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11.白をつなぐ 12.つくしちゃんとすぎなさん 13.ひかり生まれるところ 14.三島由宇、当選確実! 15.奮闘するたすく 16.青がやってきた 17.疾風の女子マネ! 18.パパとセイラの177日間 19.思いはいのり、言葉はつばさ 20.空は逃げない |
【作家歴】、カラフルな闇、最強の天使、たまごを持つように、鉄のしぶきがはねる、鷹のように帆をあげて、わからん薬学事始1、わからん薬学事始2、わからん薬学事始3、伝説のエンドーくん、風味さんじゅうまる |
無限の中心で、日向丘中学校カウンセラー室、零から0へ、かがやき子ども病院トレジャーハンター、日向丘中学校カウンセラー室−十人十色・1匹?色の文化祭−、つる子さんからの奨学金 |
11. | |
「白をつなぐ」 ★★ |
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2018年11月
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毎年1月広島で開催される都道府県対抗男子駅伝を舞台にした、清新な駅伝ストーリィ。 |
「つくしちゃんとすぎなさん」 ★★ | |
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小学中級向け”わくわくライブラリー”シリーズ作品。 引っ越してきたばかりの小学2年生のつくしちゃん、同級生のるなちゃんから、学校の帰り道にある垣根に囲まれた一軒家は<魔女の家>だと教えられ、怖くなります。 だってその垣根には「毒がある草もあります」なんていう注意書きがあるのですから。 その家に年を取っても一人で住んでいるのはすぎなさん。庭で草花を育てるのが大好きなおばあさん。 つくしちゃんとすぎなさんが大きな年齢差を超えて友達になる様子、そしてつくしちゃんが生まれて半年の弟=風太を可愛がる、時に嫉妬するつくしちゃんの様子は、とても微笑ましくて何とも心温まるストーリィです。 そして、つくしちゃんとすぎなさんの結びつきをきっかけに人の輪が広がっていくところも楽しい。 街とは本来こうでなくっちゃと、そんな近くて遠い住民関係から程遠いマンション暮しの身にして感じます。 |
「ひかり生まれるところ」 ★★ |
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いろいろなストーリィ舞台を見せてくれるまはらさんですが、今回の舞台は神社、そして主人公は神職に就いた若い女性、奥山希美(のぞみ)。 現在、奥山希美は27歳。神職に就いて5年目で地位は権禰宜。 2015年から2016年にかけ、勤める三雲神社で数々の行事を通じて神社の仕事のあれこれを紹介するのと併せ、七五三で初めて昇殿祈願を担当する等々、神職として少しずつ前に進む希美の姿が描かれます。 その現在と並行して、希美が生まれたばかりの1988年から小学生〜中学生と、神職に縁のない家系にもかかわらず希美が神職を選んだ経緯が描かれます。 まず物珍しさが第一、私としては神社、神職のあれこれにつき興味津々です。 同時に、真摯に神職に向かい合っている希美の姿が好ましい。 そんな希美にどんな過去があったのか、ちょっとミステリアスですが、希美を支えた祖母の存在が光ります。 どこまでも清々しく、気持ち良いストーリィ。 まはら三桃作品、好きだなぁ。 |
「三島由宇、当選確実!」 ★☆ |
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小学5年生の三島由宇は、通う若葉小学校で児童会の副会長を務める等、学校活動に積極的な女の子。 母親は由宇が保育園児の時病気で亡くなり、今はカバン屋を営む父親との2人暮らし。 ある日由宇は、これまで全く行き来のなかった父方の祖母から突然に電話を受け、びっくり。 さらに驚いたことに、祖父は与党のベテラン政治家で国土交通省副大臣も務めた偉い人なのだという。 折しも国会が解散となり衆議院選挙に向けた運動が始まります。 選挙に興味を引き付けられた由宇、父親の渋い顔を尻目に、祖父母に誘われるまま祖父の選挙運動を手伝うことになります。 そうした経緯により由宇は、日本の政治制度、議会の仕組み、選挙制度(公示、小選挙区比例代表並列制)、選挙運動等を自分の目で直接見聞きして知ってしていくことになります。 選挙年齢が20歳から18歳に引き下げられたことを反映してか、子ども向けのリアルな選挙体験記。 政治への無関心が広がる現在、こうした本を読むことによって子どもたちが少しでも政治に関心を持ってくれれば何よりと思います。 1.由宇の日常/2.児童会でのごたごた/3.突然の知らせ/4.おじいちゃんとの対面/5.お父さんの実家/6.由宇、大ピンチ/7.おばあちゃんからの誘い/8.由宇の春休み/9.公示日/10.公示/11.選挙戦開始/12.期日前投票?三権分立?/13.お母さんのひみつ/14.上杉朝日/15.選挙サンデー/16.おじいさんの怒り/17.よくない予感/18.大事件/19.おじいちゃんの大事な話/20.投票日/21.開票/22.結果/23.お父さんの気持ち |
