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「ここはすべての夜明けまえ」 ★★☆ ハヤカワSFコンテスト特別賞 | |
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冒頭は2123年10月 1日、九州地方の山おく、もうだれもいないばしょで、主人公が自分のかぞく史をはなしはじめる処から始まります。 まず目を惹かれるのは、これはもう初めてというくらい、ひらがなばかりの文章。 そう聞くと読みにくそうですが、意外とそうでもない。 むしろ、独特の文調というか、面白さがあって、本作の魅力の一因と言えます。 何故ひらがな主体なのかというと、漢字を書くのが面倒、というのが主人公の言い分。 また、その主人公において感情の起伏が少ない、平坦に思えるのも、機械化の影響でしょうか。 その主人公、本当は自殺措置を受けたかったのに、2022年25歳の時に父親から諭されてゆう合手術(機械の身体、サイボーグ化)を受け、それ以来、容姿は25歳の時のまま 100年が経つ。 家族といっても、ゆう合手術を押し付けてきた父親と、ゆう合手術と同じ日に誕生したさやねえちゃんの息子で、長じて恋人となったシンちゃんのことが主軸。 そして家族も皆いなくなり、汚染と高温でまもなく人間が住める環境ではなくなるという地球にて、主人公はどういう道を選択するのか・・・。 不老不死は古来より、貴顕の願望であったと言われますが、不老不死とは本当に幸せなのでしょうか。 また、自分の知る、自分を知る人間が誰もいなくなることに耐えられるのでしょうか。 この主人公が今の状況に淡々としていられるのも、機械化しているからこそ、と感じられるのです。 珍しいスタイルの斬新な作品。興味を持たれた方にはお薦め。 |