川端裕人作品のページ


1964年兵庫県明石市生、千葉県千葉市育ち。東京大学教養学部卒業後、日本テレビ入社。科学技術庁、気象庁等の担当記者を経て97年退社、フリーとなる。98年「夏のロケット」にて第15回サントリーミステリー大賞優秀作品賞を受賞し作家デビュー。


1.桜川ピクニック

2.銀河のワールドカップ

3.風のダンデライオン

4.雲の王

5.天空の約束

6.声のお仕事

7.青い海の宇宙港−春夏篇−

8.青い海の宇宙港−秋冬篇−

  


 

1.

●「桜川ピクニック」● ★☆


桜川ピクニック画像

2007年03月
文芸春秋刊
(1238円+税)

2012年07月
PHP文芸文庫



2007/04/01



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妻がキャリア志向だったり高給取りだったり、偶々自分が自宅で行う仕事だったりという理由で子育てに奮闘しつつ、これで良いのかと自問自答する父親たちの姿を愛おしく描いた短篇集。

私自身もかつては幼い子供の父親であった訳で、当時を思い出しながら読みました。当時は家人が専業主婦だったので子育ては任せっぱなし、精々が時々少し面倒を見るという程度のことですから、本書に登場する父親達の足元にも及びません。
それでも、幼い我が子に翻弄される一方で妻はその苦労をどこまで判っているのか、自分はこのままで良いのかと迷う父親たちの気持ちには身につまされる思いがします。
一生懸命やっているのに、それでもママの方がいいっ、と言われたら切ないですよね〜。

専業主婦だって同じことと逆に言われれば、そうだよなぁと思わざる得ません。
男性か女性かという違いはさておき、子育てと仕事を両立するのは大変、子育ては仕事の傍らにできるような簡単なものではないということがよく感じられます。
どう役割を分担し、我が子のためと自分のためのことをどう両立させるか、は永遠の課題だろうと思います。

本書で描かれているのは、幼い子供がいればどこでも繰り返されるような光景ばかりと言えるでしょう。
かつての日々における我が身を反省しつつ、奮闘する父親たちにエールを送りたい気持ちになる、しみじみとした味わいの短篇集です。

青のウルトラマン/前線/うんてんしんとだっこひめ/夜明け前/おしり関係/親水公園ピクニック

     

2.

●「銀河のワールドカップ」● ★★☆


銀河のワールドカップ画像

2006年04月
集英社刊
(1900円+税)

2008年05月
集英社文庫化



2012/05/06



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面白い! スポーツ小説といえどもこれだけ興奮させられ、魅入らせられる作品はそうあるものではありません。
まるで実際のスポーツ観戦における興奮を味わっているような気分です。痛快! 手に汗握る興奮、スリル、スピート感、もう待ったなしです。

元J2のプロサッカー選手という経歴、また小学生チームを率いて好成績を挙げた実績あるものの、不祥事に見舞われ今は失意の失業中である花島勝
公園で昼間からビール、煙草で有り余る時間をやり過ごしていた時、同じ公園でサッカーに興じる小学生たちの中、三つ子兄弟の才能あふれるプレーに目を見張ります。それが花島と、サッカーを愛する小学生たちの出会い。
そこから花島がコーチに就任、一旦チームを抜けた三つ子がチームに戻り、地元サッカーチーム
“桃山プレデター”の破天荒な快進撃&成長が始まるというストーリィ。
そのメンバーはというと、
“三つ子の悪魔”と呼ばれ学校教師らからも敬遠される存在の降矢(ふるや)三兄弟=虎太(こた)・竜持(りゅうじ)・鳳壮(おうぞう)の他、大声の太田翼、快速の高遠エリカ、体重を落とすことが目的でチームに加わった西園寺玲華と他の6年生3人+5年生の助っ人2人。
さらに後半、8人制サッカーでの挑戦となって他チームで活躍していた
青砥ゴンザレス琢馬、杉山多義が加わり、さらにプレデターはパワーアップ。彼らの野望もパワーアップ。
(ちなみに“プレデター”とは
肉食獣の意味だそうです)

