前川ほまれ
作品のページ


1986年生、宮城県出身。看護師として働く傍ら小説を書き始める。2017年「跡を消す」にて第7回ポプラ社小説新人賞を受賞し作家デビュー。

1.跡を消す

2.シークレット・ペイン

3.
セゾン・サンカンシオン

  


       

1.

「跡を消す−特殊清掃専門会社 デッドモーニング− ★★  ポプラ社小説新人賞


跡を消す

2018年07月
ポプラ社

(1600円+税)

2020年08月
ポプラ文庫



2018/09/12



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孤独死や自殺、普通ではない死に方をしてしまった人間の遺した痕跡を、元通りになるよう清掃する、というのが副題にある“特殊清掃専門会社”というデッドモーニングの業務内容。

フリーターである主人公=
浅井航(わたる)が小料理屋で知り合ったのは、笹川啓介という30代前半の人物。
その笹川の、一日で1万円のバイト代という言葉についひっかかり、航はそのバイトを引き受けるのですが、その仕事というのが何と特殊清掃だったとは・・・。

この特殊清掃、特別な思い、そして相当な覚悟がないと務まらない仕事だと思うのですが、同年代の廃棄物収集運搬業者である
から「腑抜け」と罵倒されるような航が続けるに至ったのは、意地でしかなかった、と言ってよいでしょう。

本作は、極めて特殊な清掃業の苦労を描く“お仕事小説”であると同時に、その仕事や仲間たちとの関わりを通じて、航が<クラゲ>から<骨のあるクラゲ>へと成長していく青春成長ストーリィ。
そして、毎日喪服を着込み、会社内はいつも薄暗くしている笹川が抱えている闇の正体が明らかになり、航がそれに対峙せざるを得なくなっていく展開は、ちょっとサスペンス風のスリリングさを感じさせられます。

笹川や航を囲む、楓やデッドモーニングの事務職という
望月、小料理屋「花瓶」の女将=悦子という周辺人物のキャラが立っているところも、本ストーリィに惹きつけられる理由。

さて、「跡を消す」という表題、その言葉が具体的に何を指すのか、そしてどういう意味を持つのか。読了後は、その言葉を噛み締めるように何度も繰り返してしまいます。
その言葉が表すもの、それは決して特殊な死に方をした人間だけに該当するものではなく、人間誰しもに共通することではないかと思うに至った次第です。

デビュー作でありながらこの出来の良さ、拍手喝采です。


1.青い月曜日/2.悲しみの回路/3.彼の欠片/4.私たちの合図/5.クラゲの骨/エピローグ

      

2.

「シークレット・ペイン−夜去医療刑務所・南病舎− The secret pain ★★   


シークレット・ペイン

2019年09月
ポプラ社

(1700円+税)

2021年09月
ポプラ文庫



2021/11/21



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医療刑務所を舞台にした、社会派ドラマ。

32歳になる精神科医の
工藤守は、大学医局の指示で夜去医療刑務所に半年間の期間限定で派遣され、<矯正医官>として勤務することになります。ただし、登庁は週に2日程度。
副題にある
「南病舎」とは、内科疾患のP級が北病舎、工藤が担当する精神疾患のM級が南病舎と分かれているため。

夜去医療刑務所に収容されている受刑者一人当たりにかかる年間費用は約4百万円。手術が必要な疾患を患えば倍くらいになることもあるという。それらの費用は全て税金から。
南病舎に収容されている受刑者の中には、妄想に囚われた者もいれば、医療手当を受けることを目的として刑務所入りしている者もいる。
罪を犯して収容されている受刑者たちに対して、医師はどう向かい合うべきなのか。

通常社会における医師と患者の信頼関係などは、ここ刑務所では戒められます。どんな弊害が医師にもたらされるのか分からないから。とはいえ、ことさらに贖罪の意識有無を受刑者に問い詰めようとし、刑務官以上に冷徹に接しようとする工藤の態度は医師に相応しいものなのでしょうか。
そんな工藤と対照的に、自ら矯正医官となった同じ精神科医のベテラン=
神崎、女性内科医の愛内凛は、制約はあっても患者として向かい合おうとしている。

そして、この南病舎には、工藤の子供時代にかけがえのない友人だった
滝沢真也が殺人罪で収容されていた・・・。

受刑者にも矯正医官にも、さらに刑務官にも、様々なドラマがあって今ここに居るのだということが順次語られていきます。
何が正しいか、などということはそう安易に言えるものではありませんが、矯正医官とはいえ、あくまで医者としてここに居る以上は、医師としての勤めを果たすべきなのではないか、と思います。
工藤が受刑者たちに対して厳しい態度を取ろうとしているのは、もしかして工藤自身が何かの呵責に今も苛まれている所為なのでは・・・。
 
全く知らなかった世界の扉を開け、覗き見た思いです。

1.羽根と体温/2.動物たちの咆哮/3.下を向いて/4.檸檬の夜/5.塀の中の子ども/エピローグ

      

3.

「セゾン・サンカンシオン Saison Sankanshion ★★☆


セゾン・サンカンシオン

2021年04月
ポプラ社

(1900円+税)



2021/05/10



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題名の「セゾン・サンカンシオン」とは、様々な依存症を抱える女性たちが共同生活を送る施設、とはいっても2階建ての古ぼけた建物。
一応「生活指導員」の女性も共に暮らしているものの、今は指導員である彼女もかつては依存症に苦しんだ女性という次第。

読み始める前は、上記施設を舞台にしたアットホームな再生ストーリィかと思っていたのですが、とんでもない。辛くて辛くて胸が詰まるような群像ストーリィ。

第1章から第5章は、依存症を病んで苦しんでいる女性と、そのおかげで迷惑を被った家族の現在をそれぞれ描くストーリィ。
その間に挟まれる
「#」はある女性の、依存症に陥る前から始まる長い人生に及ぶストーリィ。

ニュースでアル中とか薬物中毒とか聞くと、自分を律することのできないだらしのない人、意志が弱い人だからとつい決めつけてしまっていたのですが、本作を読むとそんな簡単なものではないのだと考えさせられます。
辛い状況に追い込まれ、辛さを分かち合ってくれる人もなく、それ故に逃げ込み場所を酒等に求めてしまい、何時しか依存症に陥ってしまっている。

家族も大変だったでしょうし縁を切りたいと思うのも当然のことと思いますが、やはり辛いのは本人なのでしょう。
そうでなくても自身を責めているのに、そのうえ家族や他人からも理解されることなく、責められる一方であれば。
その意味で 「
第4章 バースデイ」は余りに辛い、辛過ぎます。

各章を通じて登場しているのは、かつて自身もアルコール中毒者で、今は生活指導員の立場にある
塩塚美咲という40代の女性。
その塩塚美咲をはじめとし、本作に登場する女性たちが少しでも安らぎを手に入れることができれば、と心から祈る気持ちになります。

依存症に苦しむ人たちの実情を学ぶ上で、是非お薦め。


第1章 夜の爪/#1.新世紀の彼女/第2章 花占い/#2.はんぶんこ/第3章 葡萄の子/#3.紙の花/第4章 バースデイ/#4.寂しい場所/第5章 三寒四温/エピローグ

       


  

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