三浦明博作品のページ


1959年宮城県生、明治大学商学部卒。広告製作会社でコピーライターとして勤務、89年フリーに。2002年「滅びのモノクローム」にて第48回江戸川乱歩賞を受賞し作家デビュー。

  


     

●「五郎丸の生涯」● ★★★


五郎丸の生涯画像

2012年07月
講談社刊

(1500円+税)

  

2012/08/25

  

amazon.co.jp

ある朝、須藤老人が気付くと納屋の中に入り込んで死んでいた、立派な体格をした秋田犬(あきたいぬ)。
その犬はいったいどんな経路をたどってこの納屋で一人、死ぬに至ったのか。
彼の辿った生涯が、7篇を通じて明らかになる連作短篇集。

とはいっても、本書、その犬=五郎丸が主人公という訳ではありません。各篇の主人公は、様々な理由あるいは状況から五郎丸を飼うことになった人々、家族です。
各々五郎丸を飼うことになった、手放すことになった事情の間で、各篇の主人公たちが抱えた問題が描かれます。
そこにどう五郎丸が関わるかというと、彼らのまさに救世主といった存在。それなのに各篇主人公たちは、五郎丸を飼い続けるという行為で五郎丸に応えることをしない、あるいはできなかった、というストーリィ。
どの篇もストーリィとして読み応えがあるのは勿論のことと、それに加えて五郎丸の堂々として、凛とした風格ある佇まいが実に印象的、そして限りなく愛おしい。
その辺りを象徴的に語っているのは、
第3話「救世主」
人間である自分より、犬である五郎丸の方がずっと真っ当な生き方をしている、という主人公のひと言が圧巻です。
また、
第4話「捨てられし者」、主人公による最後のひと言は、忘れ難いものがあります。
そして、
最終話「朝焼けの光」には、予期しなかった感動が秘められていました。

一時五郎丸の飼い主となった人々を描く連作小説であると同時に、五郎丸の生涯を描く長篇小説ともなっている逸品。
犬は人間にとって一体どういう存在なのか。東日本大震災のことも合わせながら考えさせられる印象深い一冊でもあります。
是非、お薦め!

※本書を読みながら、子供の頃好きでよく見ていた外国TVドラマ「名犬ロンドン」をふと思い出しました。
※秋田犬、天然記念物指定の日本6犬種の内、唯一の大型犬種で、元々闘犬や狩猟犬として飼育されていた犬だそうです。ちなみにあの名犬ハチ公も秋田犬とのこと。

1.納屋の犬/2.フォックスファイア/3.救世主/4.捨てられし者/5.相談者/6.むくの犬/最終話・朝焼けの光

 


  

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