本書での魅力は、花島が過去の反省から、子供たちを枠にはめないということを第一モットーにしている点です。
大人の勝手な思惑からどれだけ子供たちに枠をはめていることが、スポーツだけでなく日常生活でも多いことか。
枠にはめない分、花島は子供たちに常に自分で考えろ、自分たちで解決しろと、責任を押し付けます。
だからこそ本書に登場する8人の子供たちの個性的なキャラクターの魅力が存分に発揮される、という具合。
そしてその発揮された結果は? そして彼らが秘めていた“野望”とは? これがもう信じられないようなこと。
私のようにサッカー不案内でも、本書の面白さを味わう障害にはなりません。
なお、バトミントン・アマチュア選手という花島の恋人=
杏子の存在が、本ストーリィに良い味を加えています。

全 380頁という大長編スポーツストーリィ、躍動感あふれるばかりか、まるで大河小説のような読み応えと評して過言ではありません。
スポーツ小説、エンターテイメント好きの読者にお薦め!

        

3.

●「風のダンデライオン−銀河のワールドカップ ガールズ−」● ★★


風のダンデライオン画像

2012年03月
集英社文庫刊
(381円+税)



2012/05/07



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少年スポーツ小説の傑作銀河のワールドカップの前日譚。
主人公は、小学5年生時の
高遠エリカです。

所属していた女子サッカーチームの恋窪ダンデライオンがメンバー不足等から解散し、行き場所を失っていたエリカ。公園で時々蹴り合う仲間だったツバサと2人が偶然出会ったのは、なでしこの日本代表にして現在新東京FCレディース・ローサに所属するプロ選手のミサキ(志水美咲)
ミサキから、チームがなくなったんなら自分たちでチームを作ればいいとハッパを掛けられたエリカ、ツバサと強力して一時的なチームを作り上げます。その名は桃山ダンデライオン。
メンバーは「銀河」でお馴染みの、三つ子の
降矢3兄弟に例によって浮島・植松・内村のU3。目標は来月、新東京FCレディース・ローサとの練習試合、それに向けて中学生男子チームとも試合してチームを練り上げていく・・・と、その前日譚にしてミニ「銀河のワールドカップ」という具合です。

「銀河」に優る爽快感が堪らない魅力です。
プレイスタイルはスピードスターと称するエリカ、そのモットー
「野に咲くたんぽぽ、でも、ハートはライオン。相手がどんなチームでも、あきらめない」。そして好試合で風を切る気持ち良さを感じながら疾走するエリカの姿が、すこぶる爽快。

是非「銀河のワールドカップ」と合わせて読んでみてください。順番はどちらが先でも何ら支障なし。
エリカや三つ子、ツバサたちのキャラクターに魅せられること間違いないでしょう。

※NHKアニメ「銀河へキックオフ!!」の原作とのこと。

     

4.

●「雲の王」● ★★


雲の王画像

2012年07月
集英社刊
(1500円+税)

2015年07月
集英社文庫化



2012/07/30



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気象を予想する特殊能力をもった雲の一族をめぐる壮大なストーリィ。
特異な能力をもった一族の物語というといつも
恩田陸「光の帝国−常野物語−を思い出してしまいます。私にとっては特殊な一族物語の原点というべき作品ですから。

主人公は南雲美晴、気象大学を卒業し、今は離婚して小学6年生の息子=楓大(ふうた)を抱えながら気象台に勤める女性。
その美晴、幼い頃から気象の匂いを感じとり、コンピュータでの気象データ計算より速く、かつ的確な予想をすることが度々あった。
それが特殊な能力だと図らずも感じさせられたのは、都市型集中豪雨(ゲリラ豪雨)の対策プロジェクトチームの一員に選ばれたことから。さらに消息不明だった兄の
由宇から房総のある住所を書いた便りが届きます。それを契機に美晴は、自分もまたその末裔である、気象の変化を読み取る力を持つ雲の一族の秘密に巻き込まれていきます。

人間相手ではなく気象=自然界が相手だけにストーリィは壮大、そして水蒸気の雲に至っていく流れを美晴が竜に例えて観る辺りは、特にその雄大さに惹きつけられる思いです。
しかし、逆に気象相手だけにサスペンス的な展開は弱く、雲の一族の秘密、過去の履歴を探る以外に何の面白さがあるのかというと、そこは弱いという印象。
最後、美晴が早くに死んだ両親と同じ行動に挑む、というところがクライマックス場面の筈なのですが、惜しいかなもうひとつ物足りず。
それでも空、雲と親しむ観のある本ストーリィ、その壮大な物語は十分爽快で気持ちの良いものです。

