河原千恵子作品のページ


1962年東京都生。「白い花と鳥たちの祈り」にて第22回小説すばる新人賞を受賞。

 


      

●「白い花と鳥たちの祈り」● ★★☆       小説すばる新人賞


白い花と鳥たちの祈り画像

2010年02月
集英社刊

(1500円+税)

 

2010/04/03

 

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父親と離婚した母親が再婚。その結果、引っ越して新しい街、新しい学校、そして新しい家族。
中学1年生の主人公=あさぎは、そのどれにもまだ馴染めず、いつも気を張り詰めている。
そんなあさぎが唯一気持ちを緩めることができるのは、近所にある郵便局で中村さんという職員の笑顔に触れることができる時だけ。
しかし、その中村さんもまた、暗く深い哀しみを抱えた青年だった。
中学生のあさぎと、郵便職員の中村、共に自分の居場所を見出せないでいる2人の心の揺れを、繊細に描き出していく長篇小説。
題名からは綺麗で可愛らしいイメージを受けますが、2人にとってはかなり過酷な現実が描かれていきます。

両親の離婚、母親の再婚と妊娠、それまで他人であった見知らぬ男性を家族として受け入れること。
一般的にはそう特別なことではないし、慣れの問題と言い切られてしまうことでしょうけれど、年頃の女の子にとってみれば自分の人生を揺るがす重大な問題というのもまた当然のこと。まして母親がやたら精神不安定で、自らの発作を枷にあさぎに重圧をかけてくるとなれば。
そんな2人を何とか元気になって欲しい、自分を取り戻して欲しいと、祈るような気持ちで読み進んでいくストーリィ。

時間、周囲の人間たちだけが問題ではなく、そこには自分自身の肯定、そして見方を変えていくという自助努力も欠かせないことだった。
孤立感を深めてきた2人が、向かい合い、それまで堪えてきた真情を吐露するところから始まる、2人の再生ストーリィ。
ありきたりなシーンかもしれませんが、最後は胸が熱くなって涙いっぱい。
新人賞受賞作でこれだけ余すところなく書き込まれている作品は少ないのではないか。感動だけでなく、その点にも感嘆。

        


   

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