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1.ピカルディーの三度 2.女の庭 3.黄金の猿 4.来たれ、野球部 5.冥土めぐり 6.ハルモニア |
●「ピカルディーの三度」● ★ 野間文芸新人賞 |
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2007/10/11
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<恋愛の究極>を描いた短篇集とのこと。 たしかになぁ・・・・尋常の恋愛ではありません。 「美しい人」は15歳の妹の兄に対する恋情ですし、「ピカルディーの三度」は音楽の個人教授に対する教え子の恋情・・といっても男性同士。 「俗悪なホテル」は、田舎の小さなホテルで働く少女の恋情にふれ伏すか自殺するしかないと自分を追い詰めた青年の話。 「万華鏡スケッチ」もまた、ハナとジュンという近親相姦関係の2人が主人公となる篇。 その中でも中篇「ピカルディーの三度」に何と言っても驚かされます。2人が出会う冒頭からスカトロなのですから、事前に知っていたとしても唖然としてしまうのは当然でしょう。 鹿島田作品を読むのは本書が初めてで面喰ったまま読み終えてしまいましたが、以前から鹿島田作品を読んでいる方であれば、また違った感想になるのかも。 美しい人/ピカルディーの三度/俗悪なホテル/万華鏡スケッチ/女小説家 ※“ピカルディーの三度”とは、短調の楽曲の最後がその調の主和音ではなく同主調の主和音で終り、和音の第三音(三度音)を本来よりも半音上げる、その結果短調の暗い音響が最後だけひときわ明るく響くことになるということらしいのですが、門外漢の私にはチンプンカンプン。 ※「スカトロジー Scatology」とは古代ギリシア語で糞便を意味する「スコール」と談話集などを意味する「ロギア」の合成語で、糞尿に対する研究・考察を意味するとのこと。 |
●「女の庭」● ★★ |
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2009/02/27
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「女の庭」は、子供のいない専業主婦が主人公。 公園で母親たち中心の井戸端会議では、とかく話題に入り込めないのは仕方ないというもの。そんな主人公が住むアパートの隣室に越してきたのは、外国人女性のナオミ。 時間を持て余している割りに社交的ではない主人公、いつしか隣の物音に耳を澄ませ、ナオミの様子を窺うようになります。 その度合いがエスカレートしていく様子を見るに、主人公が想像するナオミの状況は、結局彼女自身の投影に他ならないのではないかと思います。 いけない、危険だと頭の中では判りつつも、ぽっかり空いた穴にどんどんはまり込んでいくような感覚に襲われます。 ごくありふれた日常を、自らの人格が分裂していくような、心理サスペンスの様相を纏わせながら描いていく。この辺り、鹿島田さんは実に上手いです。 「ピカルディーの三度」と異なり、恐れを感じつつも素直に読み通せたことに素直にホッ。 「女の庭」をすんなり読めたことに安心していたら、次の「嫁入り前」、訳が判らず、頭を抱えたい気分。 女の庭/嫁入り前 |
●「黄金の猿」● ★ |
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2012年10月
2009/08/18
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せめてもう1冊くらい鹿島田作品を、と思っていたのですが、「ゼロの王国」は相当な長篇作品なので敬遠。むしろ短篇集の方が読みやすいかと思って手を出したのが本書。 出版社の紹介文によると、「鋭くユーモラスで変幻自在」、「男女の心の襞を磨き抜かれた言葉で描く」、「森の中にある瀟洒なホテルのバー“黄金の猿”に集う男と女。そこで繰り広げられる愛と性についての妖しい言葉」「上質の酒に酔うような読後感」とあるのですが、正直に言ってまるで判らず。 冒頭の「もう出ていこう」は具体的なストーリィだったので、すんなり読めましたが、「ブルーノート」は私が苦手なかなり観念的なストーリィ。 好みに合う、合わないという以前に、どこがどう面白いのか判らなかった、の一言。 もう出ていこう/ブルーノート/ |
4. | |
●「来たれ、野球部」● ★★ |
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2014年03月
