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1.オルタネート 2.なれのはて 3.ミアキス・シンフォニー |
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「オルタネート」 ★★☆ 吉川英治文学新人賞 |
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2023年07月
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当初見送っていたのですが、直木賞候補作になったということで思い返し読んだ次第です。これは読んで良かった。 まず、素晴らしい、の一言。高校生たちが等身大に、その心情がリアルかつありのままに描かれていて。 表題の「オルタネート」とは、高校生限定SNSアプリ。お互いにメッセージのやりとりをする以外に、相性の良い高校生との仲介を行う機能を有しています。 こうした舞台設定が、まず清新かつ現代的。 そこからつい上記SNSあってのストーリィかと思い込んでしまいがちですが、基本はあくまで、普遍的な青春群像劇。 本作には数多くの人物が登場しますが、ストーリィは3人の高校生と中退生を軸に展開します。 1人目は、新見蓉(いるる)。円明学園高校3年生で調理部部長。高校生ペアによる全国料理コンテスト「ワンポーション」でのリベンジを目標にしています。オルタネートには未加入。 2人目は、伴凪津(なづ)。同高校の1年生でオルタネートを信奉し、相性の良い相手との出会いを期待している。 3人目は、楤丘(たらおか)尚志。大阪の高校を中退、かつてのバンド仲間と再びバンドを組みたいと単身上京してきます。中退してしまったためにオルタネートを利用できず。 何故SNSに依存するのか。そこには、自分への不安と心許なさがあるからのように感じられます。 だからオルタネートに頼るのか、逆に頼ることを拒否するのか。 しかし、相性が高いと判定されても、結局は生身の相手と向かい合うしかありませんし、予想外の事態に見舞われたら逃げずに踏ん張るしかない。 また、オルタネートにアクセスできないからといって、あらゆる世界から見放された訳でもない。 結局は本作、人と人との繋がりを、繋がることの難しさ、繋がるためには最低限の勇気が必要である、と語り掛けるストーリィなのです。 エピローグ部分、そして読後感は極めて清新にして爽快。 お薦めです。 ※蓉等々による調理場面、これが楽しい。まさに読み得です。 1.種子/2.代理/3.再会/4.別離/5.摂理/6.相反/7.局面/8.起源/9.衝動/10.予感/11.執着/12.門出/13.約束/14.確執/15.結集/16.軋轢/17.共生/18.焦燥/19.対抗/20.同調/21.不信/22.祝祭/23.胸中/24.出発 |
2. | |
「なれのはて」 ★★☆ |
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本作、一旦読むのを見送っていたのですが、直木賞候補作になったと知って思い直し、読むことにした次第。そして、それは正解でした。 なにしろ、読み始めたところから面白く、ワクワクします。 主人公は守谷京斗。JBCの報道局所属でしたが、何かの事情でイベント事業部へ追いやられたらしい。 その守谷の指導役を買って出たのが入社6年目の吾妻李久美。これまで提出した企画を超保守的な部長に全て斥けられ、守谷の助けを受けて何とか企画をモノにしたい、という目論見。 その吾妻が守谷に見せたのが、祖母の遺品の中にあったという一枚の絵。その絵を一目見て強く惹きつけられた守谷は、吾妻と共にその署名「ISAMU INOMATA」の人物、猪俣勇について調べ始めます。 そして行き着いた先は秋田、石油化学で財を成した猪俣という家族。 そこから、戦前に遡る猪俣家の変遷、太平洋戦争敗戦の前日に行われた米軍による土崎空襲の悲劇、そして<業>というしかない猪俣家の秘密が明らかになっていきます。 ミステリと言ってよいストーリィですが、事件の真相を明らかにするといった索漠としたものではなく、絵の作者がどういった人物であったかを知りたいという関心、何とか絵画展を開きたいという熱い想いにたってのもの。 思わず読み手も、二人の想いに同調させられ、興味を惹かれるままに読み進んでいく、だからこそ楽しい。 また、七章までの間に随時、過去の一時における当時の人物を主人公にした8篇のストーリィを織り込んでいる構成が良い。 明らかになった真相は決して望ましいものではありませんでしたが、長い時を経ての再会場面に感動は尽きません。 読み応えたっぷりの逸品、お薦めです。 |
3. | |
「ミアキス・シンフォニー Miacis Symphony」 ★★ |
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一種の群像劇と言って良いのでしょう。 ただ、一般的な群像劇と異なるのは、章を追うほど、登場人物間の繋がりが増えていく処にあります。 それを示すかのように、各章の冒頭頁には登場人物同士の関係を表した“系統樹”のようなものが掲げられており、章を追うごとにそれは大きくなって(人は増えて)いきます。 各章の主人公はそれぞれ異なりますが、常に登場し、無理矢理関係を創っているような、言い換えると引っ掻き回しているような人物が一人います。それは、西倉まりなという女子大生。 本作の趣旨は、率直に言って分りにくい。それが明らかになるのは、西倉まりな本人が主人公となる最終章になってからです。 彼女は一体何をしようとしていたのか、そしてそれは果たされたのか。 各章毎に様々な愛の形が描かれますが、人と人との関係は恋愛関係を築くことが第一ということではなく、関わり合うこと、繋がり合うことから始まるものではないのか、と思います。 その点で系統樹の変化していく様子は象徴的。 ただ、何となく、こしらえ感が否めず、もう一つ共感できない、得心できない気持ちが残る処が残念。読後感は微妙。 ※なお、題名の「ミアキス」とは、約6,500万年前~4,800万年前に生息していた小型捕食動物で、現在の犬や猫等食肉目の祖先、あるいは祖先に近縁な動物だそうです。 0.白い壁/1.わたしのともだち/2.断れない案件/3.シンボル/4.誰かの景色/5.砂の城/6.愛のようなもの |