柏葉幸子作品のページ


1953年岩手県宮古市生、東北薬科大学卒。74年「気ちがい通りのリナ」(「霧のむこうのふしぎな町」と改題して刊行)にて第15回講談社児童文学新人賞ならびに76年第9回日本児童文学者協会新人賞、98年「ミラクル・ファミリー」にて第45回産経児童出版文化賞、2006年「牡丹さんの不思議な毎日」にて第54回産経児童出版文化賞、10年「つづきの図書館」にて第59回小学館児童出版文化賞、16年「岬のマヨイガ」にて第54回野間児童文芸賞を受賞。


1.霧のむこうのふしぎな町

2.ミラクル・ファミリー

3.牡丹さんの不思議な毎日

4.つづきの図書館

5.岬のマヨイガ

6.湖の国

7.亜ノ国へ

 


      

1.

●「霧のむこうのふしぎな町」●(絵:杉田比呂美) ★★☆ 講談社児童文学新人賞


霧のむこうのふしぎな町画像

2004年12月
講談社刊
青い鳥文庫
(580円+税)



2011/03/13



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小学6年生のリナは、今年の夏休み、父親に勧められて一人で霧の谷を訪ねてやって来ます。
しかし、来ている筈と言われた迎えの人は見当たらず、教えられた山の方へと登っていくといつしか霧に覆われてしまいます。
しかし、霧が晴れるとそこは、霧の谷の町でした。
 
リナが世話になることになったピコティ屋敷の老主人
ピピティ=ピコットは、とても意地悪な言い方をするおばあさん。
生活費は自分で働いて稼ぐのが当然と、リナは早速ピコットばあさんに命じられ、
“めちゃくちゃ通り”にある店に次々と手伝いに行かされることになります。
めちゃくちゃ通りは、春と秋の花が同時に咲いていたり、風変わりな人々ばかりが住んでいたりと、不思議な町。
何故ならば、住人は皆、魔法使いの子孫だったからです。

めちゃくちゃ通りでリナが僅かに過ごした夏休み、ファンタジーな町と住人たちの物語であると同時に、リナの成長物語。
何といっても魅力なのは、風変わりな人たちが皆、心の温かい善人ばかりだからでしょう。ピコットばあさんを除いて。
でも、そんなピコットばあさんも深い味わいがありそうです。

魔法のような霧の向こうの町に分け入って、貴重な体験をすると同時に、ひと夏の成長を手に入れることのできる物語。
きっと、誰でもこの町に行って、貴重な体験を積んでみたいと思うことでしょう。
夏休み、旅、体験、成長、ファンタジーという、魅力的な要素がずらり揃った、夢のように楽しい一冊。お薦めです。

        

2.

●「ミラクル・ファミリー」● ★★★        産経児童出版文化賞


ミラクル・ファミリー画像

1997年05月
講談社刊

2010年06月
講談社文庫化
(447円+税)


2011/05/13


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これは本当に素晴らしい一冊。
家族の温かさが感じられ、ファンタジーで、それも日本の昔話風で、家族というものがとても愛おしく感じられる、9篇の短篇集です。

率直に言って、こんな素敵な家族物語は読んだことがない、こんな素敵な民話風ファンタジー物語は読んだことがない、という感じなのです。
元々は児童向け作品ですけれど、家族物語、ファンタジー物語が好きな方だったら、きっと感激してもらえる作品だと思います。既に講談社文庫化されているので、大人も手に取りやすい作品です。

亡きお祖父ちゃんは狸だったとか、父親が毎年そわそわして会いに行く初恋の人とは? 狸や狐の子たちと人間の子が交流する図書館の話とか、離婚して家を出た知人のお祖母ちゃんは狐? 鬼子母神にまつわる母子の物語等々。
温かさから言ったら、
「ザクロの木の下で」が一番かな。
絶句してしまう話だったら、
「鏡よ、鏡・・・」かな。
とりわけ愉快なのは、腕白小僧だった父さんが唯一勝てなかった相手のことを描いた
「父さんの宿敵」でしょう。

※徳永健さんによる挿絵も素敵です。
 
たぬき親父/春に会う/ミミズク図書館/木積み村/ザクロの木の下で/「信用堂」の信用/父さんの助け神さん/鏡よ、鏡……/父さんの宿敵

            

3.