2011/10/19
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表紙はこれぞ学園ラブストーリィといったアニメ画、一方ストーリィの主要素は高校、幼馴染の2人、成績優秀の上に野球部のエース、女子の方は対照的に目立たない子といったもので、典型的な学園もの青春&恋愛ストーリィに他ならないといった観があるのですが、そこは鹿島真希作品、ありきたりの学園ストーリィにはなりません。 本作品では、誰であるかが明記されまま、一人称の語り手が目まぐるしく変わります。主人公というべき宮村奈緒、喜多義孝、若手熱血教師の浅田太介に、ベテランの音楽教師である小百合と。 アンチ・学園もの青春&ラブストーリィかと思うのですが、よく考えてみると本書こそ高校生の本心、本質を突いているストーリィなのではないかと思えてきます。つまり、迷いがあって、自信がない、というのは当たり前であるということ。 |
5. | |
●「冥土めぐり」● ★★☆ 芥川賞 |
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2015年01月
2012/09/19
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華やかだった頃の生活を忘れられず、自分たちは何の努力もしないままに偉ぶり、大事にされて当然と自儘に生きている母と弟。そんな2人から逃げ出すため奈津子は、母親が望むのと全く対照的な男性である区職員の太一と結婚します。しかし、その太一は結婚後脳の発作を何度も繰り返し、現在は障害者。 自分たちのことしか考えない母親と弟に振り回され続けた過去の生活と現在の生活が、対照されるように描かれます。 もう一篇の「99の接吻」は、Sという男の出現によって仲が良かった筈の姉3人の調和が乱れていく様子を末妹の視点から観察した篇。この篇もまた微妙な面白さあり。 冥土めぐり/99の接吻 |
6. | |
「ハルモニア」 ★★☆ |
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2013/10/29
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首席で音大に入学した才能に満ち溢れるナジャと、二浪してやっと音大に入学した後もバイトに明け暮れるトンボこと「ぼく」。 ストーリィは主人公である「ぼく」の視点から、ナジャを「きみ」として、語りかけるように綴られていきます。 とても快い。主人公が音楽を作り出していくその過程にも興味尽きないのですが、まずは音楽の旋律に委ねるかのような語り口が一番の魅力。音楽の旋律のように繰り広げられるラブストーリィの所為か、どこにも無理がなくとても自然体。だからこそ、ひとつひとつに美しさと快い響きあり、と感じます。 「砂糖菓子哀歌」は、自らの感情や恋人等々との関係を様々な菓子に模して語った短篇作品。これもまた面白い趣向の一篇です。 ハルモニア/砂糖菓子哀歌 |
「選ばれし壊れ屋たち」 ★★ | |
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デビュー作を刊行したものの、2冊目執筆に苦闘中の新人作家=三崎小夜こと見崎沙代子が主人公。 自信過剰男の元カレ=北川哲也や、自信過少女のツバサ先輩に振り回され、勉強だとボーイズラブ新人賞の応募作を数多く読まされながら担当編集者の金子宗司に尻を叩かれてと、新人作家は楽ではないなァ。 さらに奇矯な振舞いの多い漫画家=氷川だりあが登場してくると、沙代子の混乱はますます増えるばかり。 言葉で明瞭に説明することは難しいのですが、登場人物ひとりひとりが各々それなりに奇矯であり、思わず笑い出すなんてことはありませんが、なんとなくユーモラス、どこか可笑しい。 登場人物の中で傑作なのは、自信過剰男の北川哲也。 何の根拠もなく、何の実績もないのに、自分をアーティスト、クリエイターと名乗って憚らず、平気で他人を巻き込んでいるのが常。カルカチュアされていますが、現代社会においては、いる、いる、こんな奴!という感じ。 また、沙代子が度々バイト先で出会う、氷川だりあという作家像も見逃せません。自分勝手で奇矯な振舞い、言動。しかし、作家なんて稼業はそれぐらいのことは大したことないと平然としている位ではないと、やっていられないのかもしれません。 何処からか、作家の本音が聞こえるような気がした処に興味尽きず。 1.不死身の偽教祖/2.ぶれないツバサ/3.クマちゃんの審美眼/4.ダイヤモンドダストの原石/5.選ばれし壊し屋たち/6.正論と混乱 |