望月諒子作品のページ


1959年愛媛県生、神戸市在住。銀行勤務を経て学習塾を経営。2001年「神の手」を電子出版にて刊行し作家デビュー。2010年、ゴッホの「医師ガシェの肖像」を題材にした美術ミステリー「大絵画展」にて第14回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。

 


                   

「蟻の棲み家 ★★★




2018年12月
新潮社

(1800円+税)

2021年11月
新潮文庫



2019/01/22



amazon.co.jp

本作品の衝撃度は凄い! 完全に圧倒されました。
望月諒子作品を読むのは本作が初めてですが、この一冊でもはや忘れることのできない作家になりました。

売春しか生きる術を知らない母親から育児放棄されている兄妹。兄の
吉沢末男は7歳下の妹を懸命に守って生き抜こうとする。しかし、周囲のクズたちは末男の努力を何度も打ち砕いていく。それがプロローグ。
そして本ストーリィ、売春で生活している子持ち女性が2人、連続して射殺遺体となって発見されます。
さらに、弁当工場に対して稚拙な恐喝を繰り返してきた男女が登場します。一人は売春しか能のない女性=
野川愛里。もう一人は開業医の息子で慶大生という恵まれた環境にいる長谷川翼。その長谷川翼は違法カジノで2千万円という街金からの借金を抱えていた。その2人の絡みで、再び吉沢末男が登場します。

本書の主人公はフリーライターの
木部美智子
木部美智子をシリーズとするミステリは本書が5作目とのことですが、単独の作品として読んでも全く支障ありません。

まず読者が陥るのは、抜け出しようのない過酷な生い立ち、運命です。
売春しか生きる術を知らない母親は、子供、育児にまるで無関心で、むしろ自分の娘まで男に差し出してしまう。
末男は着実かつ懸命に生き、妹に真っ当な人生を送らせたいと苦闘しますが、足掻いても足掻いても闇から抜け出せない。
彼らの姿はまるで、小さな蟻の巣の中で蠢いているようです。
そんな希望のない世界を本書で読み続けていると、本気で怖くなってきます。

一人は、真っ当に生きようとしても妨げられてばかりの男。
一人は、母親がまともな娘に育てようとしたにもかかわらず、どうしようもない人間にしかならなかったバカな女。
一人は、真っ当な家庭に生まれ、慶大生という恵まれた環境にあるものの、自らの道を捻じ曲げてしまった男。

主人公の木部美智子は独力で、警察も気づかなかった事実、真相をこじ開けていきます。しかし、警察の領分を犯すことはなく、警察捜査と混濁するところはありません。
木部が追及するのは、誰が犯人なのかではく、事件に関わった人間たちがどのような人間だったのか、何故、どんな行動をしたのか、ということ。特に注視されるのは吉沢末男に他なりません。

最後は、衝撃の逆転劇。でも・・・。
木部美智子の選択を、誰も非難することはできないでしょう。
そこには、罪を追求するよりはるかに深い、過酷な運命、そしてそれに負けず、自分を見失わずに生きてきた男の(ある意味)見事さがあるからです。・・・まさに圧巻! 
本書を読むと暗い沼にはまり込んだ気がしますが、お薦め。


Prologue/第一章/第二章/第三章

        


   

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