●「牡丹さんの不思議な毎日」●(絵:ささめやゆき) ★★  産経児童出版文化賞


牡丹さんの不思議な毎日画像

2006年05月
あかね書房刊
(1300円+税)


2012/05/27


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愛犬フレディと別れたくないという娘=、盆栽を手放したくないという夫の勝手な欲求を叶えるため牡丹さんが30年ローンを組んで購入した新居は、廃業した温泉ホテル(築7年)。
ところがその元ホテル、何と幽霊付だったとは!
牡丹さん一家と幽霊の
ゆきやなぎさんの同居生活、また牡丹さん一家が出会う、その鄙びた温泉街で起きる不思議な出来事の数々を描いた、ユーモラスでファンタジーな連作風長篇作品。

霧の向こうの不思議な町とよく似ています。訪れたのが小学生の女の子一人ではなく牡丹さん一家であること、登場する不思議な人たちが幽霊のゆきやなぎさんを筆頭に、極めて日本的な存在であったりすることぐらい違うという程度で。
この温泉町と不思議な存在らが、新しく住人になった牡丹さん一家、その他の登場人物を温かく迎え入れる処に、温泉に浸かっているような温もりが感じられてほのぼのとした気持ちになります。
 
牡丹さん、幽霊のゆきやなぎさん、
宇賀さん、いずれも個性的なキャラクター。中でもゆきやなぎさん、“今時の幽霊”ということで、電子レンジを使って菫のおやつを作るし、昼間も出現、TVにも夢中になるといったところが、愉快。

                       

4.

●「つづきの図書館」●(絵:山本容子) ★★☆    小学館児童出版文化賞


つづきの図書館画像

2010年01月
講談社刊
(1500円+税)



2011/02/07



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読者が物語の続きを読みたいように、読まれた本の登場人物だって気になる読者のその後(続き)を知りたい、というファンタジーな児童向け作品。

主人公の
山神桃は、家族もいない寂しい40代の女性。ところが、それまで一度も会ったことのない伯母が入院したという知らせが届き、桃は伯母の世話をするために生まれ故郷の四方山市に戻ってきます。その桃が勤めることになったのが、四方山市立図書館の下町別館
ところが勤め始めた早々、
はだかの王様が桃の前に姿を現し、青田早苗ちゃんのつづきが知りたい、と大騒ぎ。
各篇、本の中から登場人物が飛び出しては、桃がその読者探しに振り回されるというスト−リィ、4篇。

何より、本好きの盲点を突いたようなこのストーリィ設定が楽しい。
その本に子供たちが深く関わったのにはそれなりの理由があり、そしてその後の彼らが幸せだったかどうかを問う、という展開になっているところが真に秀逸。
同時に、孤独だった桃の心境が次第に変わっていくという、中年成長物語、といった面も魅力です。

最後、本ストーリィが桃自身の救いともなっており、ホロッとさせられます。決して、単に楽しいだけのストーリィではありません。
子供の頃から本好きの方に、是非お薦め!
 
図書館へ、はだかで来てはいけません。/夜の遠吠えは禁止です。/座敷童子だなんて思いません。/幽霊と魔女がなかよしですか?

   

5.
「岬のマヨイガ」 ★★☆        野間児童文芸賞


岬のマヨイガ

2015年09月
講談社刊

(1500円+税)



2015/10/25



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東日本大震災を題材にした児童向け長編ですが、民話ファンタジー要素を織り込んだ処が流石に柏葉幸子さんならではの魅力。

大震災が起きた日、両親を交通事故で亡くした
萌花は大伯父に引き取られるため狐崎の駅に降り立つ。DV夫から逃げ出してきたゆりえは萌花と同じ車両に乗り合わせ、萌花に続いて下車したところで大津波が押し寄せてきたという次第。
 
避難所に身を寄せた2人は身元を聞かれて言い淀みますが、そこを救ってくれたのが
山名キワさんという元気な老女。ゆりえを嫁のさん、萌花を孫のひよりととっさに言い繕ってくれます。
キワさんもちょうど一人暮らししていた遠野を離れ、狐崎の介護施設に入所しにやってきたところ。
思いがけず家族となった3人は、やがて避難所を離れ、キワさんが見つけてきた岬の一軒家に住まいを移します。

キワおばあちゃん&「
ユイママ」&ひよりという3人が家族としての絆を深め、同時に狐崎という土地に根を下ろしていくストーリィは心が温まって十分に嬉しいのですが、それと同時に「遠野物語」的な民話ファンタジーのキャラクターが次々と登場してくるのが楽しくてたまりません。
河童、お地蔵様、座敷童子、狛犬を始め、多くの動物たち。何故そんな存在が姿を現したかというと、津波のおかげで怖いものが目覚め、キワさんが彼らに助けを求めたという次第。

キワおばあちゃんが素敵なんですよねぇ。その孫娘となったひよりは是非キワおばあちゃんの素質を継いでほしいものです。

なお、題名の
「マヨイガ」とは、訪れた者に富をもたらすとされる山中の幻の家のこと、だそうです。
子供の心を今も忘れないでいる大人たちへ、是非お薦め!