「奮闘するたすく」 ★★ |
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選挙の次は介護問題とはね。 「三島由宇、当選確実!」と同じく、本書の主人公も小学5年生の野沢佑(たすく)。 祖母を亡くして一人暮らしとなった75歳の祖父(大内善雄)に認知症の症状が現れるようになり、さらに転んで右足首まで痛めてしまったことから、デイサービスの入浴介助を利用することになります。 すると勿怪の幸いとばかり、佑の担任教師で強烈な目力ビームを放出する早田先生から、デイサービスの様子を詳しくレポートして欲しいと頼まれます(実質は命令の如し)。 その結果、佑と親友の長尾一平という小学5年生2人は、祖父と一緒に“デイサービス・こもれび”に通うことになります。 小学5年生がレポートする介護現場の見聞、そして介護体験記、というのが本書の内容。 初めて知る介護の現場は、2人の小学生にとって初めて知り、驚くことばかり。でも佑にとっては祖父も介護される老人の一人とあって、決して他人ごとではありません。 そしてそれは、これまでデイサービスに縁のなかった大人にとっても同様のこと。 こもれびで働く介護士たち(インドネシアからの研修生を含む)から教わることも多いのですが、佑や一平が直に老人たちと交わり、彼らから多くを学ぶというところが貴重です。 最後、皆で揃って替え歌で盛り上がる場面が楽しい。何時になっても楽しいことは、生きる力の源泉でしょうから。 1.夏休みの宿題/2.こもれび/3.祖父、キレる/4.早田先生登場/5.リニさんの話/6.いろいろな個性/7.立ち入り禁止の部屋/8.祖父、不通所宣言/9.祖父の苦しみ/10.よし子さん、いなくなる/11.花の部屋のこと/12.セミの脱皮/13.こもれびの生活/14.替え歌カラオケ大会/15.時間旅行/16.無表情なおばさん/17.レポート作成/18.お笑いライブ |
「青(ハル)がやってきた」 ★☆ | |
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児童向けノベルズ。 世界的にも有名なサーカス団“ドリーム・サーカス”が我が町にやって来る。 そうと知って興奮する子供たちの前に転校生として現れたのは、サーカス団の魔術師“ミスター・ベル”を父親とする青(ハル)。 のっけから魔術を披露する青に皆が魅了されてしまう。 サーカス団の移動により転校を繰り返す青と共に、日本各地を巡る連作ストーリィ。 なお、本ストーリィ、青が主人公かと言えば、そうではありません。主人公は、青が転々とする先で出会う子供たち。 青が彼らに何かをやってのける、ということではありません。 ただ青はその地に現れるだけなのですが、それが刺激となって各篇の子供たちに影響を与え、彼らが変わっていくというストーリィ。 子供というのはちょっとしたきっかけ、刺激によって大きく変わる、成長することがある。そのことを如実に、楽しく描いた連作小説と言って良いでしょう。 一種のロードノベル、といった楽しさを本書は備えています。 鹿児島/福岡/山口/大阪/千葉/つぎのあき地へ |
「疾風の女子マネ!」 ★★ | |
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高校青春スポーツ小説。 ただし、本作の主役は選手ではなく、女子マネージャー! 青嵐学園高校に入学した湯田咲良の狙いは、スポーツ部の女子マネになって男子からもてはやされること。 折よく見かけたイケメン男子を追いかけたことから、陸上部マネージャーに。 ところが咲良の思惑に反して、有能で厳格な先輩女子マネの小室直から手厳しく指導されるばかりか、憧れだった2年男子は実に尊大。 それでも咲良、負けん気で女子マネ街道を一直線。 マネージャーというとひたすら陰での支え役というイメージなのですが、とんでもない。 選手たちと一心同体になって疾走感、勝つ喜びを味わうことができるんです。 本作は、中学時代は体育系部でそれなりに活躍したものの、何か訳ありで止めたらしい咲良が、不埒な動機で始めた女子マネ仕事にいつしか喜びとやり甲斐を覚え、過去のトラウマからやっと脱却し成長することができる、というストーリィ。 一応、中高生あたりが主対象と思える作品ですが、大人が読んでも十分に面白く、読み応えもたっぷりです。 そんなところがまはら三桃作品の魅力なんですよねぇ。 |
「パパとセイラの177日間−保険外交員はじめました−」 ★★ | |
