牧村一人
(かずひと)作品のページ


1967年千葉県生、多摩美術大学卒。2006年「俺と雌猫のレクイエム」にて第45回オール讀物推理小説新人賞、09年「六本木心中(刊行:アダマースの饗宴)」にて第16回松本清張賞を受賞。


1.
アダマースの饗宴(文庫改題:六本木デットヒート)

2.KIRICO@シブヤ

  


    

1.

●「アダマースの饗宴」● ★☆       松本清張賞
 (文庫改題:六本木デットヒート)


アダマースの饗宴画像

2009年07月
文芸春秋刊

(1429円+税)

2012年12月
文春文庫化

   

2009/07/26

 

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ITバブルに浮かれた企業とそれに便乗して利益を上げようとした暴力団同士の抗争を題材とした、松本清張賞受賞のハードサスペンス。

普段あまりこの手の小説は読まないのですが、主人公像にちと惹かれて手に取りました。
主人公は笙子、元デリヘル嬢、しかもしゃぶ中毒。やはりしゃぶ中毒の客を相手にした時、気づくと相手を殺していた。その罪で8年の懲役、出所してまだ間もないという状況。
桐野夏生さんのハードサスペンスの主人公、村野ミロのような主人公を予想したのですが、さにあらず。そもそも村野ミロは仮にもプロ、それに対し本作主人公の笙子は元風俗嬢に過ぎない。期待した私が無理だったようです。

その笙子、自分をこんな状況に至らしめた男=加治が暴力団相手に派手なドンパチを繰り広げ10億円を持ち逃げ。おかげでその騒動の渦中に笙子が巻き込まれる、というストーリィ。
IT企業、暴力団とITバブルの裏側を描いた点が本ストーリィに面白味だと思いますが、笙子はあくまで巻き込まれた存在であって、狂言回し、あるいはストーリィへ読み手を誘う役回り、といった観があります。
ただ、風俗嬢だからといって馬鹿にしてはいけません。笙子をバックアップするヒキコモリ暴力団員の雨宮と、その雨宮をヒモとするリサ。そのリサが凄い。半年先まで予約一杯の売れっ子デリヘル嬢でありながら、穢れなき美人風であるうえに、コンピュータ・情報処理技術についても中々の腕前というのですから。

結局加治がひっかき回し、暴力団同士の抗争がどこまで本格化するのかというストーリィなのですが、所詮、彼らにとってはゲームに過ぎない。
それよりも、その裏側で繰り広げられる笙子と、彼女の周辺に現れる瑠璃、リサ、事件の関係者である万里子という女同士の絡み合いの方が複雑で興味深いかもしれません。
ただ、笙子の存在位置といい、結末といい、もう一つ納得感を欠いている気がします。ハードサスペンスとは、そうしたものかもしれませんが。

※なお、「アダマース」とは、「決して思い通りにはならないもの」という意味をもつギリシャ語の言葉という。

        

2.

●「KIRICO@シブヤ」● ★★

 
KIRICO@シブヤ画像
 
2011年01月
文芸春秋

(1600円+税)

  

2011/02/16

  

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秋葉原無差別殺傷事件と同じような事件が渋谷の街で起きます。死者14人、負傷者28人。それがプロローグ。
そしてその3年後、不良グループ相手に沖縄空手の遣い手である女子高生=
希莉子(きりこ)が一人で殴り込みをかけるところから、本ストーリィの幕が開きます。
次第に判ることですが、本書登場人物の殆どが3年前の事件によってその後の人生を狂わされた人々。主要な登場人物中、唯一の例外が希莉子、といった具合です。
そしてもう一人登場する
霧子もまた、本ストーリィの鍵を握る人物。

ストーリィ展開は極めてスピーディ。こうしたストーリィが面白いかどうかの鍵を握るのが主人公のキャラクターと言えますが、希莉子、その点魅力たっぷりと言って良いでしょう。
考えるより先にまず身体が動くといったタイプの、猪突猛進型かつ武闘派少女。その口のきき方は如何にも、といった感じなのですが、それだけでも充分楽しいキャラクターです。
このキャラクターがあるからこそ、本ストーリィは疾走感に溢れています。そこが本書の魅力。
ストーリィの根底には、非道な出来事への怒り、当事者にならず傍観者としてただ無責任に面白がっている人間たちへの怒り、そして人間の強さとは何なのかという問い掛けがあります。
力によって解決しようとする大人たちに挑む、3人の純真な少女たち、という構図も見逃せません。

アダマースの饗宴から格段の進化を感じた一冊。
なお、本ストーリィが全て渋谷という街の中で繰り広げられるという点も、見所かもしれません。

    


  

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