※映画化 → 「岬のマヨイガ

              

6.
「湖の国(絵:佐竹美保) ★★★


湖の国

2019年10月
講談社

(1700円+税)



2019/11/10



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家族の中でただ一人オチコボレのミト、高校も中退しヒキコモリ状態でしたが、自分で見つけて介護施設のバイトを開始。
しかし、それも家族から見つけられ外国へ厄介払いされそうになったミトは、介護施設で世話した「
沢井のおばあちゃん」が内緒に買っておいた、と言っていたその田舎の家を目指して家出します。

何とかその家に辿りついたミトですが、その深夜、近くの
北湖から大きなボートが岸に着き、そのボートから降りた人影がこの家に入って来るのを目撃します。さらに、フードをとったその人影は「沢井のおばあちゃん」そっくり。
沢井佳乃から「
ヨシノ」と呼び始めたその正体不明な存在と、ミトとの同居生活が始まるのですが、ミトは次第に親しみを感じ始めるのですが・・・。

ヨシノの正体は何なのか。何のために湖からやって来て、沢井のおばあちゃんに成りすましているのか。
そして、そのきっかけは30年前に起きた信金強盗事件、犯人たちによる田頭屋敷の立て籠もりに関係しているらしいとミトは気づきます。
同時にミトは、この地方では古くから湖の国の存在と、湖の人たちに田畑農作業を手伝ってもらっていたという話があることを知り・・・。

ミステリとファンタジーとサスペンス、さらに人と人の結びつきを合わせて描いた逸品。
前半のミトとヨシノの探偵ストーリィだけでも十分スリリングですが、後半になって湖の国に至るや、ストーリィの奥深さに圧倒されます。
とにかく、ミトとヨシノの不思議な関係、どこか気持ちが通じ合ったのか?と推測する2人の組み合わせがとても魅力的。

児童向けの作品ですけれど、ストーリィの見事さと奥深さ、そして
佐竹美保さんの挿絵も素敵で、大人が読んでも読み応え十分です。

柏葉幸子さん、流石に上手い!
ふと
霧の向こうのふしぎな町を思い出します。同作に較べて本書、大人への成長を遂げた作品と感じます。
大人であるか子供であるかに関係なく、お薦めしたい傑作です。


1.仙崎の家/2.二人暮らし/3.始動/4.田頭屋敷/5.長い一日/6.避難生活/7.東湖/8.帰ってきた人/9.鬼となる/10.三十年前/11.追っ手/12.湖の底/13.あおのばば様/14.祝い/15.松むかえ

                 

7.
「亜ノ国へ−水と竜の娘たち− ★★


亜ノ国へ

2021年07月
角川書店

(1700円+税)



2021/08/03



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バツイチ女性による異世界での冒険エンターテインメント。

不妊治療中、何と夫の浮気相手が妊娠、離婚して実家に戻ってきた
朴木塔子が主人公。
母の従姉である
ひらめちゃんから遺産相続した家で見つけた祖父のトランク、その直後、塔子は異世界へ移行してしまう。
そこは、魔力を持った<
亜ノ国>の民が支配する世界。
そこでの塔子は“
まれ石”と呼ばれる存在らしく、「ハリ」と名づけられて<六祝様>に選ばれる儀式に挑む6歳の少女=ムリュの世話役に任じられます。

待ち受ける試練、何者かによる悪計・・・ムリュに限りない愛情を覚えたハリこと塔子とムリュの2人は、それらの困難をどう乗り越えていくのか、という冒険ストーリィ。

ただ、何故塔子は異世界に転じたのか。塔子同様、読者もそれが分からないまま異世界での冒険を共にしていくことになります。そして最後、それらの全ての謎が明らかになった時、拍子抜けというか、いやいややはり面白いというか、ちょっと微妙な面白さを味わった思いです。

ファンタジー冒険ゲームの夢から醒めた、というに似た読後感。
でもそれぞれのキャラクター(特に滞在屋敷の管理人である
家守が格別)が際立っていますから、充分面白いです。

1.百歳の人/2.家の中の石/3.まれ石/4.柳屋敷/5.準備/6.脅し/7.六祝の儀/8.竜の子/9.スズエ様/10.まれ石の時間/11.ジュタ/12.二人の小鬼/13.ムリュ

      


   

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