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主人公は月野耕生、28歳。学生時代の起業が成功、一時はマザーに上場し順調でしたが、不況のあおりであっさり倒産。 一緒に起業した妻の沙織は既に転職に成功済。離婚届を残し、6歳の娘セイラを連れて家を出ていきます。 取り残された絶望感に取りつかれていたところ、寂しがり屋のパパが心配、一緒にいてあげるとセイラが戻ってきてくれます。 そこから始まる、フリーターのシングルファザーとなった耕生の再出発&子育て奮闘記。 託児所付き、しかも保育料は他の半額というセールス文句に惹かれ、耕生は保険外交員の募集に応募します。 それからは、この類の典型的なパターン。 セイラのためなら頑張れると、それまで自分は優秀と信じ頭を下げることのなかった耕生が契約のために頭を下げ、また次第に評価されることもあり、努力しても報われないこともありを繰り返します。その耕生、果たして“毒キノコおばさん”の上司=間宮からの教えどおりに、自分の殻を破ることが出来るのか。 楽しく読める一方、ありきたりのストーリィとも言えますが、本作で光っているのは6歳の娘セイラの存在。 子はかすがい、という言葉がありますが、セイラ、まさにその具体的現れ、と言って差し支えないでしょう。 意気地のない耕生に似ず、しっかりもの。それでもやはり6歳の子供。やはり無理をしていたのでしょう。幼児返りといった姿も現します。 まはら三桃さんには珍しく、大人向けの作品ですけれど、終始包み込むような温かさに満ちているところが、本作の魅力であり、気持ち良さ。 途中、じれったくなるような愚かさも見せられますが、セイラのために頑張れと、耕生を見放す訳にはいきません。 さて、セイラの願いは何だったのか。そしてそれは、叶うのか。 お楽しみに。 |
「思いはいのり、言葉はつばさ」 ★★☆ | |
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中国南部の湖南省江永県等の地域において、秘密裏に専ら女性の間だけで用いられていた文字=「女書(にょしょ)」を題材にしたストーリィ。 まるで知らなかった「女書」ですが、昔、女性が漢字を学習することは良しとされておらず、そのために女性の間で生み出されたものだったそうです。 主人公は、漢族の父親とハル族の母親の間に生まれた少女=ゴオ・チャオミン。 元気者で明るい性格、母親譲りで歌が大好きな少女です。 そのチャオミンがずっと願ってきたことは、女書を習うこと。 ついにその願いが叶った時から、チャオミンの世界は広がっていきます。 女書の背景にあったものは、女性を見下し、当然のようにして抑圧してきた当時からのしきたり、なのでしょう。 そうした中で、女性たちの思いや願いを伝える道具として女書が生み出されてきたという経緯には感動を覚えます。 心を表すのは言葉、そして言葉を文字にすることによって、離れた相手にも時間を隔てても、伝えることができる。 言葉、文字の大切さを、改めて感じさせられるストーリィです。 チャオミン、その母親=ヤン・インシェン、幼友達のホ・ジュアヌ、その結婚に際してチャオミンが「三朝書」を贈った結交姉妹のコ・シューイン等々、本書に登場する女性たちや、しきたりに拘束されずにいる男たちへ、幸あれと、祈りの言葉を贈りたくなります。 1.かたい土から芽吹けよ二葉/2.光をめざし伸びよ蔓/3.やがてつけるよ小さなつぼみ |
「空は逃げない」 ★★ | |
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少年少女を主人公にした作品の多いまはら三桃さんには珍しい、青年年代の男女3人を主人公にしたストーリィ。 佐藤倫太郎と佐藤林太郎は、漢字一字が異なるだけの同姓同名。そのうえ、東西大学で同じ陸上部、さらに同じ棒高跳びの選手だというからややこしい。 おかげで周囲から、倫太郎は「A太郎」、林太郎は「B太郎」と呼ばれることになります。なお、A・Bは優劣ではなく性格タイプの違いによるものらしい。 棒高跳びの実績ではB太郎の方が上で、おまけに長身、イケメンとあっていつも女性にモテるのはB太郎の方。 その2人に絡むのが、同じ2年生で芸術学部の石井絵怜奈。 2011年春から12年にかけて、そして7年後の2018年春から19年にかけてと、2つの時に分けて3人のことが描かれます。 さながら<前期青春>と<後期青春>の組み合わせストーリィという印象です。 大学2年時仲の良かった3人が、7年後はそれぞれ離れた場所にいる。でも心はあの頃から今も繋がっているという風。 7年後の今、3人はどうしてその場所にいるのかが興味処。 男女3人ですからお互いの恋愛感情も気になる処ですが、そこはまはら三桃さんだけに曇りのない、爽快な展開になっています。 なお、A太郎とB太郎、どっちが今のリンタロウでどっちが今の佐藤なのか。いささか引っ掛けもあるのですが、かえってそれが楽しい。 大学時代の共感が今も3人の中に息づいている、という処が素敵です。 特筆すべき作品ではないかもしれませんが、やっぱりいいなァ、まはら三桃作品は。 このまま、空に羽ばたいていけそうな気持がします。 |
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