向田邦子
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1929年東京生、実践女子専門学校(現実践女子大学)卒。人気TVドラマ「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」等多くの脚本を執筆。80年「思い出トランプ」収録の「花の名前」他2作で直木賞を受賞。81年08月台湾旅行中、飛行機事故にて死去。

 
1.思い出トランプ

2.阿修羅のごとく

 


 

1.

●「思い出トランプ ★★☆

 

 
1980年12月
新潮社刊

1983年5月
新潮文庫

 

2004/07/28

いずれは読もうと思いつつ、久しくそのまま未読になっていたのが向田邦子さん。漸くにして初めて読んだ向田作品です。

13篇からなる短篇集ですが、冒頭の「かわうそ」からその巧さに舌を巻きました。向田さんの巧さは異論のないところでしょうけれど、評判を聞くのと実際に読んで感じるのとでは大違い、と改めて実感。
13篇のどれも日常のありふれた断片を切りとって描いたストーリィ。それなのに、なんとひとつひとつのストーリィがスリリングで、サスペンス要素を備えていることか。
いずれも、日常生活の上でちょっとひっかかりを覚えるような出来事から展開されるストーリィ。大したことじゃないと思い切ってしまえばそれまでのことでしょうけれど、気にし出してこだわると、そこからどんな深淵なものがとびだしてくるか判らない、そんな怖さがあります。といって、はっきりその底まで書き出してしまうことなく、頃合いで留められている。向田さんのそのさじ加減が絶妙です。
最近の小説は、ストーリィ重視の傾向がありますが、久々に文章の巧さに唸らされた、という快感があります。

「かわうそ」「だらだら坂」「はめ殺し窓」「花の名前」の4篇がとくにお見事。

かわうそ/だらだら坂/はめ殺し窓/三枚肉/マンハッタン/犬小屋/男眉/大根の月/りんごの皮/酸っぱい家族/耳/花の名前/ダウト

 

2.

●「阿修羅のごとく ★★

 

 
1999年1月
文春文庫
(590円+税)

 

2004/08/07

脚本作品の「阿修羅のごとく」もありますが、本書は長編小説の方。
それぞれに暮らす四人姉妹とその父親を描いた家庭ドラマ。
年老いた父親・恒太郎に愛人がいたという騒動から始まるストーリィですが、当の姉妹もまさに四者四様。
夫の死後息子も地方転勤して独り暮らしの長女・綱子は、料亭の主人としつこく不倫中。次女・巻子のところは健全な家庭かと思いきや、夫の浮気を疑って苦悩中。三女で未だ独身の滝子は、四角四面の性格から、好きな男性ができても恋愛をうまく進められず機嫌が悪い。出来損ない扱いされている四女・咲子は駆け出しのボクサーと同棲中。

四姉妹の物語と言えば、誰しも谷崎潤一郎「細雪」を思い出して比べてしまうのではないでしょうか。
旧家の格式に縛られつつ展開する蒔岡家の四姉妹の物語に対し、本書ストーリィはかなり生々しい。4人にまつわる騒動事というだけでなく、4人間の愛憎も次々と露になっていきます。その辺りを淀みなく描いていくところが、向田さんの巧さでしょう。
この4姉妹という存在自体、いかにもドラマが生まれる人間関係のようです。その点は2作品に共通しています。
ストーリィの内容は、如何にも女性的。これでもか、これでもかという位に些細なことで大騒ぎが繰り返されます。
それは後半になっても変わることありませんから、もういい加減にしたら、と言いたくなるのが男性としての感想。
「阿修羅のごとく」という表題は、元々女性が内面に抱える幾つもの表情を譬えたもののとのことですから、本書は当然にして女性を描いた物語であると受け留めるべきなのでしょう。

 


  

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