      

5.
「天空の約束」 ★☆


天空の約束

2015年09月
新潮社刊
(1300円+税)

2017年10月
集英社文庫化



2015/10/09



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雲の王に続く、気象を読む力をもった一族を描いた物語。
と言っても前作から続く長編ストーリィではなく、連作短編形式で描いたもの。
前作でもそうでしたが、今回は連作短編ということもあってなおのこと
常野一族恩田陸「光の帝国−常野物語−)を思い起こさせる内容となっています。

「雪と遠雷」は序章、ある男女がある小瓶を受け渡します。
「微気候の魔術師・・・」は、かつて研究者だった八雲助壱元先生が初めて訪れたバー“雲の倶楽部”で、ある小瓶を託されるまで。
「眠り姫は・・・」は、かつて眠り姫と仇名された日向早樹がどうも天気をよく当たるらしい、という話。
「観天の者・・・」は、八雲先生の述懐する事々。
「天空の妖精が・・・」では、早樹と椿かすみが再会。
「分教場の子ら・・・」では、老婦人がかつて分教場の新米教師として関わった子供たちを回想。
「龍のみうろこ・・・」では、八雲先生が再び登場。
「透明な魔女は・・・」では、椿かすみと当麻千里が再会。
「雲の待ち人に・・・」はで、八雲先生が老婦人の元へ小瓶を届けに行きます。

登場人物がいろいろと入れ替わりますので判り難いのですが、俯瞰してみると一つの大きな流れに収斂する物語。
9篇の内では
「分教場の子ら、空を奏でる」が一番長く、本書中で中核を成しているストーリィ。唯一戦時中の出来事を語っている篇ですが、そこに登場する子供たちがとにかく切なく、愛おしい。幼い子供たちがお互いに手を取り合い、助け合う様子を見ていると、どうか幸あれと願う気持ちになります。

雪と遠雷/微気候の魔術師、招かれる/眠り姫は、夢で見る/観天の者、雲を名乗る/天空の妖精が、光りの矢を放つ/分教場の子ら、空を奏でる/龍のみうろこ、悪戯をする/透明な魔女は、目の底で泣く/雲の待ち人に、届け物をする

     

6.
「声のお仕事 ★★


声のお仕事

2016年02月
文芸春秋刊
(1400円+税)

2019年05月
文春文庫



2016/03/09



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題名からして“声優”の仕事のことだろうなぁとは判るというもの。仕事内容からしてストーリィの内容まで限定されてしまう気がして余り期待していなかったのですが、さに非ず、むしろ読み逃さずに済んで儲けものでした。

主人公は
結城勇樹、25歳。「声で世界を変えてやる!」がモットーですが、現実の状況はオーディションを受けるも中々役が取れず、声優としては崖っぷちの状況。
そんな勇樹に、新しく放映される高校野球アニメ
「センターライン」の役が付きます・・・しかし、その役は何と犬!

余り知ることのない“声優”仕事の現場をリアルに知ることができるという興味深さもありますが、それ以上に本書の読み処は、駆け出し声優の青春かつ成長ストーリィに仕上がっていることでしょう。
それにプラス、声優たちの群像ストーリィというのが魅力。勇樹と同い年でありながら既に実力に定評ある
大島啓吾、楚々とした印象の椎野遥香を始めとして、勇樹が所属する事務所の先輩である平川信策等々、一人一人が個性的。
勇樹が声優を志した経緯や、勇樹と大島の思わぬ関係、声優たち相互の絡み合い等々、大なり小なり色々なドラマが織り込まれていて少しも読み手を飽きさせません。
また、「センターライン」のドラマにおける個性的な野球部ナインらのチームワークがそのまま、登場人物たちを演じる声優たちの現実のチームワークに投影されているような展開がとても楽しい。

女性マネージャーが最初から勇樹にかなり肩入れしていたり、共演した声優たちが勇樹の可能性について一様に肯定的だったりと、順調過ぎる処もありますが、青春&成長ストーリィとしての爽快さは堪えられません。私好み。


