|
|
1.天体の回転について 2.因業探偵 3.パラレルワールド 4.因業探偵 リターンズ 5.代表取締役アイドル |
「天体の回転について」 ★★☆ |
|
|
久々に本格的SF作品を読んだのですが、これは抜群に面白かった。 表題作「天体の回転について」は、科学が失われた時代、“天橋立”という構造物に入り込んだ青年が、リーナという可愛らしい案内嬢に出会ってそのまま宇宙天体ツァーに誘われるというストーリィ。 アシモフの“ロボット三原則”をモチーフにした「灰色の車輪」もなかなか面白いのですが、「あの日」のSF的トリックがそれに至る前段階の構成も含めて真に秀逸! なお、「三○○万」はハリウッド映画を、「盗まれた昨日」の冒頭ではある国を揶揄しているようなところが面白い。 SFに馴染み薄い方に対しても、是非お薦めしたい短篇集です。 天体の回転について/灰色の車輪/あの日/性交体験者/銀の舟/三○○万/盗まれた昨日/時空争奪 |
2. | |
「因業探偵−新藤礼都(れつ)の事件簿−」 ★☆ |
|
|
財政難からバイト稼ぎを優先せざるを得ない女性探偵、新藤礼都が探偵役となるミステリ短篇集。 ただし、新藤礼都は各篇で主人公とはなりません。 各篇の主人公たちがストーリィの中で遭遇する、美人だけど30代後半? 辛辣な言葉を吐く嫌な女、という存在が新藤礼都。 何といっても本書の紹介文において「容赦ない発言と冷徹すぎる推理。抜群の頭脳と最悪の性格を併せ持つ女探偵」と評されるキャラクターなのですから。 各篇で礼都は様々な姿で登場します。資金作りに様々なバイトをしながら探偵業と掛け持ちしているという設定の故。 見知らぬ女=礼都と遭遇した各篇の主人公たち、礼都の容赦ない言葉にたじたじ。その辺りの会話も刺激があって面白い。 そして途中、いきなり舌鋒鋭く礼都が突っ込みを入れ、事件の真相が明らかになるという展開は、切れ味鋭く、満足。 なにはともあれ、<探偵ものミステリ>としてはそのキャラクターの故に異色、シニカルで予想もしない展開という面白さが、本作の魅力。 読む人の好き好きによるかもしれませんが、私としては気に入りました。新藤礼都の毒っ気、結構クセになりそうです。 プロローグ/保育補助/剪定/散歩代行/家庭教師/パチプロ/後妻 |
3. | |
「パラレルワールド PARALLEL WORLD」 ★☆ |
|
|
SF小説において“パラレルワールド”という仕掛けはそう珍しいものではないと思いますが、本作はそのパラレルワールドそのものを題材にした、親子3人の物語。 大雨でダムの水量が急増、そこを襲った地震でダムが決壊、下流にある家や建物は土石流に見舞われます。 その犠牲となったのが、会社員の良平と主婦の加奈子、そして5歳の息子=裕彦という坂崎家の3人。 結果はというと、良平と裕彦が生き残った世界と、加奈子と裕彦が生き残った世界というパラレルワールドが存在し、その両方の世界を裕彦はまるで二重写しのように関わります。 裕彦を介在させることによって、良平と加奈子は愛する相手がもうひとつの世界で生き延びていることを知り、言葉を交わすことができる、という次第。 前半は上記経緯と、その後の坂崎家3人の様子。 そして後半に入ると、パラレルワールド故に起きたサスペンスに3人が巻き込まれるという展開へ。 パラレルワールドという設定を使って、どんな事件、どんな物語を創りだせるのか、というところが興味どころと言って良いでしょう。 ストーリィの幅、登場人物とも限定されてしまった印象を受ける点がちと残念。 お父さんとお母さんとヒロ君/第一部/第二部/お母さんとお父さんとヒロ君 |
4. | |
「因業探偵 リターンズ−新藤礼都の冒険−」 ★☆ | |
|
新藤礼都を探偵役?とする“因業探偵”シリーズ第2弾。 前作でも新藤礼都のキャラクターは強烈でしたが、この第2弾では、ストーリィとも礼都の行動ぶりとも、さらにパワーアップ。 ブラックさ、シュールさ、とんでもない域に及んできた、という印象です。 面白いとか、興奮というより、まず仰け反るような思い。 このシリーズの特色は、主役であるべき新藤礼都が、主人公ではなく脇役として登場するところ。 主人公が予想もできない行動ぶりを礼都が発揮し、とんでもない事実が明らかになる・・・・だけでなく、そのうえに礼都がとんでもないことをしでかす、という点を魅力というべきか・・・。 ・「ユーチューバー」:人質立て籠り事件を察知したフリー記者の前に現れたのが、<ユーチューバー>と名乗る礼都。 ・「メイド喫茶店員」:子持ちメイド嬢の前に現れたのは、新人メイドなのに不愛想な30代女の礼都。 ・「マルチ商法会員」:マルチ商法講師の前に現れたのは下位会員の礼都。この篇の最後には仰天! ・「ナンパ教室講師」:ナンパ教室を受講した浪人生、その前に現れた新講師が礼都。 ・「鶯娘」:市会議員候補と選挙事務局長が、鶯嬢を務める礼都のおかげで大モメ・・・。 ・「探偵補佐」:なんとまぁ・・・。さすがに気分が悪くなります。 ユーチューバー/メイド喫茶店員/マルチ商法会員/ナンパ教室講師/鶯娘/探偵補佐 |
5. | |
「代表取締役アイドル」 ★★ |
|
2022年09月
|
地下アイドルグループのメンバーだった河野ささら、握手会で起きた事件のおかげでアイドル活動が中止になっています。 そんな時にオファーがあった仕事は、何と大企業の社外取締役。トップの石垣忠則が思い付きで決めたことらしい。 ともかくも報酬1億円の社外取締役に就任したささらですが、三代目社長の忠介が唐突に無茶苦茶な売上増加を命じたことから、データ偽装、業績粉飾が報道され、大騒ぎに。 自分たちの責任を回避しようと忠則・忠介父子は会長・社長を辞任し、あろうことかさららを後任社長に指名。 いくら大企業とはいえ、こんな会社、一体大丈夫なの? トップ父子の勘違い(会社は自分たちのもの)、バカな父子にただひれ伏すだけの役員たち、まさにブラックジョーク。 でも、これは本作だけのドタバタコメディか?と言えば、似たような話はどこの会社にでも、とくに大会社であればある程、起きがちなことと思います。 そうした中、主人公ささらは全くの素人ですから、会社ってこんなもの? こんなことでいいの?と思う役柄。 同社研究所の5年目研究員=塩原帆香も、ささらと同じような役割です。ただし、こちらは自分に影響が生じることでありながら何の手出しもできないという、歯がゆい立場。 一方、ささらをサポートする秘書課の牧原菜々美、戦略企画室長の棚森一樹は、会社の問題点を明確に認識していますが、片や会社のため、片や会社より自分個人の利益のためと、その思考は対照的。 笑える滑稽譚であると同時に、恐い会社小説でもあります。 是非、一興として、この会社の崩壊ぶりをご覧あれ。 |