森 深紅
(みくれ)作品のページ


1978年愛知県生。イギリス留学、メーカー勤務を経て、2009年「ラヴィン・ザ・キューブ」にて第9回小松左京賞を受賞し作家デビュー。

  
1.
ラヴィン・ザ・キューブ

2.
安全靴とワルツ

 


     

1.

●「ラヴィン・ザ・キューブ Lovein' the Cube」● ★★    小松左京賞

 
ラヴィン・ザ・キューブ画像
 
2009年01月
角川春樹事務所刊
(1400円+税)

 

2009/03/22

 

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痴呆化した父親の介護のため、工業デザイナーを道を諦めた主人公=水沢依奈は、現在ロボットメーカーのトップ企業の生産管理部でプロジェクト・リーダーとして働いている。
最初複数言語を操られる通訳の派遣社員として雇われたが、その能力の高さを注目され正社員に登用、その有能さとプロジェクトの納期を厳格に守る徹底振りから、“量産プロジェクトの番人、イグニッション・キーパー”と呼ばれる女性。

その依奈、突如として特装機体開発室に異動を命じられます。しかもその役割は秘書?
その異動先には、奇人変人の開発者3人と、極秘開発されたマルチ・アンドロイドがいるのみ。
そこでも最終的に依奈は、成功報酬として昇進を約束される代わり、会長肝いりの特別プロジェクト・リーダーに指名されます。約束されるその成功報酬は、昇進。

人間と見分けがつかないようなアンドロイドを作り出すための極秘プロジェクト、その目的は、その是非は、といったSF要素が本小説の主ストーリィであることに疑いはありません。
しかし本作品の魅力は、実はそこではなく、理系の製造現場で男性たち以上に能力をフル回転させて働く、ワーキングウーマンとしての依奈の姿にあります。
毅然とし、妥協せず、迷いを一切見せることなく初志貫徹していく、モノ作りが好きだ、というその姿には惚れ惚れします。
女性らしい華やかさ、艶やかさは殆ど見られない依奈像ですが、そこには女性である前に、人間としての魅力が描かれています。

その意味で、清新なSFワーキング・ウーマン・ストーリィ。

            

2.

●「安全靴とワルツ」● ★★☆

 
安全靴とワルツ画像
 
2011年12月
角川春樹事務所刊
(1500円+税)

  

2011/12/27

  

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稀に見る、純然たる理系女子のお仕事小説。しかも傑作である。

主人公の坂本敦子は独身、30歳。高専の機械科を卒業して以来オリオン自動車の浜松工場勤務で、現在工務課所属。
工場勤務であるが故に何時でも現場に飛び込んでいけるよう、作業服に安全靴、という装いが常。
後輩女性の短いスカート、ハイヒール姿とはエラい違いである。
そんな敦子が突然本社への出向を命じられ、小型車シンシアのモデルチャンジプロジェクトの担当を任命されます。分刻みの過酷なスケジュール。しかも職場はグローバル生産管理部とあって周囲は外国人ばかり。そのうえ仕事は本社と工場の板挟み。敦子がその代役となった同期の男性が鬱病でリタイアしたというのも不思議ではなかった。
さらに同年齢の庶務スタッフである
マナ(真那川)は、ぬけぬけと毒のあるセリフを放ってくる巨乳女。
全く敦子、とんでもない場所に投げ込まれたものです。

あれこれもみくちゃにされながらも、浜松工場の恋人ともスレ違いで破綻しながらも、底力で各所に持ち味を発揮していく叩き上げ派=敦子の姿は、痛快といっていいぐらい活力に溢れていて、魅力に富んでいます。
敦子だけでなく、その周囲の女性たちも、男、恋愛より仕事!という風で、男子顔負けのお仕事小説なのです。
池井戸潤「鉄の骨もお仕事小説として読み応えたっぷりでしたが、本書はそれと異なるようでいて、スピード、活力という点では共通するところがあります。

題名にある“安全靴”、冒頭における敦子の立ち位置を象徴すると同時に、ストーリィ中で敦子が味わった災難の原因ともなり、さらに敦子がとった選択を象徴する道具にもなっています。
題名からしてワクワク、読み始めて一層ワクワク、読んでいる最中もワクワクする気分は少しも衰えず、といった一冊。
女性読者にはとくにお薦めです。

※理系女子の学園青春小説に まはら三桃「鉄のしぶきがはねる」あり。

    


   

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