくても、本作品には惹き付けられるものがあります。
スリの技、意地は、不条理を超えることができるのか。それが肝心どころなのですが、さて・・・。

  


  

to Top Page     to 国内作家 Index