岩井三四ニ
(みよじ)作品のページ


1958年岐阜県生、一橋大学卒。会社勤務を経て96年「一所懸命」にて小説現代新人賞・歴史群像大賞、2003年「月ノ浦惣生公事置書」にて第10回松本清張賞を受賞し、作家活動入り。同年「村を助くは誰ぞ」にて第28回歴史文学賞を受賞。

 
1.
難儀でござる

2.清佑、ただいま在庄

3.踊る陰陽師

  


     

1.

●「難儀でござる」● ★☆


難儀でござる画像

2006年07月
講談社刊

(1600円+税)

2009年03月
光文社文庫化

     

2007/02/16

 

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対する相手は主君、天下人、高僧いろいろあれど、凡人である自分の身からすれば所詮宮仕えはシンドイもの。難儀なことも多かりし、という内容の8話を収録した戦国歴史もの短篇集。

難儀だと感じてみれば、戦国時代であってもそこは現代サラリーマンに通じるところは多い。本書の面白さはそこにあると言って良いでしょう。
主人公ではないものの、登場する面々は層々たる歴史上の著名な人物ばかり。
武田信直(後の信虎)、松平竹千代(後の家康)、織田信長、稲葉一鉄(美濃三人衆)、武田勝頼、快川老師、京極高次、等。
そんな顔ぶれが揃ってみれば、面白話という一方でちと変わった角度から戦国日本史を眺めている気分になります。
そして読了後改めて本書を振り返ってみれば、そのとおり意図されたものであろうことが改めて感じられるのです。

歴史上に名を残すくらいの著名人物であればいざ知らず、それに仕える家臣等々は所詮凡人に過ぎません。
一生懸命仕えるのはシンドイことも多い、という彼等の思いについ親近感を誘われ、可笑しさがこみ上げてきます。

なお、「山を返せ」に登場する三郎兵衛の年上女房・おあきのひとことが実にお見事。
「酔っぱらいの言うことをとりあげて、湯治の最中でも百姓のために裁きをつけたお屋形さまは偉いと思う。ありがたいことだが、それとお屋形さまが強い大将であるかどうかは、まったく別の話」「やさしいお屋形さまだからといって、命を捧げるほどのこととは思えない」と言う。
三郎兵衛共々、女性の直感とは凄いものだと思った次第。

二千人返せ/しょんべん小僧竹千代/信長を口説く七つの方法/守ってあげたい/山を返せ/羽根をください/一句、言うてみい/蛍と呼ぶな

    

2.

●「清佑、ただいま在庄」● ★☆


清佑、ただいま在庄画像

2007年08月
集英社刊

(1800円+税)

2010年09月
集英社文庫化

   

2007/08/25

 

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室町後期、逆巻庄という荘園の代官として赴任してきた清佑を主人公とする連作短篇集。

代官といってもこの清佑、幼い頃に寺へ入って以来ずっと寺で学び暮らしてきた若い僧。
そんな清佑が何故代官?というと、逆巻庄が京にある大寺が所有する荘園だった故。
そんな清佑があれこれ難題に直面しながら、なんとか代官を務めつつ成長していくストーリィと思い込んだのですが、実は清佑の出番そう多くはない。
荘園の百姓たちを代表して役人(「公文」)を務める三郎や、清佑が京から連れてきた中間の与六、父親が盗みで処刑され幼い弟妹をかかえて苦労する若い娘おきぬ、荘園の百姓たちが代わる代わる主人公を務めます。
そのため、当時の荘園運営の様子、百姓たちの困窮ぶりが、本書全篇を通して浮かび上がってくる気がします。決して清佑ひとりのためのストーリィではありません。

清佑も瞬く間に成長の跡を見せますが、それより印象的だったのはおきぬのこと。
まだ年端もゆかぬというのに、安い賃金で働きながら自分と弟妹の生活を必死に一人で支えている娘。世間にもまれ、僅か1年間で急に逞しく成長した姿をみせるおきぬは、主役の清佑をかなり喰っています。

それにしても雨乞いのため奥の院へ参るという風習が、実は我が身をオオカミの餌として差し出すことに他ならなかったという話しには、本来笑い事ではない筈なのですが、ついクスッと笑ってしまいます。
また、湯女が2度目のお相手を回避しようと客に公事の仕方を指南するとか、本書の所々に思わぬ笑いが散りばめられているところが楽しい。
それなりに楽しめる、連作短篇形式の時代小説です。

吉書始め/沙汰付けを所望/起請をとる/貝合わせ/ばくち宿/刀盗人/湯女の公事指南/つくり沙汰/鹿の首/嵐のあと/徳政条々/オオカミ狩り/合戦

      

3.

●「踊る陰陽師−山科卿醒笑譚−」● 


踊る陰陽師画像

2008年04月
文芸春秋刊

(1476円+税)

 

2008/04/25

 

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軽く楽しめるユーモラスな時代小説・短篇集。
舞台は京の都、時代は室町末期です。

中級公卿の権中納言・山科言継(ときつぐ)とその青侍(=公家の奉公人)である大沢掃部助の2人が、京の庶民らが抱える難儀に首を突っ込み、何だかんだと騒がせつつも一件落着させる、という滑稽譚。
特段の展開がある訳でなく、インパクトも余り感じられないものの、室町末期の小庶民の様子が生き生きと、面白おかしく描かれているところがミソ。その辺り、いつも通り岩井三四ニ作品の味わいです。

まずは流行らず食い詰めかけている陰陽師の熊大夫が登場。掃部助にのせられたた挙句やけになって踊りながら祈祷をあげたところが、思いがけず評判を呼んで忙しくなりますが・・・・。
その他、婀娜っぽい女曲舞芸人に振りまわされる座元、山科家の雑色(=下人)になった百姓の倅、美人の女房に惑わされる蹴鞠の演者、侍を止めようと次の職を探す侍と、多彩な人々が登場して、京の都という舞台を賑わせます。

※なお、山科言継は実在の人物で、今川義元や織田信長など多くの戦国大名との交流で知られており、本書はその言継の日記「言継卿記」がヒントになっているとのこと。

踊る陰陽師/日本一の女曲舞/雑色小五郎の逆襲/鞠を高く蹴り上げよ/天下無敵のだんまり侍

  


  

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