1.声のお仕事/2.声のフィッシュダンス/3.声の討ち入り/4.声のお当番/5.声の放浪者/6.声のオトモダチ/7.声の崖っぷち/8.声の大仕事

                     

7.
「青い海の宇宙港−春夏篇−」 ★☆


青い海の宇宙港 春夏篇

2016年07月
早川書房刊
(1400円+税)

2019年07月
ハヤカワ文庫



2016/08/23



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“宇宙港”“宇宙遊学生”と聞くと何やらSF未来小説のように感じますが、要は都会から地方への山村留学のようなもの。
留学先が、ロケット発射場のある
多根島(種子島のモジリであることは明らか)であることから「宇宙遊学」と称されている次第。

主人公となるのは
天羽駆(あもうかける)、東京から1年間の宇宙遊学にやってきた小学6年生。
多根南小学校の56年生は僅か7名で、内3人が宇宙遊学生という状況。宇宙大好きな
本郷周太は、早速遊学生3人に地元の元気女子=大日向希実を加えた4人で宇宙探検隊を作り上げますが、駆が好きなのは実は宇宙より生き物。自然いっぱいなこの島で様々な生き物に出会えて興奮することしきり。
もうひとりの遊学生は、日仏混血の5年生=
橘ルノートル萌奈美。大人しそうな印象に反して活発な面があることが次第に明らかになります。
ただし、宇宙遊学生となったのには、各自にそれなりの事情があったことが次第に明らかになっていきます。

広大な青い海、いっぱいの自然、宇宙の高みを目指すロケット発射場。それらに囲まれた多根島での、駆ら小学生たちの一年間の成長を描いたストーリィ。本書はその前半です。

なお、本書は決して少年少女たちのストーリィに留まるものではありません。ロケットを自分たちで作ってみようと胸膨らませる地元の大人もいれば、宇宙より郷土史に興味をもつ女性教師も登場します。
それだけ多根島が豊かな土地柄である、ということなのでしょう。
一方、暗い表情を時々見せるJSA職員の加瀬遥遠(はると)も登場します。彼の暗い表情の理由は何なのか、そしてそれは救われるのでしょうか。
すべては後半の
「秋冬篇」がどう展開していくか次第。楽しみです。

一学期・宇宙遊学生/夏休み

                

8.
「青い海の宇宙港−秋冬篇−」 ★★


青い海の宇宙港−秋冬篇−

2016年08月
早川書房刊
(1500円+税)

2019年07月
ハヤカワ文庫



2016/08/24



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多根島に宇宙遊学にやってきた小学生の天羽駆、本郷周太、橘ルノートル萌奈美と地元小学生の大日向希実の4人による“宇宙探検隊”による冒険ストーリィ、後半。

ずっと実家に戻っていた周太が戻ってきて、彼らの発案になる
“島ロケット”打ち上げ計画がいよいよスタートします。
ロケット競技会で駆らが作った
“ボンボン・ロケット”のようなものとは違います。
何と、地球を回る周回軌道にまで打ち上げ、さらに積み込んだ宇宙機で深宇宙まで目指すというのですから、本格的。
当然ながら全て小学生たちで計画を実行できる訳はなく、島民あげての“島ロケット打ち上げ計画”へと発展していきます。

現実離れし過ぎていて実感が持てず、何やらストーリィに置き去りにされている気分だったのですが、いざ島ロケット打ち上げの瞬間を迎えれば、そこは興奮と感動が抑えきれないほどです。

夢を実現しようと前へ前へと突き進んでいく小学生たちの姿、彼らに触発されて大人ながら夢の実現に向けて力を合わせていく
加瀬遥遠大日向菜々、温水兄弟(宙と航)や島の人々の姿が、すこぶる気持ち良い。
成長ストーリィのひと言で片づけてしまうのは簡単ですが、本書の場合、何とそれは果てしない成長であることか。

大人たちに少年の頃の夢を蘇らせてくれる、夏休み時期に相応しいストーリィ。宇宙とはまさにそれに相応しい舞台です。


二学期・コズミックバード/二学期・ハイタカとコウヅル/冬休み/三学期・島の宇宙樹/春休み(ロケットの夏)/終章・永遠のタイムカプセル

    


  

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